第3話
オレは騎士に連れられて、警察の取調室みたいな隔離した部屋に案内された。
座らされた椅子の前にある机の上に、ハンドボールぐらいの大きな水晶、高校生グループの誰かが落としたハンカチ、見慣れないハンドバック、私の仕事用ショルダーバッグが置いてあった。
正直状況はよくわからない。
「審問を執り行います」
「審問?」
オレが聞き返すと、質問の答えは無かった。
正面の席に座った男が、質問を始める。
「このハンカチはあなたの物ですか?」
「違いますけど」
「では誰の物ですか?」
「先ほどの高校生グループの誰かが落としたので、オレが拾ったものです」
オレがそう言うと、正面の男は後ろの誰にアイコンタクトを送る。
すると、後ろの男が部屋を出て、また沈黙が訪れた。
「審問と言う事は、何かの疑いがあるんですか?内容は教えてもらえますか?」
オレは何度か正面の男に聞くが、沈黙以外の答えはない。
しばらくして、部屋に男が戻ってくると、質問をしている男に何かを耳打ちする。
「なるほど、あなたは噓つきのようです」
「はぁ?」
「このハンカチの所有者は、勇者様の中には居ないそうです」
「え?」
オレは驚く。
でも、確かにこのハンカチは彼らのグループが落とした物だ。
少し遠くだったから、誰かと言うのは確実では無いかもしれないけど、ハンカチを落としたのは見た。
どういうことなのかさっぱりわからない。
「もう一度、確認いたしますがハンカチはあなたの物ですか?」
「違います」
状況が分からないが、オレは正直に答える。
正面の男は机の水晶を眺めながら、何かを考えているようだ。
「そもそも、あんたらが呼び出して来たようなのに、なんでオレだけ扱いが変わるのか意味不明だ」
オレは強い口調で反論するが、質問をしている男は無視して、後ろの男に何かを指示する。
「この審問であなたの罪が証明されました」
「はぁ?」
「ハンカチは存在が違法の為、浄化による焚き付けで処分、ハンカチを所持した罪の為、あなたはこのまま国外退去とします」
「え?なんで?」
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ブルルルルル ブルルルルル
地面に置いた砂時計の振動音で、オレは目を覚ますと、砂時計は砂が落ち切っていた。
食事の後片付けをして、ごみや水筒を教会マークのバックパックに詰め込む。
特に言われたことは無いけど、ダンジョンでもポイ捨ては厳禁だよね。
自前のポーチから砥石を出すと、剣の刃を目で確認して甘くなったところを確認しながら、全体的に研ぐ。
武器の手入れ方法は初心者講習で教わった事だ、ダンジョン探索が主なのに、キャンプの心得や自炊なんかも教わっている。
そんだけ、サバイバルな仕事なんだろうなぁ。
「もうやるのかい」
奥に居たアトレアが声をかけてくる。
「あとノルマはどれぐらい?」
「んー、常が30に凡が100ちょいって所だから、ノルマは乗ったし、粗もあるから問題ないよ」
「分かった、探知に手頃そうなのがさっきの半分ぐらい居るから、それを狩ったら上がろう」
「あいよ。ツーマンセルで勤勉なこったね」
オレは愛用の砥石と砂時計をポーチにしまって立ち上がると、釣れそうな反応がある方へ歩き出す。
狩りは順調で油断はないが、それでもダンジョンは基本的に事故が起こりやすい。
そろそろ最後かと思った群れを釣ると、気配探知にスポーンした強い反応が紛れ込んだのを感じた。
探索中の狩りで、モンスター引き付けた瞬間に、強いモンスターと入れ替わって報酬が良くなる現象を【レアパック】と呼ぶ。
狩場ガイドには25階層はレアパックが混じる割合が少し多いと書いてあった。
強化候補は群れの何体かがレイスかスケルタルナイトに変わる。
ソロで対峙するならまず負けは無いと思うが、群れが相手だと怪我が怖い。
すぐに広場の廃墟に引き返すとアトレアに合図を送る。
「なんだい、しくじったかい」
「ああ、レアパック引いた。少し間引きできる?」
「あいよ、魔法は向こうさんがこっち向くから、弓しか打たないよ」
「わるいな、それならゾンビは任せる」
短いコンタクトを取ると、アトレアは弓を構える。
釣り場から距離があったので、ゾンビの到着はかなり時間差があると思う。
気配探知で遅れている反応は3つ、固まって移動してきている反応が4つだ。
「おそらくスケルタルナイトだ、スケルトンが4、ゾンビが3だ」
「あいよ、スケルトンは持てそうかい」
「大丈夫だとは思うけど、弓持ちが居ないとは限らないから回復あると助かるね」
「あいよ、あたいは獲物が相性悪い。スケルタルナイトだと迂闊に補助も出せないから気張ってくれよ」
アトレアは敵がやってくる方向確認したようで、待ち伏せ場所と射線が混じらないように位置替えたようだ。
しばらくするとスケルトンがやってきた。
だが、良くない事態が起きる。
「おい、全部スケルタルナイトで先頭の1体は金のジェネラルじゃないか?」
「わるいね、回復薬置いとくから、私は退散するよ」
アトレアは、スケルトンの群れを見て、すぐに逃げる準備をする。
革製の協会マークが入ったポーチを見せて廃墟の壁に置くと、そのまま気配を消して逃げていく。
オレは足元に能力アップの技能を感じたが、面倒な事態に舌打ちしてスケルトンと対峙することにした。
スケルトンは分かりやすい見た目の特徴があるモンスターだ。
スケルトンは基本的に鉄か木製、戦士級は黒っぽい色、騎士級は銀色、将軍級は金色の装備をしている。
本来なら30階層以降の【探索層】と呼ばれる、熟練者パーティー向けの狩場に居るモンスターだ。
剣と盾の装備のスケルタルジェネラルは、広場の前で立ち止まると、オレに向かって自分の剣と盾を交差させてポーズを取る。
背後には剣と盾を持ったスケルタルウォーリアが2体、弓を持ったスケルタルアーチャーが1体が待機する。
「けっ、複数対ソロなのに決闘の礼ってか」
オレはそれには答えずに、ポーチからスリンガーを取り出すと、密度の高い魔鉄球をアーチャーに向かって放つ。
素早い弾速に、アーチャーは反応できずに鉄球が頭蓋に当たって霧散した。
その様子を見て、3体のスケルトンはオレに向かって突進してくる。
これだとゾンビも強化している可能性が高いので、オレは危険を感じて突進を無視し、広場の廃墟に逃げ込む。
反応を確認すると思ったよりもスケルトンたちの移動速度は速くない。
逃げるついでにアトレアが置いて行ったポーチを回収すると、さらに広場の周りの廃墟に逃げ込む。
この間に視線が切れたので【気配遮断】の技能を使うと、スケルトンたちはオレを見失ったのかきょろきょろしだした。
スケルトンたちの様子を伺いながら【気配察知】をしていると、後方に居たはずのゾンビたちの気配が消えていることに気付く。
ヤバいなと感じて移動を何度か繰り返すと、オレが直前まで居た所でボンボンと炸裂音がして、スケルトンたちはそれに気付いて向かって来た。
【気配遮断】でスケルトンたちはごまかせたが、ゾンビと言うかほぼ間違いなく強化されているゾンビたちはオレの気配を感じているようだ。
だが、今の魔法攻撃でゾンビの気配も捉えたので、オレは反撃の為に一気に詰め寄ると、肌が黄色に光るゾンビを1体発見する。
黄色に光るゾンビは、特徴が一致するのでワイトで確定だ。
ワイトは遠隔の魔法攻撃と索敵が得意だが、近接攻撃は毒や麻痺などのキバやツメが無いのでゾンビよりも弱い。
「臭うけど、毒はないしな!」
オレは発見したワイトの頭を飛ばして霧散させると、魔石を回収してすぐに広場の方に向かう。
スケルトンたちは相変わらず気配が探知できないようで、先ほど爆発があった位置でうろちょろとしているようだった。
この場でスケルトンたちに見つかると、ワイトと連携を取られて不利に追い込まれるのは間違いない。
移動の遅さを逆手に取って、ワイトを始末してから、スケルトンを遠隔攻撃で仕留めることにした。
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