誰にでも義理チョコを配る学園のマドンナから本命チョコをもらう話
ジャムシロップ
学園のマドンナと本命チョコ
二月十四日。多くの男子が期待に胸を躍らせるバレンタインデー。
お昼休みの教室は、そわそわと忙しない空気に包まれていた。
「──おいおい、あの桂綾乃がついに本命チョコを!?」
「──あ、相手は誰だよ!」
「──な、なあ、あれもしかして藤沢じゃね?」
周囲でそんな声が。机に突っ伏していた俺――藤沢優斗はびくりと肩を震わせた。
あの桂さんが俺に本命チョコを?
ありえない。きっと何かの聞き間違いだ。
そう思って顔を上げると、目の前に信じられない光景が広がっていた。
「あ、あの、そのっ……ふ、ふふふふ藤沢くん!!」
「か、桂さん!?」
学校のマドンナ的存在で、男女問わず人気の美少女――桂綾乃さんが、まさに俺の目の前に立っていたのだ。
そして彼女は凄い勢いで俺の名前を呼ぶと、慌てて両手に抱えた紙袋の中からひとつ、小さな箱を取り出してそれを俺に差し出してきた。
「こ、これ……う、受け取って?」
一瞬、静まり返る教室。そして……。
「「「「「「ええええええ!?」」」」」」
周囲に驚愕の声が響き渡った。
手にひんやりとした箱の堅い感触。
俺はそれを見つめながら呆然、冷えたチョコのように固まっていた。
(桂さんが俺に……いや、俺だけに……? こ、これはどういう?)
頭にあったのは、有名な話。桂綾乃が『義理チョコ量産系女子』であるということ。
毎年バレンタインには、学年規模で男女問わず多くの人にチョコを配っている。それはもはや彼女にとっての恒例行事のようなものだった。今日だって、朝からチョコ配りで大忙しだったみたいだし。
だから、そう。
普通なら俺に手渡されたコレも、義理チョコであるのが当然と考えるべき。
けれども、まるで公開告白であるかのようなシチュエーションで。今目の前にある手渡されたチョコはどう見ても、他の人に配っていたそれとは違っていて。
何より丁寧なラッピング、手作り感のある可愛らしい小箱は、まさにそれが特別なものであることを物語っていた。
(これ……本命……だよな、きっと)
心臓の鼓動が早くなる。
時を同じくして、思考は自分への卑下へと切り替わる。
俺という地味人間には当然の回路だ。
(俺は地味で目立たないし、そもそも桂さんとはまともに話したこともないのに……な、なんで俺なんかが……?)
「え、えっと……藤沢くん」
「あ、ありがとう桂さん! 凄く……凄く嬉しい……!」
突然のことにわけもわからず、だけどこの気持ちだけは正直で、確かで。
俺は満面の笑みで礼を言って、チョコを胸の前で大切に抱いた。
せっかく、みんなの前で緊張の中、手渡してくれたチョコ。ちゃんと喜ばないと、受け取った自分の気持ちを示さないと、彼女の勇気に対して不誠実だ。
「……うん」
桂さんはそんな姿を見て満足したらしい。それから「またね!」と言って、颯爽と去っていく。
残された俺は、周囲の男子たちの嫉妬に満ちた鋭い視線を浴びる羽目になった。
「……おいこら藤沢ぁ! どういうことだ、あぁん?」
「お、お前……桂さんとそんな関係だったのか?」
「ズルい! 俺たちは義理なのに、よりによってお前が桂さんから本命なんて!」
「な、なんで藤沢が……」
「わっかんねー……」
混乱するものも多数。
(俺が一番混乱してるんだけどな……)
こうして、一つの疑念と共に、年に一度のバレンタインが幕を開けた。
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