第三話「雪降る国に生まれて」


         

「第二仙台の朝」


 東北地方、旧仙台都市圏に構築された巨大城塞都市「第二仙台」


 その都市の防衛に彼は従事していた。


 午前五時ちょうど激しいアラームが鳴り目覚める。


 疲れの抜けない男の顔が瞑った目がひび割れじみて開いて行く。


 獣眼が小さな世界を見つめる。


 がらんとした部屋。


 ひび割れたコンクリート打ちっぱなしの無機質な平面世界。


 窓外は暗い。


 そいつはベッドから起き出しアラームを止める。


 食事を合成栄養携帯食で済ませ、シャワーを浴び前日の血油ヘドロを流していく。


 武装の四トン戦斧は所属する自警団兵器ロッカーに預けていた。


今の彼は非武装で自室をランニングシャツと短パンで過ごす。


自警団の送るメールをチェック。


本日の業務を確認するとコーヒーを淹れゆっくりと一息をつく。


 歯を磨き鏡の前の自分を見つめる。


 疲れて痩せ頬のこけた顔に骨太の顔骨格。


ほうれい線が鋭く顔を走り横一文字に大きな切り傷が跡で黒々と残り鼻と頬に横ラインを形作る。


耳は片耳が途中から切れ落ちている。


 顎髭が生えない細い顎に手をやり言葉を漏らす。


「しけた面だ」


彼は靴下とカーゴパンツを履く。


ランニングシャツの上から防刃服を着込む。


ジャケットを羽織ると灰色都市迷彩コートを着込む。


装甲化ブーツを履きベルトロック構造のフィット装置を操り足に装備。


ベッドの壊れかけラジオのスイッチを入れる。


―――、本日は冬精霊が機嫌を損ね積雪十四メートルの雪が降るでしょう、皆様防寒雪装備の魔力バッテリーにお気を付けください。では次の番組DJレッドの選曲・「バーニアコンカラー」をお聞きください。では皆様さようなら……。


ハードロックの過激高速ビートの歌唱とがなり立てる楽器。


曲の音色をラジオより聞き流す。


―――武装と音楽―――


彼は硬質な丸テーブルに置いている四十ミリ四連発輪弾倉砲十二キログラムを手に取る。


ボアクリーニングとトリートメントを実行。


程よい時間で整備を切り上げる。


ロッカーに行き魔法のアイテムポーチから弾薬を取り出し装填。

 

タングステン弾芯の徹甲弾三発と魔道榴弾一発を輪弾倉砲に装填。


二メートル五十センチの彼に合わせ設計された土井ネット工房謹製だ。


土井六型輪弾倉砲は彼の手に納まると洗練された大型拳銃のようなサイズ比で収まる。


弾薬詰めた魔法のアイテムポーチを漁り残弾を数え上げる。


いくつかの弾薬を腰の肩掛けガンベルトに装填。


コート下のズボンに輪弾倉砲を装備しコートの前を止めた。


ラジオではピアノ楽曲を珍しくDJレッドは採用してベートーベン作曲「月光」の改変された即興曲の激しく素早く美しいピアノ曲を流し始めた。


彼は気に入り、携帯型二センチの機械をポケットに入れる。


魔道式音楽プレイヤーは彼に音楽をもたらした。


バッテリー充填一回で半年動く。


その再生リストに「月光」を登録。


原曲と即興曲、両方だ。


金を魔道ネットの通販サイトに電子マネーで支払った。


移動の準備が終わる。


ネット接続携帯端末をスリープ。


腰の装甲ポーチに保護して収め携帯食料と水筒を収めた肩掛け鞄を装備。


曲に散財したため本日より二週間味の無い合成栄養食しか食べられない。


が、砂糖と粉ミルクとコーヒーの備蓄は十分な為、少し機嫌よく外に向かう。


「スラムと装甲列車」


外の世界。


第二仙台は、地上部分が軍事設備とスラム化した商店街と住宅街が延々と広がる。


軍人以外の真面な住民はスラムの地下に広がる世界に暮らす。


真面な住民は四千万人口を受け止める清浄な湖付循環地下都市に暮らし滅多に危険な地表に姿を現さない。


職場に向かう道のりで武装化装甲列車に乗り込む。


多くのサラリーマンと工員とスラム住人に嫌そうな視線を向けられ彼は俯く。


―――冬精霊討伐命令—――


そのまま自警団詰め所に向かうと、同僚のホッジスに話しかけられた。


「聞いたか?」

「何が?」

「今度の討伐対象は冬精霊だ」

「自警団から大勢死ぬぞ」

「討伐を諦めれば地下市民にまで被害が及ぶ、現段階でも地上都市のスラム住民が死に続けている」


俺は舌打ちする。

冬精霊を俺は殺せない、冬精霊は強大すぎる。


奴は年々強大化を果たし都市の熱源を凍結するに至っている。


俺のような半端な近接兵ではなく本格的な魔道兵士が居なければ撃破は愚か撃退も不可能。


そしてこんな辺境の自警団に魔道兵士は居ない。


糞ったれな都市防衛軍が貴重な魔道兵を動員してちんけな自警団に増援を送るとも思えない。


それだけ、冬精霊の不機嫌は毎年の事だった。


「どこのどいつがそんな糞ったれな判断を下したんだ?」


俺は聞きながらコート脱ぎロッカーに預けた。


内部の戦闘服と指定防寒装備に着替える。


ホッジスは背後で諦めた声を上げる。


「白王様の判断だ」


 驚きに彼は眼を見開く。


―――、白王の影、―――


 白王。


この異名持つ軍人は第二仙台都市から遠い東京の将軍である。


名を「九曜早高」といった。


東京軍令本部に詰める前は、各地の魔物戦線を渡り歩きバスターカウントで不動の記録を達成した超級ソルジャー。


その正体は東京地下都市の最先端戦闘生命培養槽から出て来たメタモルフォーゼと言われる。


白王様は、曰く付きで噂にまみれたバトルクイーンともバトルキングとも呼ばれている。


性別不肖の大将級将官。


そんな人物が何故辺境中枢にそんな無理を言い出したのか……


一自警団員の俺には意味不明だった。




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