23話


ナナトはジャングル地帯を必死に駆け回っていた

背後からはすでに大量の魔術が迫ってきている


時は数分前に遡る

ナナトが草をかき分けて進んでいると先に激しい戦闘の音が聞こえる

どうやら複数人でチームを組みつつ戦闘をしているようだ



「影潜り」



再び陰に潜って様子を窺う



「おいナナトォ…あれはアリなのかよォ?」


「チーミングだな…基本的にゲームでは禁止されてるんだが…ここじゃ不正にならないみたいだな…まぁ禁止されてないし認めざるを得ないな」


「なんだか理不尽なもんだなァ…まァ俺達には関係ないか」


「いや、今はこの状況がありがたいぜ。俺でも倒せそうだ…

ネロ、やるぞ」



そういってナナトは影上半身を出してネロを開く



「あれだな?お前の血、もらうぜェ」


「あぁ、もってけドロボウ」


「ギャハハ!」



ネロにガブッと噛みつかれて鮮血が飛び散る


血は凝固し鋭く尖ったダガーを作り出しナナトの手に落ちる

強く握ると同時に戦闘を行っている場所に影の中を伝っていき、背後に回る



「オラぁ!なかなか倒れないn…」


「ん?どうし…た……は?」



ある者は首を掻き切られ、またある者はあっけに取られている間に背後を一突きされた

前しか見ていなかったメンバーも異変に気付く



「おい、お前ら待て!!漁夫りが来たぞ!!うわッ!!」


「へへッ、よそ見してんじゃ」ザクッ



一人、また一人と斬りつけていく

先ほどまで戦っていたプレイヤーが消えていき、違和感を感じたのだろう



「あいつだ!追え!ぜってぇ潰す!」


「ちっ…」



ナナトに気づいたプレイヤーが号令をかける。

流石に多対一は分が悪いと判断し離脱を図るナナトだが、そう上手くはいかない

木々を縫うように走るが回り込まれてしまう。

後方に大量の魔術、前方には待ち構えるプレイヤー



「おいおいナナトォ…こいつはちとまずくねェか?」


「あぁ…ちょっと調子に乗りすぎたな。抜けられそうにない。」



先ほどまで争いあっていたチームも一つになってナナトに襲い掛かる。

ナナトはこの絶動的な状況の中でも打開することができるかを考えていた。



(スキルが使えれば…いや、今はたらればで考えるべきじゃないな。目眩まし…弾幕で終いだ。…くそっ、俺もサラ姉みたいに色々使えれば…)


そうこう考えている間にも敵は迫ってくる。


(影潜りも潜るまでに時間がかかりすぎる……そうだ!)



「闇纏」



ナナトの体を闇のように暗く、黒くしていく魔術を使って木陰に息を潜める

敵の魔術を撃つ手は止まり、ナナトの姿を見失う…







なんてそんな都合のいいコトが起きるわけがない


「いたぞ!」


依然ピンチに変わりないナナト、木に寄りかかっている背後で敵の放った魔術がぶつかって大爆発が起きる。



(こんなのに当たったら即死だな…ははっ、まだまだ詰めが甘かったな…)



にやけ面で近づいてくるプレイヤーたちを見ながらそんなことを思っていた


しかしナナトは幸運であった。先ほどの爆発が起きた方からまばゆい光を放ちながらこちらへ接近してきた一人のプレイヤー。突然ナナトの前に現れたその人物を見て狼狽えるチーミングプレイヤーたち



「やぁ、僕も混ぜてよ」


「お前は…『閃光』のライト!?」



大爆発の先にいたのは、MFOの最前線を行くクラン『閃光』のリーダーであり、プロゲーマーのライトその人だった。



「さぁ、殺り合おうよ!複数人と魔術だけで戦う機会はなかったからね!」


「う、狼狽えるなお前ら!ファイアボール!」

「水塊!」「土槍!」「風纏い!オラッ!」



「聖剣光刃」



ライトは光で剣を作り出すと魔術を切り伏せていく



「は?なんで魔術を斬ってんだよ!?てかスキルは使えないはずだろ!?」


「うん、スキルは使ってないよ?ただ魔術を斬っただけ。珍しくもないでしょ?」


「そんなのはんs…」



スパッと斬られ脱落するチーミングプレイヤーたち

残されたナナトは唖然としていた



「おい、ナナト、早く起きろ!」


「あ、あぁ」


(助かった…けど、なんだ今の…闇で剣を作ろうとしたが何も斬れない剣の形をした物体ができただけだった、闇も光も同じ形のないモノなのに…)



突然起きた事柄に混乱しているナナトだったがまだ戦場にいることを思い出してすぐに立ち上がる

ライトは声を掛けた



「大丈夫だったかい?」


「あ、あぁ…見ての通り元気、ってわけじゃないがどうにか生き残らせてもらったよ。」


「そっか、じゃあ戦おうか!」


「え?」


「僕と君は敵同士でしょ?なら戦うのが自然じゃない?」


「それはそうなんだが…なら、なんでさっき攻撃してこなかった?」



一難去ってまた一難

突然の申し出に困惑の表情を浮かべつつ、問いかける



「僕は卑怯なことをして勝つのは嫌いなんだ。戦うなら正々堂々。真正面で戦う。これが僕のポリシーなんだ。」


「は、はぁ…」



変な奴だ

勝つことが前提の話であるし、何よりプロゲーマーとして勝利に執着するより、戦い方に執着しているのが異常だと思う。



「ほら、もう僕と君は敵同士だよ!さぁ!殺り合おう!」



一方的に戦闘を仕掛けられたナナトは強襲に備えるのであった









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