追いつけないアイツは、憧憬の先に
メグリくくる
○序章
体育館にブザーの音が鳴った瞬間、私はその場に崩れ落ちた。
同じようにうなだれるチームメンバーとは対照的に、対戦相手のチームは歓喜の輪を作っている。
抱き合う少女達の中には泣いている子の姿もあり、彼女の背中を撫でるチームメンバーの目尻にも、光るものがあった。
それはそうだろう。
なにせ、全国大会への切符を掴んだのだから。
逆に言えば、負けたチームはその切符を逃した、ということになる。
つまりそれが、私達のチームだ。
いや、チームだった(・・・)。
……終わった。私の、中学最後の試合が。
知り合いに誘われてミニバスに入り、そこから私はバスケを始めた。
偶然始めたバスケだったけど、その面白さにどっぷりハマってしまい、気づけば中学生活の三年間、その全てを私はバスケットボールに捧げてきたのだ。
全ては試合に勝ち、チームメンバーと喜びを分かち合うために。
……でも、負けた。
それも中学三年間、同じチーム、同じ相手に。
それも負けるのは、決まって全国大会をかけた決勝戦で。
つまり私は毎回同じ相手に、ずっと全国への道を阻まれてきたのだ。
……アイツが同じ県でバスケを続ける限り、私は絶対に、全国に行けないんだ。
悔しかった。
勝ちたいという気持ちは、誰よりも強かったという自負がある。
でも、勝てなかった。
どれだけ練習しても、アイツには。
それでもバスケは好きだったから、高校でも続けるつもりだった。
だから、隣の県の藤堂ヶ浜高等学校(とうまがはまこうとうがっこう)からバスケのスポーツ推薦の話をもらった時、私の心は揺れに揺れた。
自分の住んでいる県の高校にこのまま進学すれば、再びアイツと全国の切符を競うことになる。
でも、他県の高校に進学すれば、もうアイツと戦わなくて済む。
アイツと戦わなければ、少なくとも一度も勝てなかったアイツを避ければ、中学で一度も実現しなかった全国への切符を掴む可能性が高くなるのだ。
……でもこのまま、アイツから逃げてもいいの?
それが、私の悩んでいる理由だ。
勝てなかった相手から、逃げる。
嫌なことを避けて、そこに果たして本当の勝利はあるのだろうか?
何度も何度も、私は自問自答した。
本当にそれでいいのかと、眠れない日々も続いた。
そして、私の下した決断は――
「ありがとう、知見(ちけん)さん。一緒に藤高で、全国を目指しましょう!」
……そうよ。いいのよ。これで、良かったんだわ。
全国に出れなかったとしても、自分はその一歩手前までいったプレイヤーだ。
周りからどんな評価を受けているのかぐらい、耳に入っている。
……『全国前に桜散る』。
桜華(おうか)という自分の名前にかけて、言われているあだ名だ。
他にもストレートに、『勝ちきれない桜華』だなんて、不名誉なあだ名も付けられている。
そんなあだ名が付けられている理由は、私とアイツのポジションが被っていることも無関係ではないだろう。
周りからは、私はアイツに劣っていると評価されている。
だから私は高校で全国に行き、どうしてもこの汚名を返上したかったのだ。
そのために私はプライドを捨てて、藤堂ヶ浜高校への進学を決めたのだ。
……どうせアイツは、高校でも全国に出てくる。
そして中学では全国ではあまりパッとした活躍がないアイツをコテンパンにして、アイツよりも活躍して、絶対に評価を覆して見せる。
……待っていなさい。次会う時は、全国の舞台よ! そして必ず勝ってみせるわ、國京 爽(くにきょう そう)っ!
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