第1話
国から出て何日経っただろうか。
目立たないようにとボロ布を被って歩き続けた。ボロ布のに隠れた髪は以前の艶も無くなり、ボロ着は更にボロボロになった。
国を出てだいぶ経ったはずなのに森は抜けられず、永遠に続くそれは不安を煽るには充分な深さだった。
あたりがどんどん暗くなっていく。
足がすくむ。
もう諦めたい。
視界が滲み頬に伝う涙を乱雑に拭う。
決めたじゃないか、国を救うと。
私しかいないんだ。
無理矢理足を進めるも段々とあたりは暗くなっていく。すると何処からか青い光がゆらゆらとこちらに向かってきて飛んできていた。
それは蝶だった。青いその蝶はひらひらと周りを飛んだ後再び、森の奥へと飛んでいく。
不思議とその蝶に目を奪われ気づけば手を伸ばし、すくんでいた足は勝手に動き走り出していた。
森の暗がりが開ける。
「薔薇?」
そこには、一面青薔薇が咲き誇り幻想的な光景が広がっていた。
その異様さに目を奪われ、足をゆっくり踏み入れる。
「やぁ、ようこそ」
どこからとなく声が聞こえて声のする方を見れば、小さな少女が後ろに立っていた。
少女は、長い青い髪を持ち青い瞳に青薔薇のドレスに身を包みこちらを微笑みながら見ていた。
その美しさは、まるでここに咲き誇る薔薇のよう。いや、その中で一番美しいと言える青薔薇のようだった。
思わず腰を抜かしてその場に尻餅をつく。
「かわいそうに、こんなにボロボロで」
気づけばその少女は目の前に来てこちらを見下ろしながら優美な表情でこちらを見下ろしていた。手を差し出され手を伸ばそうとすれば、近くの薔薇の棘に指が掠りそこから赤が伝った。
「ごめんなさっ‥?!」
引っ込めようとした手を力強く取られ、赤が伝うそこを少女は舐め取った。
そして、吸い付かれる。
「ふふ、これは美味。君は他の人間とは違う味がする」
「なに、言って‥」
言葉を紡ごうとすると強い風が吹き一瞬目を瞑ったその後、見たその少女。いや、そこには女性が一人。
先ほどより大人びたその美しいなりと、豊満な胸。体づくりまで美しさが増し同性の自分でさえ見惚れてしまった。
「貴女は一体‥」
「あぁ、私はアイリア。奇跡を持つ青薔薇の女王さ」
その言葉に目を見開く。
何故なら、彼女こそ国を救うために求めていた奇跡の番人。
はるか昔、争いの絶えないこの人間の世界に舞い降りたのは青き美しい薔薇。
人間はその美しさに目を取られ青薔薇の力の元に人々は救われた。
大雑把な上に御伽話として語り継がれる神話。
断片的なのは仕方のないことだった。
だって、青薔薇なんてこの世界で見た者なんていないのだから当然だ。
「っ!私は、ルア•ミリア!ミリア大国から来また!貴女を探しに!どうか、貴女のお力をお貸しください!」
慌てて被っていたボロ布をとり、その場に跪く。
「力?」
「そうです!貴女は奇跡を持つお方!きっと、戦乱の中にある我が国を救ってくれるお方!」
必死に訴えるもそこには沈黙が流れ、恐る恐る顔を上げると先ほどとは違う何処か、表情が抜け切った顔をしたアイリアの姿があった。
遠くを見つめてその方角を指差す。
「私の力なくとももう、君の国に奇跡は起こせない。戦火が燃える。燃えて燃えて赤が散る」
「?どういうことですか?」
「あの国は花は咲かない。君の国には希望はあるかい?」
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