Episode.2-8:前途多難
「............とは言ったものの、やっぱり何も分かりませんねえ」
放課後。部室にて、手に入れた情報を基に話し合いが執り行われていた。
しかし、夷さんから貰った紫水の変わった行動リストを見ても、地研活動内で見かけた普段とは違う行動リストを作成してみても、やはりそこから見えてくるものは何もなくて。......というか、地研の方で出た意見は『笑みを零しながら部室に花を飾っていた』というほんわかエピソードの一つだけというのがなんとも虚しい。しかも、悠姫を除く三人で三十分考えてそれだから猶更質が悪かった。
「多分だけど、これって根本的な何かが足りてないよね......」
椿さんも、珍しくため息を漏らしながらそう呟く。『根本的な何か』が足りていない。俺にも確証があるわけではないが、その通りだと思った。.........そもそも、彼女がこの現象の引き金を引いたのだとして、それを何にも言わずに行った彼女が手掛かりを残すだろうか?
まあ、『彼女が引き金を引いた』こと自体が不明な時点でその考察も半分無意味な物でしかないのだが。
「.........これ、本当に俺達が手に負えるものなのか?」
要さんがぼそりと問うた。しかし、それを答える人はここにはおらず、彼も促さない。
少し音割れしたチャイムの音が、蛍光灯だけが淡く照らす教室内に虚しく鳴り響いた。
「明日明後日は休みですけど、どうしましょうか」
俺達以外誰もいない廊下を歩いている最中、後ろや横に目線を一切移さないままにそう問う。どうすることもできないというのが答えだということは分かっているのだが、どうしてもそのことを相談せずにはいられなかった。
椿さんは俺のそのような気も汲み取ってくれたのか、優し気な声音で返答する。
「まあ、四六時中これのことばかりを考えていても仕方がないだろうしね.........そうだ。悠姫ちゃんとどこかお出かけでも行って来たらどう? 積もる話もあるだろうしさ」
「悠姫とお出かけですか......」
そう呟きながら、悠姫の顔を一瞥する。積もる話.........もちろん、話したいことはたくさんあるのだが、果たしてそんなことをしていて許されるのかどうかと言うことは、イマイチ俺には判断できなかった。
故に、己の情けなさを感じながらも、悠姫に決定をゆだねる。彼女は「え、私が決めるの?」と戸惑いながらも、数秒間で答えを出してくれた。
「そうだねえ、私としてもゆっくり詩遠とお話する時間は欲しい、かな。結局最期らへんは面会の時間もなかったからね」
俺はその言葉に乗っかるようにして、椿さんの提案を飲み込む。ああ、俺はなんと不甲斐ない奴なのだろうか。そして、それを自覚して尚改善できない自分に対しても腹が立つ。......まあ、腹が立つくらいならさっさと改善しろって話なんだけど。
「じゃ、決まりだね。このことを忘れて——なんて言うつもりはないけど、息抜き程度には楽しんで来たらいいよ」
しかし、そんな俺を叱責する人間なんてのはここにはいなかった。それが良いことなのか悪いことなのかは、正直分からなくて。
「ふうん、じゃあ俺達も息抜きにどこか行くか?」
「............私達にはやる事があるでしょう? 受験生として」
要さんの提案に対して椿さんは依然として笑顔のままだったが、発される言葉はとても重く圧があった。こんな時期にも部活に顔を出してくれているから俺も忘れがちだが、彼女は数か月後には受験を控えているのだ。推薦で一足先に受験を終えた要さんから『息抜き』等と言われれば、腹が立っても仕方がないだろう。
まあ、普段の発言を考えても要さんの言葉に悪意があったわけではないだろうし、それは椿さんも分かっていることだろうけど。だからそれ以上の言葉はないし、彼は彼で言葉の意味に気づき謝る。何と言うか、いつも通りの光景だった。
玄関にて、各々のロッカーを使用するために一旦別れる。俺は適当に教材をロッカーにぶち込むと、一面にガラスが張られた分厚いドアを開け、外へと出る。作られた隙間から勢いよく入り込んでくる風は昨日と比べてとても冷たかった。
「うう、寒いな.........あれ、椿さん早いですね」
帰り支度の適当さには自信があったので、てっきり俺が一番乗りかと思っていたのだが、上には上がいた......いや、そんなわけないんだけど。
スマホを見ながら皆が集合するのを待っていた椿さんは、俺の声に気付きこちらを見ようとするも、如何せん周りが暗いので、数秒かけてそれを達成する。
「今日は演習科目が多いから荷物も少ないんだよね。だから上履きと靴を履き替えるだけ」
当たり前だが、やはり俺とは理由が違った。
それから十数秒と待っても他二人が出てこないので、少しばかり世間話でもしようと思ったが、なかなか話題が出てこない。やはり俺は生粋のコミュ障なのかもしれない............ああ、そういえば。世間話とは少しずれるが、例の件で一応手掛かりとして聞いておこうと思っていたことが一つあったんだった。
「そういえば、紫水が部室に飾った花、なんて名前なんですか?」
意外な質問だったからか、彼女は少しのロード時間を挟んでから答えた。
「ええと.........確か、リナリアと言ってたかな」
「リナリア............」
椿さんに聞こえないくらいの声量で復唱する。本当にぼんやりとした記憶なのだが、その名前はどこかで聞いたことがあるような気がした。
礼を告げ、さらに十秒程度待っていると、要さん、悠姫の順でメンバーが集合した。
そして、昨日と同じように高校の最寄りの駅前で先輩二人と別れ、悠姫とは明日の約束を軽く話し合い、改札近くで別れた。
そんな本日の夜、またしても試験勉強をしなかったことは、もはや言うまでもないだろう。
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