異世界エルフにVRMMORPGをやらせたら大変な事になった
戯 一樹
第1話 異世界エルフはゲームが好き
異世界から来たエルフが俺の家に居候するようになってから、早二ヶ月が過ぎようとしていた。
「カンタロー! この丸いピンク、全然ふっ飛ばせないデス! どうしてふっ飛ばないデスカ!?」
「あー。そのピンクの悪魔、ストーン状態の時は無敵になんだよ。攻撃するならストーンが解ける瞬間を狙うしかないな」
「カンタロー! このネズミ、急に消えるデス! 魔法デスカ!?」
「『でんこうせっか』だな。二回連続で消えたように移動できんだよ。すばしっこい電気ネズミだが、それを使った時は隙ができやすいから、その時を狙え」
「カンタロー! この赤い帽子の子、変なビリビリした玉を打ったと思ったら、そのまま下に落ちちゃったデス! おバカな子デスカ!?」
「やめてさしあげろ。このキャラの復帰技は難しいんだよ。NPCとはいえ敬意を払え」
目の前にいる異世界エルフの質問攻めに、ベッドに座りながらひとつひとつ答える俺。
その異世界エルフが今一人でプレイしているのは、色んな有名キャラが大乱闘するゲーム(初代の方)なのだが、NPC相手に白熱していた。
ちなみに異世界エルフが使用しているキャラは、異世界エルフと似たような姿の剣を持った奴だった。俺も小さい頃にレトロゲー好きの親父とプレイしていた時は、よくこいつを使ってたなー。
なんて昔の事を思い出しながら、俺の部屋で相変わらずゲームに夢中になっている異世界エルフの様子をぼんやり眺めてる。
エルフ特有のとんがった長い耳。
腰まで伸びた金髪は照明の光に反射してキラキラと輝いており、まるで高価な装飾品のように美しい。
装飾品という意味であれば、瞳もサファイアのような澄み切った碧眼で、見ているだけでどこまでも吸い込まれてしまいそうだ。
他の部位も精巧品のように整っており、なにひとつとして無駄な部分がない。まさに、絶世の美少女という言葉を体現したかのような女の子だった。
だが、忘れてはならない。見た目は高校生の俺と変わらない年齢に見えるが、実際は三百年近くは生きているという事。
その名もニンフ。
ある日突然俺の目の前に現れた、正真正銘れっきとした異世界の
そんなファンタジーの塊みたいな存在のニンフが、俺の家に住むようになったのは今から約二ヶ月前。
どこぞの未来から来た猫型ロボットのごとく、なんの前触れもなく俺の部屋のタンスから忽然と現れたのである。
その時、部屋で漫画を読んでいた俺がめちゃくちゃ驚いたのは言うまでもなく、事情を訊こうにも出会った頃のニンフはまるでこちらの言葉が通じず、お互いめちゃくちゃパニックに陥ったもんだ。
だが身振り手振りで意思を疎通させていく内に、どうやらニンフ自身もどうやってここに来たのかはわからないらしく、ましてや元の世界に戻る方法すら皆目見当も付いていない様子だった。
そうして途方に暮れていたニンフを不憫に思ったお袋が、元の世界に戻れる方法が見つかるまで家に居候させる事になったっつーわけだ。
しかし、お袋もよく信じたもんだよな。あくまでもその時は俺の推測に過ぎなかったのに、異世界だのエルフだって言う話をあっさり信じるなんて。これも年の功ってやつなのかね?
そんなわけで、ニンフが俺んチの居候になってから二ヶ月近くが過ぎたわけだが、この期間に見る見る内に日本語が上達し、今では平仮名とカタカナだけなら問題なく読み書きできるくらい驚くほどのスピードでこちらの世界に慣れつつある。
兎にも角にも記憶力がすごいのだ、ニンフは。
この場合すごいのはニンフではなく、エルフという種族の方か。
のちに聞けば、ニンフのいた世界のエルフは好奇心旺盛な狩猟民俗で、何かに興味を抱いたら他に一切目が映らなくなるほど集中してしまうのだとか。
しかも狩猟民族なので、観察力や記憶力といった能力が欠かせず、そのため日本語の吸収力も早かったのだろうというのが、ニンフの言だった。
という事は、今はまだ若干カタコトながらも、その内流暢に話せる日もそう遠くはないのかもしれない。
それどころか、いつか漢字ですら俺を上回るスピードで習得しそうだ。ちょっとはその便利な能力を俺に分けてほしいくらいだぜ、まったく。
まあ、そのおかげでこうして早く打ち解ける事も出来たし、お袋も日頃から「可愛い可愛い」と何度も口にするくらいめちゃくちゃ気に入っているし(何なら勝手に俺の嫁候補にすらしている始末だ。勝手に俺の嫁を決めんでくれ)、親父も親父で一緒にゲームをしてくれる家族が増えてくれて嬉しいとか言ってたし、とりあえず、今のところはこれと言った問題はない。
というか、もうすっかりうちの家族として受け入れられているので、ニンフのいる生活が俺達のいつもの日常と化していた。
いずれは元の世界に帰る日が来るかもしれんが、その時は笑顔で見送るつもりだ。
やっぱ、本当の家族と一緒にいる方が一番いいもんな。
だからそれまでは、ニンフに楽しい日常を過ごしてほしいと思っている。
いつかこの世界で過ごした記憶が良い思い出として残ってくれるように──。
なんて、絶対人に話せないような照れくさい事を考えていると、階下から「
「なんかあんた宛ての荷物が届いたわよー。下りてらっしゃーい」
「あいよー」
気怠げに応えながら緩慢に立ち上がると、ニンフがゲームを中断して、
「カンタロー? どっか行くデスカ?」
「ああ。荷物を取りにな」
「荷物? 何の荷物デスカ?」
「たぶんゲームじゃねぇかな。前々から欲しかったやつを頼んでおいたんだよ」
「ゲーム!」
俺の言葉に、ニンフは瞳をキラキラさせながら勢いよく立ち上がった。
「ニンフも見に行くデス! 気になるデス!」
「別にいいけど、つか、ニンフってほんとゲームが好きだよな」
「あい! ゲーム大好きデス!」
満面の笑みで頷くニンフ。
そういえば、まだ日本語が話せなくて上手くコミュニケーションが取れなかった時も、身振り手振りでゲームのやり方を教えたら、めちゃくちゃ楽しそうにプレイしてたもんな。
つまりゲームがあったおかげで今の良好を築けたようなもんだが、まさかここまでのめり込むとは思わなかった。
まあニンフから聞いた話によると、あっちの世界はほとんど科学が発展していないらしいから、余計に珍しいのかもしれんな。
そんなわけで、ニンフと一緒に階段を下りる。
その間にもウキウキが止まらないのか、ピョンピョンとウサギのように階段を降りるニンフ。
ついでに着ている白のパーカー越しに巨乳がブルンブルン揺れて眼福……じゃねぇや。目に毒だった。
しかし、お袋の絶妙な服を選んでくるよな。ニンフが最初着ていた草みたいな服もコスプレ感があって良きだったが、今着ている白のパーカーも清楚感があっていいって言うか、ちょうどショートパンツから隠れるくらいに裾が長くてノーパンっぽく見えるのがまた男心を擽るっていうか、実にワンダフル!
もしもこれでエッチなラブコメみたいなラッキースケベ的な展開があったら、さすがに俺の理性が保たんかもしれん。
幸か不幸か、そういった展開はまだないが(お袋のガードが硬いせいもあって)、いつかそういう事になってしまった時、ニンフを悲しませるような真似だけはしないようにせんとな。
それはそれとして、たわわに実った夢の膨らみからは目を離せないし、というより離したくないわで、うっかり階段を踏み外しそうになる。
そんな俺をニンフが不思議そうに見つめてくるが、気にしないでほしい。この先もずっと純真(無防備とも言う)なニンフでいてくれ。
なんて
さっそく俺の部屋まで持ち運び、改めて伝票を確認してみる。
「おっ。やっぱ前に頼んであったやつだ。えっと、カッターカッターっと……」
「θηΦδ」
と。
俺がカッターを見つける前に、ニンフが何かを呟いて段ボールの封を切ってしまった。
「カンタロー! 開いたデス!」
「お、おう……」
開いたっていうか、開けたって言った方が正しいけどな。
「……ニンフ、今の魔法か?」
「あい! 風の精霊にお願いしたデス」
ニコニコ顔で首肯するニンフ。
原理はよくわからんが、ニンフはたまにこうして魔法を使う時がある。
今のところはこういうちょっと困った時に魔法で手伝ってくれる程度なのだが、中には物騒なやつもあったりするらしいので、そういった魔法は緊急時以外は絶対使わないように厳しく言い付けてある。
ちなみにその魔法なのだが、どうやら俺みたいな普通の人間には使えないらしい。
なんでも人間には精霊という自然に宿る超常的な存在と対話する力がないらしく、人間がどれだけ努力したところで扱えるものじゃないんだとさ。
まあ俺が魔法を覚えたところで、チンカラホイってな感じで女子のスカートを捲るくらい事しか思い付かないけどな。
そもそも風の精霊とやらが俺の悪戯に協力してくれるかどうかもわからんが。個人的には男の子のスケベ心がわかる懐の広い精霊さんであってほしいもんだ。男心がわかる精霊さん募集中。
ともあれ、ニンフにお礼を言ってから段ボールを開けてみると、中から二つのヘッドギアが入っていた。
「? カンタロー、これ、なんデスカ?」
「VRヘッドギアって言ってな、まあゲームをするのに必要なやつだと思ってくれたらいい」
「ぶいあーる? でもこれ、テレビに繋ぐ線がどこにもないデス」
「あー。ニンフが今までやってたのは、昔からある据え置き機とか携帯機だったからなー。親父はVRゲームに興味がない方だったし、俺もこの間十六歳になるまでは法律で買えなかったから、満を持してこのVRヘッドギアを買ったってわけだ」
「ほー。よくわからないデスが、カンタローはこれがあって嬉しい?」
「ああ、めちゃくちゃ嬉しいな」
「カンタローが嬉しいなら、ニンフも嬉しいデス!」
言って、屈託なく破顔するニンフ。可愛い。
「でもこれ、どうして二つあるデスカ? 二つもいるデス?」
「どうしてもなにも、二つないとニンフと一緒にできないだろ」
そう言うと、ニンフは太陽みたいに表情を輝かせて突然俺に抱き付いてきた。
「カンタロー! カンタローは優しくてすごく大好きデス! ニンフ、嬉しい〜!!」
「お、おう。そうか。そりゃよかった」
特におっぱいの感触が。
冗談はさておき(半分はマジだ)ニンフも普段は表に出さないだけで色々と溜め込んでいるものがあるだろうし、せめてゲームの中だけでも大いに発散してほしいと思ったのだ。
特に外出に関しては、見た目の問題もあってなかなか難しいし、せめて家の中くらいはなるべく自由に楽しく過ごしてもらわないとな。
「それでカンタロー。これ、どうやって遊ぶデス?」
「ちょっと待ってな。今、準備すっから」
そんなこんなで充電したり説明書を読んだりしながら準備を進める。
「よし、ダウンロード完了っと。充電も終わったし、これで遊べるぞ、ニンフ」
「わっふ〜い!」
待ってましたとばかりに両手を上げるニンフ。
ちなみに「わっふ〜い」というのはエルフ特有の喜び方らしい。ほんまかいな。
それとも、エルフという種族は欧米人並みに感情表情が豊かなのかね? 少なくともニンフはかなり感情が表に出やすい方ではあるが。
「じゃあニンフ、それを頭に付けたらベッドで寝転んでくれ。本格的にゲームが始まったら、意識が架空世界に飛んじまうから」
「? よくわからぬデスが、カンタローはどうするデスカ?」
「ん? 俺は床で寝るけど?」
さすがに二人一緒にベッドの上で寝るわけにはいかんしな。兄妹でもなければ恋仲ですらない男女だし。
そう配慮しての発言だったのだが、ニンフに袖をクイクイと掴まれた。
「カンタローもニンフと一緒に寝るデス」
「いや、だから俺は床で……」
「カンタローもニンフと一緒に寝るデス」
「……………………」
有無を言わせない気迫がそこにあった。
「ほ、ほんとにいいのか……? 俺と一緒のベッドなんてさ……」
「あい。カンタローと一緒がいいデス。カンタローと一緒に寝るデス」
「そ、そうか」
そこまで言われたら断るわけにはいかない。
据え膳食わぬは男の子の恥って言うしな!
ニンフの事だから、絶対そういう意味で言っているわけじゃないだろうけどな!
「これが生殺しというやつか……」
「? ナカダシ?」
「なんでもない。ていうか、その言い方はやめておこうな。色々とヤベーから」
よくわかっていないのか、上目遣いで可愛らしく小首を傾げているニンフをひとまず強引にベッドまで移動させる。
それから俺もベッドの上に座ったところで、横にいるニンフにVRヘッドギアを手渡した。
「ほい、ニンフの分。ヘッドギアを付けたあとは大人しく横になれよ。二人一緒に寝れなくもないけど、そこまで広いわけじゃないんだからな」
でないと外側にいる俺がベッドから落ちてしまう。壁側にいるニンフはどれだけ暴れても平気だろうが。
「あい。じゃあこうするデス」
言って、ニンフは俺の片腕に抱き付いてきた。
「これでカンタローは落ちないデス。ニンフも安心してゲームできるデス」
なるほど! それなら安心だね!
たわわに実ったおっぱいの感触も最高だね!
「試練か……これは試練なのか……っ!」
「どうしたですカンタロー? どこか苦しいデス?」
「ああ、主に股間が……いやなんでもない。なんでもいいから早くヘッドギアを付けなさい」
「あい」
言われた通り、素直にヘッドギアを付けるニンフ。
それを見届けてから、俺もヘッドギアを装着した。
「じゃあ、あとは横にある丸いボタンを押すだけでオッケーだから。なるべく目は瞑っておけよ? 変に意識がある状態のままだと、金縛りみたいになるって話だから」
「丸いボタンを押したら、ニンフはどっか行っちゃうデス?」
「ああ、ゲームの世界にな」
「カンタローも行っちゃうデスカ? ニンフとはバイバイしちゃうデスカ?」
と、ニンフが不安そうに俺を見つめてきた。
あ、そっか。ニンフにしてみればVRなんて初めての体験だもんな。
ちなみに俺は経験済みだが、正直子供向けみたいなゲームしかやった事がない。
というのも法律で十六歳になるまでは旧世代型……とどのつまりゴーグル式のリアルに体を動かすタイプしかプレイできないように定められているのだ。
なんでも、没入型のVRは青少年の情操教育に悪影響を及ぼす懸念があるとかなんとかで。
詳しい事はよくわからんし、お偉いさんの考えている事なんて理解したいとも思わんが、何にせよ、この日が訪れるのをどれだけ待ち侘びた事か。
特に今からやるVRMMORPGというジャンルは前々からやってみたゲームで、しかも空前の大ブーム真っ只中のソフトをダウンロードしてある。今からプレイするのが楽しみでならない。
おっと。俺ばかりウキウキしている場合じゃなかったな。早くニンフを安心させてやらないと。
「大丈夫だって。ニンフのヘッドギアと俺のヘッドギアはリンクしてあるから。あっちでもまた会える」
「会える? カンタローとすぐ?」
「ああ。ほんとにすぐだ、すぐ」
言いながら手を繋いでやると、ようやく安心したのか、ニンフはにへらと笑って、
「カンタローと一緒なら安心デス。ニンフ、カンタローと一緒にゲームするの、楽しみデス!」
「おう。俺も楽しみだよ」
その会話を皮切りに、俺とニンフはVRヘッドギアの起動スイッチを押した。
さあ、今から大冒険の始まりだ!
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