第34話 闇の凶刃
アリスとの密会から一週間。彼女との文通は続いている。
どうやら僕と会うときに使った、秘密の手段はフランソワ公爵にバレてしまったらしい。
でも、それでもどうにかする気満々であることが、文章の端々から伝わってきて、非常にまずいものを感じている。
それと、父親の監視があるはずなのに、どうやって手紙を届けているのか疑問だった。
もしかしたら邸の中に協力者がいて、こっそりとやり取りを続けているのかも。
いかに強大な権力を持っているとはいえ、フランソワ公爵に絶対服従する者ばかりではないはず。
そのあたりの事情については興味があるけれど、これ以上出会いを重ねることも危険だ。あの路地裏で、いきなり刺されていたかもしれないわけだし。
実は今、僕はゲーム内データが置かれた秘密の部屋にいる。
室内には魔道具と思われるものがあり、そこで以前手に入れた聖剣の残り香を調査していた。
瓶の中に入った黒々とした何かを、ストローのようなもので四角い箱に注いでいく。
すると、黒く四角い箱の液晶的な部分から、どういった成分で、どれほど抽出さえれたかを知ることができる。
丁寧に説明書まであり、この部屋はますます謎めいてくる。
いくつかの気体を抽出させて検証をしたので、効果のほどは間違いないことを確認済みだ。
どういった表示が出たらどんな物質なのか、それらが説明された資料も同時にあるわけで、この部屋は何もかも行き届いている。
「さてと……何が出てくるかな」
聖剣の光は、実は漆黒で満ちていた。僕がいかに理屈を並べたところで、誰も信じはしないだろう。
きっと、こうした実験の成果を語ったとしても同じだ。でも調べずにはいられない。
実験はもう始まっている。ストロー状のものが瓶の中から黒い気体を吸い取り始めた。
もうもうとした黒いものが魔道具本体に入っていく。でも、二分ほど待っても特に液晶画面に表示は現れなかった。
もしかしたら、何も測定されないのかも。これではお手上げだなと思っていた矢先のこと、液晶に奇妙な文字が点滅して映し出された。
「これは……」
液晶にはEEEE89という表示が出ている。資料を漁ってみると、気体名のテーブル一番下にそれはあった。
どうやら闇粒子と呼ばれるものらしい。室内には粒子関連にまつわる資料もあったので、取り出して探してみる。
そして、辞書のように膨大な本のほぼ最後に闇粒子について書かれている項目を発見した。
名前の感じから大体の想像はつくけれど、やはりというか。
この粒子は凶悪な魔物が、内に内包している力であるらしい。触れただけで草木を腐らせ、動物の体を崩壊させてしまう。
つまり原作でいうところの、中ボスや大ボスに相当する存在から発せられる力の源だということだった。
そうなるとあの聖剣はおかしいのてはないか。本来ならば真逆の力になると思うが。
同時に僕は、何か嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
しかもちょっとした予感ではない。根深く目を逸らしたい何かだ。僕自身にも関わる嫌でたまらない感覚がある。
あの聖剣は偽物なのか。だとしたらなぜ、ジュリアンは偽物を与えられることになったのだろうか。
ありとあらゆる疑問が頭に浮かび、心中穏やかではない仮説が、幾つも僕を不安にさせる。
最終的には一つの結論だけが残った。しかし、それを認めるのに随分と時間を要してしまう。
なぜならそれは、僕自身の根幹すら揺るがす答えだったのだ。
できれば間違いだと思いたい。しかし、何度頭の中で思案を再開しても、行き着く答えは同じだった。
「馬鹿な……ん?」
部屋の中に大きな揺れが起こった。地震のようだが、かなり大きい。僕は秘密の部屋から出て魔法で空へと上り、周囲を見渡した。
王都やイグナシオ領……他の街にも特別変化は見られない。ただ一つ、黒い煙が上がっている場所があった。
僕は荷物を抱え、すぐに煙の場所へと向かう。
あそこにはただ一軒家があるばかりだ。アリスの弟である、ヒルデ・フォン・ローゼシアが住んでいる家で間違いない。
もしかしたら先ほどの衝撃は、地震ではないのかもしれない。近づくほどにこの予想は当たっている気がした。
黒い煙は当初、火事が起きているのだと予想していた。だがどうやら違う。
何かしらの歪な力が、空へと舞い上がっているのだ。
飛行魔法は便利だ。すぐに現地までこの身を飛ばしてくれる。空の上から家が見えた時、先ほどの揺れはここから生じたことを確信した。
強大な魔力の一撃。それが家を潰したのだ。地震でこうなったとは思えない歪な崩壊の仕方である。
しかも、家の近くにはさまざまな人々がいた。
まず意外だったのは、アリスがいたことだ。馬車がいくつも停められており、多くの人々が倒れている。
なぜかジュリアンとレスティーナもいる。彼は姉の結婚式で僕にゲームで負けたような、怒りに塗れた顔だ。
そして家の一番近くには、ヒルデがいた。しかしそれは、もう人間とは思えないほど、奇妙な体つきをしている。
これは只事ではない。何か恐ろしいことが起こっているのは明らかだった。
久しぶりに湧き上がる緊張で喉が渇く。
本来自分が関わることではない気がするが、見過ごすこともできそうにない。
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