第二章:本当に大切なものに気づくとき
第12話
放課後、薄暗い校舎の窓から差し込む夕日を背に、玲奈と並んで歩いていた。昨日、あの夜の会話がまだ胸に残り、俺はその意味を何度も噛み締めていた。玲奈が「悠がいなくなったら、私はまた一人になる」と呟いたあの言葉――それは、俺たちの未来への不安と希望が交錯する瞬間でもあった。
歩きながら、俺は心の中で自問自答する。
(俺は玲奈の支えでありたい。だけど、同時に玲奈が自分で立ち上がれるようになってほしい…どうすれば、二人の関係が成長していくんだろう)
そんな思いを抱えながら、俺はふと玲奈の横顔を見た。
彼女は普段通り、やや静かな表情で歩いているが、どこか遠くを見つめるような目をしていた。
その目の奥に、弱さと決意が入り混じるように映っているのが分かった。
「玲奈……」
俺は、つい口を開いた。
「俺たち、これからどうなっていけばいいんだろう。君は俺に頼りすぎなくても、もっと自分でできることを見つけられるはずだと思う。でも…」
言葉が詰まる。何を伝えれば、玲奈に安心してほしいのか、俺自身も答えが見つからない。
そのとき、校舎前に見慣れたポスターが目に留まった。
「学園祭実行委員募集!」と大きな文字。
学園祭――いつも賑やかなイベントだ。俺たちも、かつて一緒に参加したことがあったな。
玲奈はポスターに目を向け、ふと微笑んだ。
「悠、学園祭に出ない? 実は、去年の時はちょっと控えめだったんだけど、今年は…」
彼女の声は、いつもの穏やかさを帯びながらも、どこか新しい挑戦への期待を感じさせた。
「学園祭…か。まあ、俺たちなら何か一緒にやれるんじゃないか?」
俺は、内心で少し躊躇しながらも、玲奈の提案に乗る気持ちが湧いてきた。
(これが俺たちの、次の一歩になるのかもしれない)
翌日、学園祭の準備が本格的に始まった。教室内は、カラフルな装飾や飾り付けの話題で持ちきりで、みんなの笑い声があちこちで響いている。俺は、玲奈と同じ班に所属し、展示ブースの企画や飾り付けの打ち合わせに参加した。
打ち合わせ中、玲奈は普段のクールさを少しだけ忘れ、仲間たちと楽しげに意見を交わしていた。
「悠、ここはこんな風に飾ったらどうかな?」
玲奈が、何気なくアイデアを出す。その一瞬の輝きを見た俺は、胸の中に温かいものが広がるのを感じた。
昼休み、作業の合間に、俺と玲奈は教室の隅で静かに話す時間を持った。
「玲奈、俺、昨日のことをずっと考えてた」
俺は、昨日の帰り道で感じた不安と希望を、ためらいながらも打ち明けた。
「君が俺にどれだけ頼ってるか、そして俺がそれをどうすればいいのか…」
言葉が続かない。玲奈は、しばらく黙って俺の顔を見つめ、やがて静かに口を開いた。
「悠、私ね…本当は、もう少し自分で頑張りたかった。でも、どうしても怖くなってしまうの。だから、あなたがいると安心する。だけど、その安心感が、私を縛ってしまっているような気もする」
玲奈の声は、かすかに震えていたが、その目は真剣だった。
「私、あなたに依存してしまっているのが悔しい。でも、どうすれば自分一人で立ち上がれるのか、分からないの」
俺は、彼女のその告白に心から応えた。
「玲奈、俺は君を縛りたくない。君が自分で輝けるようになるのを、そっと見守りながら、必要なときに支えたいんだ」
俺の言葉に、玲奈は小さく微笑んだ。
「悠……ありがとう。私、これからもあなたと一緒に歩きたい。少しずつだけど、自分の足で立てるようになりたいと思う」
その瞬間、教室の窓から差し込む柔らかな光が、まるで未来への希望のように感じられた。
学園祭の準備を進める中で、俺たちはこれまで以上にお互いの心に寄り添うようになった。
仕事の合間のちょっとした冗談、意外な意見の交換、そして静かな休憩時間。
すべてが、二人の距離を少しずつ縮めていく大切な時間となった。
夜、学園祭当日のリハーサルが終わり、校舎の裏庭でふたりだけになったとき、玲奈は俺にそっと手を差し伸べた。
「悠、今日はありがとう。あなたといると、本当に勇気が湧いてくる」
その手の温もりを感じながら、俺は静かに答えた。
「俺もだ、玲奈。俺たちは、これからもっといろんな経験を積んで、少しずつでも前に進んでいけるはずだ。君が自分の力で輝ける日が来ると、俺は信じてる」
玲奈は一瞬、涙ぐむような目をしたが、すぐに笑顔に変わった。
「うん。私、あなたと一緒にいると、未来が見えてくる気がする。どんな小さな一歩でも、一緒に踏み出せるなら……」
その夜、俺は玲奈と交わした約束を胸に、未来への小さな扉が少しずつ開かれていくのを感じながら眠りについた。
俺たちの関係はまだ試行錯誤の連続だ。
けれど、今は確かに、お互いが互いにとってかけがえのない存在になりつつある。
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