第27話 無道具キャンプ

 それはそうと合宿はなにをやるんだろう。

 なにをするかによって、今後の行動も変わってくるのだが。


「さて、鬼女ヶ島、竜宮女学院、両校の生徒が揃いましたね。では合宿の概要を説明します」


 はたしてなにを行うのか?

 俺は皆の前に立つ理事長の言葉を待った。


「難しいことはありません。皆さんにはこの旅館の裏にある山でキャンプをしてもらいます」

「えっ?」


 キャンプ?


 なんか思ったより普通である。


「期間は今日より一週間です。もちろん恋愛禁止ですからね。他生徒の恋愛行為を見つけて報告した場合はわたくしから金一封を差し上げます」


 キャンプ中ならもしかしたらと思ったが、そう甘くは無いようだった……。


「大自然と触れ合い、一体となって過ごすことで恋愛をしたいなどという浮ついた気持ちは消滅するでしょう。恋愛など愚か。恋愛など悪。その思いを胸にみなさんは山で過ごしてください」


 やはりこの理事長は恋愛に強い恨みを抱いてるような気はする。

 このキャンプも恋愛禁止を徹底するためみたいなものなのだろう。


 やれやれである。


「ではそう言うことで解散」

「……うん?」


 いや解散って……。


「す、すみません理事長。キャンプ道具とかなにもないんですけど……」

「なにもありません。すべて現地調達で行ってください」

「「「えーっ!」」」


 皆が悲鳴のような声を上げる。


「道具もなにも無しでキャンプはきついのう」

「地べたで寝るのはわしの柔肌には辛い」

「乙女に強いることではないぞ」


 武士たちも見た目に反して、無道具キャンプは嫌なようである。


 俺だって嫌だ。

 まあ苦手というわけでもないんだけど、山で過ごすのが好きなわけではない。


 引率が理事長ひとりだからなんか変だとは思ってた。

 1週間も生徒を山に放置するだけなんじゃ、そりゃ引率も向こうと合わせて2人でいいわな。


「おいおいあたしたちゃーサルじゃねーんだぞっ!」

「道具無しでどうやってキャンプすんだよーっ!」


 うちのヒャッハー女たちも理事長へ非難の言葉を投げかける。


「黙りなさいっ!!」


 しかし理事長の一喝で黙らされてしまう。


「道具に頼って山で過ごすなど軟弱です。なににも頼らず人の力だけで山を制覇してこそ大和の魂を養えるというもの。そ、そうですよね不忍先生?」

「ええ。良い経験になると思います」


 死人が出るのではないだろうか?


 まあ、うちも向こうも男よりも男っぽい女ばかりなので大丈夫かな。


「トイレだけはこの旅館のものを使用して構いません。それ以外の生活はすべてあの山の中で行ってもらいます。では皆さん、山へ向かってください」

「あーすいません理事長。この山、クマとか出ませんか?」

「出ます出たら大和の魂で倒してください」

「いや、大和の魂で倒せって……」


 この理事長は俺が思ってるよりも頭おかしいのかもしれなかった。


「あ、で、俺たちが山にいるあいだ、理事長たちはどうするんですか?」

「わ、わたくしたちはこの旅館で待たせてもらいます。ね、不忍先生?」


 旅館で理事長と不忍校長の2人きりか。

 これはもしかしたらなにもしなくても2人はくっついたり……。


「……いえ、我々も生徒とともに山で過ごしましょう」

「えーっ!」


 不忍先生の言葉に理事長は驚きの声を上げる。


「我々は生徒の安全を守る義務があります。万が一のため、我々も山へ入って生徒が無事に過ごせているか見守りましょう」

「そ、そうですね」


 残念そうに目を伏せる理事長。

 旅館で2人きりなら、労せず2人がくっつくかもと思った俺も残念であった。


 しかし山の中でも2人は一緒に過ごすだろう。

 うまいことアシストしてやればくっつけることができるかも。


 皆が無道具キャンプを前に意気消沈している中、俺はどうやって2人をくっつけてしまおうかを考えていた。


 山へ入って一番、最初に聞いたのは苺姫ちゃんの大きなため息だった。


「なんでこんなことしなきゃならねーんだよ。あのクソ理事長」

「まあね……」


 いきなりこんな大変なことをやらされているのだ。

 苺姫ちゃん以外の皆も同じ気持ちだろうと思う。


 集団だった俺たちは理事長たちによってバラけさせられ、他の連中は別の方角へと行った。今ここにいるのは俺と苺姫ちゃん、それと巨大と理子と好美の5人だけだ。


「姉御ー喉渇いたっスー」

「腹減ったーって感じ」

「うるせーな。あたしに言うなよ」


 なにも持って来なくていいと言われていたので、俺たちは鞄もなにも持たずに合宿に来た。なので食べ物も飲み物もなにも持っていなかった。


「獅子ちゃんわたしも喉渇いたー」

「しかたないな」


 と、俺は耳をそばだてる。


「……向こうから川の流れる音がするな」

「うん? そうか? あたしにはなんにも聞こえねーけど?」

「ともかく行ってみよう」


 俺たちは川の音が聞こえるほうへ歩いて行く。

 それからしばらく歩くと、


「うん? あ、見えてきたぞ」


 目の前に川が見えてきた。


「わー本当に川があったっ!」

「うおおっ! 水、水っスっ!」


 巨大と理子が川へと駆け寄って水を飲む。


「よく川があるってわかったな?」

「うんまあ……山にはちょっと詳しいんだ」

「ふーん」


 納得して頷いた苺姫ちゃんも水を飲みに行った。


「なあしばっち、食い物はなんとかなんないのーって感じ」

「食べ物も川にいるんじゃないか?」


 川なら魚もいるだろう。

 そう思って皮を覗くと、案の定、泳いでいる魚がいた。


「ほら魚がいるぞ」

「いやいるったって、釣り竿もないのにどうすんのさー??」

「どうするって……」


 俺は川へ入って行き……


「それっ」


 手を突っ込んで払い、魚を地面へと掬い出す。


「こうやるんだよ」

「いや、できないしっ! あーしクマらじゃねんだからっ!」

「そ、そうか」


 どうやら普通はできないらしい。


「てかしばっち、あんたはなんでそんなことできんの?」

「喧嘩強くなるために山籠もりとかしてた時期とかあったし」

「や、山籠もりー? 炎王も結構、苦労して強くなってる感じなんだな」

「まあな」


 炎王も一日にして成らずである。


「けど、この魚はどうやって食うん?」

「ああ」


 俺はここへ来る途中に拾って置いた棒を二本持ち、それを擦り合わせ……。


「おおっ!」


 できた火種で枯葉に火をつけ、焚火を作った。


「あとは魚を棒に刺して焼けばいい」

「わー獅子ちゃんすごーい」


 巨大がパチパチと手を叩く。


「しばっち、あんた、姉御よりも頼もしいじゃーん」

「なんか言ったか好美?」

「な、なんでもなーい」

「ふん。おい獅子、あたしも手伝うからもっと魚を獲ろうぜ」

「あ、うん」


 俺は苺姫ちゃんと協力して全員分の魚を獲る。


 これで食料と飲み水は確保できた。


「獅子がいればなんとかなりそうだな」


 ホッとしたような安堵の笑顔を俺へ向けてくる苺姫ちゃん。

 かわいい。このかわいい苺姫ちゃんとのイチャイチャラブラブエロエロ高校生活を送るためにも、俺は理事長と不忍先生をくっつけなければいけない。


 しかしこの山の中で2人はどこへ行ったんだか……。

 見守ると言っていたので、いずれ側に現れるかもしれないしそれを待つか。


 そんなことを考えながら魚が焼けるのを待っていると、


「きゃあああっ!」


 どこからか女性の叫び声が聞こえた。

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