第19話 獅子大好きな幼馴染

 今日も今日とて俺は大好きな苺姫ちゃんと一緒に登校をしていた。


「苺姫ちゃん、昨日のデートは楽しかったね」

「デ、デートじゃねーっ! 一緒に出掛けただけだっ!」


 俺の言葉に苺姫ちゃんは顔を真っ赤にして反論してくる。


 いつも通り苺姫ちゃんはかわいさの核爆弾だ。

 こんな姿を見ているだけで俺はかわいさの衝撃で吹き飛んでしまいそうになる。


「それをデートって言うんじゃないっスかね?」

「それがデートでなかったら、デートってなんなんよって感じじゃん?」


 理子と好美の言う通りだ。

 昨日のがデートでなければデートとはなんなのか……?


「うるせーな、おめえらはっ! あたしがデートじゃねーって言ったらデートじゃねーんだよっ!」

「「はいはい」」


 姉御の言うことは絶対。

 しかし2人はそんな感じではなく、やれやれという感じで返事をしていた。


「これはもう結婚まで秒読みだね苺姫ちゃん」

「お前はもうすぐそう言うこと言うーっ。やめろよなーっ」

「いいじゃん減るもんじゃなしー」

「へ、減るんだよなんかがっ」

「そうなの?」

「そうなのっ!」


 なにが減るのかわからないが、苺姫ちゃんが言うならそうなのだろう。

 苺姫ちゃんはかわいいからなにを言っても正しいのだ。


「なんかもう完全にイチャついてるっスねこの2人」

「付き合ってんだろー。もーこれー」

「なんか言ったかっ?」

「「いいえ」」


 睨まれた2人は同時に首を横へ振った。


 付き合っている。

 苺姫ちゃんと恋人同士になれたらどんなに嬉しいだろう。腕とか組んで登校しちゃうのかな? そんなの嬉し過ぎる。


「なにボーっとしてんだよ獅子。ほ、ほら行くぞ」

「わあっ!?」


 苺姫ちゃんが俺の手を掴んで歩き出す。


 柔らかい手に握られて昨日と同じく緊張してしまう。

 いつもは好きだ結婚してくれと苺姫ちゃんに迫りつつも、向こうから来られると弱い俺である。


 ああ……苺姫ちゃん大好き……。


 手を握られながら俺は歓喜の思いに浸る。


 昨日のデートで苺姫ちゃんとの距離は確実に縮まったと思う。


 いつか本当に恋人同士になれるかも。


 その日を夢見ながら、俺は苺姫ちゃんの手に引かれて学校へ行った。


 ……学校へ来ると、なにやら皆が騒がしくしていた。


「なにかあったのかな?」

「さあな……うん?」


 苺姫ちゃんが昇降口のほうへ目を向ける。

 皆もそちらのほうへ注目しており……。


「あっ」


 注目の中心には背の高い者がいた。

 身長は俺よりもずっと大きい。髪は短いピンク色の女の子。あのうしろ姿に俺は見覚えがあった。


「あ、あれはギガンテス松永っ! モグモグ」

「うん?」


 バナナを皮ごと食う変わり者の女子こと、馬場奈々女さんが、例によってバナナを皮ごと食べながら叫ぶ。


「ギガンテス松永は炎王親衛隊のひとりで、炎王の覇道に古くから付き従って来た古参の配下っ! 2メートルの高身長を持ち、炎王に勝るとも劣らない強力なパワーを持つことから、ギガンテスと呼ばれ恐れられているっ! モグモーグ。ごっくん」


 勝手に説明を始め、バナナを皮ごと飲み込んでどこかへ行ってしまった。


「うーむ。相変わらず変わった女の子だなぁ」


 かわいいのになんか残念。


「え、炎王親衛隊って……」

「炎王配下5人の猛者とか言われてるあれか」

「その中でも随一のパワーを持ち、キレたら軽トラも持ち上げるとも言われているギガンテス松永……。あの女が……?」


 バナナ女さんの説明を聞いたヒャッハーな女生徒たちがますますざわつく。


 だいたい合っているが、誇張もされているような……。そもそも炎王親衛隊ってなにそれ?


「おい獅子。あいつ知り合いなのか?」

「ああまあ……」


 けど、どうしてあいつがここに?

 あいつは別の学校へ進学したはずなのに……。


 考えながら眺めていると、長身のあいつがこちらを振り返る。


「あっ」

「あっ……」


 長身のあいつ……ギガンテス松永こと松永巨大まつながきひろは俺を見つけて目を見開く。そして、


「れ、獅子ちゃーんっ!!」


 かわいらしい童顔な美人顔には見合わない、大きな身体でドタドタと地面を踏み鳴らしてこちらへ駆けて来る。

 そして逃げる間も無く俺は捕まり、


「うぎゃっ!?」


 持ち上げられて抱き締められる。

 文字通りの抱き締めであり、骨がギリリと軋んだ。


「会いたかったよぉ。もう離さないからねっ」

「うぎぃ……」


 このままでは魂を絞り出されてしまう。


 意識を失いそうになりながら、俺は手を動かして巨大の身体をタップする。


「あ、ごめんね」


 ようやく解放され、俺は地面へと降り立った。


「はあ、はあ……。き、巨大、どうしてお前がここに? お前って確か竜宮女学院の寮に入ってたんじゃなかったか? それにその制服……」


 巨大はなぜか鬼女ヶ島の制服を着ていた。


「竜宮女学院……か」

「姉御、竜宮女学院は全寮制のめっちゃ頭良い女子高っすよ。鬼女ヶ島とは月とポン酢っス」

「月とスルメイカだ馬鹿」

「月と酢だこじゃん?」


 なんか隣でお馬鹿な会話をしているが、竜宮女学院が全寮制の超頭の良い女子高というのは本当だ。外出など滅多に出来ず、巨大がここにいるのは妙だった。


「えへ、転校してきちゃった」

「えーっ!!」


 超頭良い学校から超馬鹿な学校に転校?

 冗談かと思いたいが、巨大が鬼女ヶ島の制服を着てここにいる理由はそれしかなかった。


「おま……どうして?」

「いろいろ考えたけど、やっぱり獅子ちゃんと同じ学校に通いたいって決めたからだよ」


 そう言ってニッコリ笑う。


 ……馬鹿だこいつ。

 勉強はめちゃくちゃできる奴だけど馬鹿だ。なに考えてるんだ一体……。


「いやお前、お父さんすげー厳しかったじゃん。どうやって説得したんだ?」

「うん。これ」

「えっ?」


 巨大が制服をめくって脇腹を見せてくる。

 そこには分厚くガーゼが貼ってあった。


「獅子ちゃんと同じ学校へ転校させてくれないなら、腹掻っ捌いて死んでやるってパパの前で包丁をお腹に刺したの。そしたら許してくれた」

「……」


 こいつのことはよく知っている。

 しかしまさかそんなことまでする奴だったとは驚きを通り越してゾッとした。


「お、お前、なんでそこまでするんだよっ?」

「だってわたし獅子ちゃんの婚約者だもん。婚約者は一緒にいないとね」

「婚約者?」


 婚約者。

 その言葉を聞いた苺姫ちゃんの表情がやや強張った気がした。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 獅子大好きの長身幼馴染の登場です。

 少しヤンデレ気味の巨大ちゃん。苺姫ちゃんとの修羅場は時間の問題か?


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