第6話 最前線拠点①

「っ……!は、はい!」


 今のエレナさんの仕草に、思わずドキッとしてしまいそうだったけど。

 軍務中であることを思い出してどうにか平静を保ちながら返事をすると、エレナさんは小さく口角を上げながら。


「わかってたことだけど、フィンくんがみんなと楽しく過ごせていけそうで安心したよ〜。私自身もそうだけど、みんなが男の子と楽しそうに関わってることなんて初めてだから本当新鮮な気持ち!」

「皆さんが、とてもお優しい方々なので……」

「みんなだけじゃなくて、フィンくんもだけどね」

「っ……!あ……ありがとうございます」

「ちょ、ちょっと待って!」


 照れながらも返事をすると、エレナさんは自らの手を前に押し出すようにして。


「さっきまではみんなの前だったっていうのもあって、一応先輩としての体裁ていさいは保ってたけど、二人の時にそんな顔されちゃったら……!」

「えっ……!?ご、ごめんなさい……僕、変な顔になってしまってましたか?」

「何言ってるの!変な顔なんかじゃなくて可愛い顔に決まってるじゃん!ていうか、ちょっとしゅんとしちゃった顔まで可愛いって何なの!?なんでそんなに可愛いの!?ちょっと待って、本当に待って……」

「す、すみません。早口かつ高い声で、何を言ってるのか……」


 それから、少し間を開けると。

 エレナさんは、少し落ち着いた様子で。


「ごめんね、もう大丈夫……そうだ!話変わっちゃうんだけど、フィンくんのさっきの魔法すごかったね!」

「エレナさんから見ても、そう思って頂けたんですか……?」

「もちろんだよ!あんな魔法、軍の中でも打てる人結構限られてくるっていうか……この部隊以外に、あんな魔法打てる人居るのかな……。気配の消し方とかもそうだったけど、訓練生なのに最前線部隊に送られて来たっていうだけあって、フィンくんは本当に優秀なんだね!」

「っ……!」


 訓練生。

 最前線部隊。

 優秀。


 それらの言葉を聞いた僕は、上官からの言葉をフラッシュバックさせる。


「君は、邪魔なのだよ」

「君の能力は実に優秀だ。魔力、学力、体力……魔法学校を首席で卒業したというだけあって、そのどれもが大いに優れている」

「君は、訓練生の中でも一人突出した才能を持っており、このままいけばこの国でも屈指の実力者となることができるだろう……しかし、平民がそんな立場に居ては、我々貴族としては面目が立たんのだよ」

「私を恨まないでくれよ?上層部での多数決の結果、そう決まったのだからな」


 ────そうだ。

 僕は、優秀だったからこの最前線部隊に送られたんだ。

 優秀だったから。


 平民が優秀だと、軍に居る貴族の人たちが士気を失ってしまう。

 そうなったら、国を守れなくなってしまう。

 そうならないために、僕は死すべくしてここに送られて来た。

 なら、僕は……


 この国を思うなら、僕は────


「フィンくん……?顔色悪いみたいだけど、どうしたの?」

「え……あ……」


 エレナさんに声をかけられたことで、僕の意識が今この瞬間に戻る。


「ここに移動してくるのも時間かかっただろうし、それを抜きにしても色々あったから疲れてるのかな?拠点の案内は明日にして、今日は休む?」

「っ!い、いえ!大丈夫です!」

「ほんと?」

「はい!」


 エレナさんやこの部隊の人たちには、僕がこの部隊に送られて来たについては話さなくても良いだろう。

 ────上官たちによって、死すべく送られて来た。

 なんて言っても場の雰囲気を重くしてしまうだけだし、話したところでどうにかなるようなことでもない。


 今はエレナさんと一緒に居るんだから、上官のことは忘れよう。


「……」


 それから、エレナさんは少しの間だけ僕の様子をうかがっているようだったけど。

 体調に問題が無さそうなことを確認できたからか、小さく頷いて言った。


「うん!じゃあ、今からこの最前線拠点の中を案内してあげるね!」

「ありがとうございます!」


 しっかりお礼を伝えると、僕はエレナさんに続く形で、この拠点の入り口である両開き扉の中に入っていく。

 すると────


「っ!?」


 壁紙や目の前にある螺旋階段も含め、全てラグジュアリーな、とにかく格式の高そうな装飾で出来ており。

 塔の中に入った瞬間から、様々な種類の女性の良い香りを強く感じた。


「こ、ここが、最前線拠点……」

「初めて見たら、拠点って感じ全然しないでしょ?」

「そうですね……」

「私も最初はそうだったんだけど、生活してたらそのうち慣れると思うから、これから一緒に生活していこうね!」

「は……はい」


 こんな装飾の建物、今まで入ったことがない。

 魔法学校の中に似たような雰囲気の場所はあったけど、ここは雰囲気からして全然違う。

 本当に、こんな建物に慣れることのできる日が来るんだろうか。

 と思いながらも、エレナさんと一緒に階段を登ると。

 その階には、複数の扉があった。


「ここは、みんなそれぞれの個室だね」

「なるほど……皆さんの────って、えっ!?拠点なのに、個室なんていうものがあるんですか!?」

「うん。約五十人分だから、ここからしばらくの階はみんなの個室フロアって感じかな……あ、もちろんフィンくんの個室もあるから安心してね!」

「っ!?そ、そんな!僕のために、一室を割いてもらうなんて……空き部屋があるなら、食糧庫とかにでも────」

「食糧庫とか物置とかには困ってないから気にしなくて良いの!それとも、自分用の個室じゃなくて私の部屋で一緒に生活したい?」

「えっ!?そ、それは……」


 どちらかと言えば、そっちの方が迷惑をかけてしまうだろうし。

 というか、エレナさんのような可憐な人とずっと一緒に生活なんて、緊張してしまってリラックスできない……!


「で、では……ありがたく、個室を使わせて頂きたいと思います」

「うん!それで良いよ!……咄嗟に言ったことだったけど、二人で一緒に生活って結構良いかも……」

「え……?何か言いましたか?」

「あ、ううん!じゃあ、このまま上の方まで一気に案内するね!」


 エレナさんが何を呟いていたのかは聞こえなかったけど。

 僕に何かを伝えたかったわけではな無さそうなため、僕はそのまま気にせずエレナさんと一緒に螺旋階段を登る。

 そして、少しの間皆さんの個室がある階層が続くと。

 次は、両開き扉が一つだけの階にやって来た。


「エレナさん……ここは?」

「ここはお風呂だよ!正確にはその手前に脱衣所があるんだけど、この拠点のお風呂は約五十人で一緒に生活してる建物のお風呂っていうだけあって、結構広いんだよね〜!」


 広いお風呂……あまり入ったことはないけど、良いな。

 なんて思っていると、両開き扉の奥にある脱衣所の方から複数人の女性たちの声が聞こえて来た。


「────今日の訓練も疲れたけど、本当テラウォードくんのおかげでほとんど疲れ取れた気する」

「わかる!」

「私も最近肩ちょっと凝ってたかなって感じだったんだけど、テラくんのおかげで一気に軽くなった感じする!!」

「肩凝ってる感じするのは、おっぱい大きいからじゃない?」

「え〜?そっちだって私と同じぐらいじゃない?どうしてるの?」

「私たちはよく動くから、とにかくブラを────」


 ────これは、僕が聞いてはいけない会話だ。

 そう直感した僕は、すぐに螺旋階段の方に振り向くと、足を進めながら。


「エ、エレナさん!男性用のお風呂がある場所にも、案内していただけるとありがたいです!」

「男性用……?フィンくんも知っての通り、この部隊は今まで女の子しか居なかったから、そんなの無いよ?」

「……え?」


 その言葉に思わず足を止めると、僕は動揺を隠せないまま、エレナさんの方を振り向きながら恐る恐る。


「で、では……僕は、これからどこでお風呂に入れば良いんですか……?」

「どこって、それはもちろん────この拠点唯一の、今目の前にあるこのお風呂だよ!」


 そう言って、エレナさんが指し示したのは……


「おっぱいが揺れちゃうこととかも考えて────」

「近接戦闘だと────」

「このブラ結構お勧め────」


 耳を澄ませばそんな声が聞こえてくる、今まさに目の前にある扉だった。

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