高嶺の花がオレをプロデュース!? コミュ障ベースヴォーカルが青春を手に入れる物語。

井熊蒼斗

高校2年生編

プロローグ 全国への第一歩、決戦の舞台

 3月───高校2年生がもう時期終わるという頃。


「〝MEBUKI〟の皆さん、スタンバイお願いします!」


 舞台袖に響くスタッフの声に、高校生スリーピースバンド〝MEBUKI〟のベースヴォーカル、神室千成かむろかずなりは深く息を吐いた。

 手の平に滲む汗をジーンズで拭いながら、ベースのネックを握り直す。


「ここで勝てばいよいよ……全国だな」


 隣でギターを抱えた健明たけあきが呟く。康太こうたもドラムスティックをペン回しの要領で回転させながら、小さく頷いた。


「もう、関東にオレらの敵はいない。ぶちかますぞ」


 千成の言葉に、3人はそれぞれの思いを胸に舞台へ出ようとした。


 ───が。


「ちょっと待って!」


 凛とした声が彼らを止める。

 千成が振り返ると、そこにはノートを片手に立つプロデューサー、三谷衿華みたにえりかの姿があった。


「衿華?」


 千成は、なんで声を掛けてきたのだろうかと不思議に思う。

 けれど衿華はパラパラとノートをめくりながら、彼らの前に立っていた。


「康太、バスドラの入り、音が安定しないことがあるから、もうちょっと落ち着いて入って」


「イエッサー!」


「健明は、2番のギターソロ、最後の音を伸ばす時間を意識して」


「任せろ」


 健明と康太はすぐに頷く。衿華の指摘は的確で、信頼できるものだからだ。

 そして彼女は最後に、千成へ視線を向ける。


「千成、今日の客層、普段のライブより年齢層高めだから、ちょっとだけMCで喋る量を長めにしたほうがいいよ」


「解った。ありがとうな」


 そう言って千成はステージへ登ろうとする。


 ───が、それを衿華は許さなかった。


 彼女は一歩前に出ると、千成のベースのストラップ(楽器を肩にかけるためのベルト)を掴んで、ぐいっと少し引き寄せたのだ。


「千成。まだ話は終わってないよ」


 衿華は、千成に微笑みを向けるのだが───その表情はいつも彼に向ける蕩けきったものとは違う、冷えきったような笑顔。鬼プロデューサーとしての一面である。


「歌い方もそうだね…… 今日の会場、音の響きがちょっと柔らかめ。だから、千成はいつもより声を少しだけ前に出して。オーディエンスにぶつけるつもりで……ね? 決勝だし、少し余裕を見せた方が有利に働くかも」


「……お前、どこまで計算してんだよ」


「全部だよ。〝MEBUKI〟を優勝させるためにね」


 衿華はにっと笑い、千成───そして隣の健明と康太を見る。


「最後に、もう1つ言わせて。〝MEBUKI〟は、ただ上手いだけのバンドじゃない。音楽で人の心を動かすバンドなの。自信を持ってね」


 少しだけ黙り込んだ千成は、心の中で決意を固めると少しだけ笑った。


「……お前がそう言うなら、信じるわ」


「当然でしょ。私は君たちのプロデューサーなんだから」


 衿華が腕を組みながら満足げに頷く。


「じゃ、行ってらっしゃい。会場の空気を全部〝MEBUKI〟のものにしてきてね!」


「「「やるぞ!」」」


 メンバーたちは拳を合わせ、舞台へと向かう。


 そして───


 暗転したステージにスポットライトが灯った途端、爆発的なイントロが響き渡った。



_____________________


第1話では、時系列は1年ほど前に遡り、衿華と千成が出会うシーンから始まります!

お楽しみください!

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