狐の嫁入り

蒲公英

第1話 終業式

明希あき、いい加減起きなさい!!!」


うるさい。

疲れてるんだよ。


なり続けるアラームを切りつつスマホの画面を覗き見る。

相変わらず大量の通知が来ている。


もう8時。

また寝坊か。

鉛のように重い身体を起こして着替え始める。


妹はもう家を出ているらしい。

食べかけだったであろうトーストを母が食べている。

脳を起こしたくて冷めたコーヒーを流し込む。


「今日はもう学校休んだら?今日も朝起きれなかったじゃない。」

気遣いというには少しきつい言い方。


「別にいい。今日は終業式だから早く終わるし。終わったら塾行ってるよ」


「お昼のために帰ってきたらいいじゃない」


「いいよめんどくさいし」


「そんなところでちゃんと勉強できるの?」


家よりかは。そう言いたいけど、グッと堪えながら靴を履く。


「いってきまーす」

「、いってらっしゃい」


ほんと、ほっておいて欲しい。

こっちだって別に好きで学校行ってるわけじゃないし。

サボりって言われて嫌われたくないんだよ。


まだ朝なのに太陽は容赦ない。熱されたアスファルトからむわむわと熱気が登ってくる。ツーっと汗が滴り落ちるのがわかる。


「うわ、電車まで5分しかない!」

急いで走り出す。



いつもと同じ電車に揺られながらスマホを確認する。

20件ほどの通知。

憂鬱だ。


卒業とともに別れを切り出した一つ上の元彼が飽きもせず、毎日毎日復縁を迫ってくる。

正直、もう気持ちなんて半年前に冷め切ってたのを、受験が終わるまで我慢していたというのに。

こっちが受験だということを考えもせずに、泣き言を送ってくる。

そういうところが原因になっているとは思わないのだろうか。



チャイムギリギリで教室に滑り込む。先生はまだ来ていない。


「ねぇねぇ、夏休みどこか行くー?」

「お盆はおばあちゃん家に帰るかな」

「彼氏と一日だけデートに行く!」

「うちはライブ取れたんだよね」


「明希はどう?」


「私?私は別に何もしないかな、。」


「さすがー。クラス1位はやっぱり違うね」

「夏休みぐらいいいじゃん、ちょっと遊んでも」


苦い。


「はい、おはようございます。今日は始業式ですね、はい、じゃあもう体育館に移動しましょう。受験生とはいえ、人生ほとんど最後の終業式なんですから、くれぐれも単語帳など持っていかないように。」

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