第33話 魔王の力
元の場所に戻れば、二つの大きな気配を街中に感じた。
これは――わかる。わかるぞ。ボタンとコンゴウだ。
「二人も魔王になれたんだ」
殺すのはもういいかな。
俺は不老不死になったし、状態異常は何も効かないから命の心配をする必要がない。
「じゃ、お祝いの言葉を掛けないとね」
瞬間移動でまずはボタンのもとへ。
移動した場所は人が大量に死んでいる別の門の広場。
――って、誰やねん!
傍には頭にピンクの花を咲かせ、緑の肌をした、胸もお尻も大きい超絶美女がいた。着ている服から恐らくボタンだとわかるが、イヌ耳と尻尾が消えている。
推定ボタンは今、手から大量のつるを伸ばして死体に突き刺し、ちゅうちゅうと血を吸っていた。
俺の気配に気付いたのか、彼女が振り返る。
「その気配、チエさんですかぁ?」
「うん。そういう君はボタン?」
「はいぃ」
「そっか。魔王になったってことでいい?」
「はいぃ。種族がハートアルラウネっていう植物の魔物に変わっちゃいましたけどぉ」
種族が変わるなんてこと、あるんだ。
「まぁ、おめでとう」
「ありがとうございますぅ」
「目的も達したし、そろそろ楽園に戻ろうと思うから、砂上船乗り場に集合で」
「わかりましたぁ」
よし次、コンゴウに会おう。
瞬間移動でコンゴウの傍に到着すれば、壊れた屋台が並び、食材が散乱し、死体が折り重なるように転がっている凄惨な状況の市場があった。
傍には金属光沢のある銀色の肌をしたマッチョな男が立っていて、動かずに周囲の地盤を変化させて死体を地面に沈めたところだった。
着ている服や、トカゲの尻尾から彼がコンゴウであると判断。でもちょっと自信がない。
「……えっと、コンゴウ?」
声を掛けると彼が振り返った。
あらやだ、クールなイケメン。
「そういうお前はチエだな?」
「うん。コンゴウは魔王になれた?」
「ああ。アダマンタイトリザードという種族になったうえで、魔王になった」
アダマンタイト――確か伝説の金属だったか?
「目的は達したし、砂上船乗り場に集合して楽園に戻ろうか」
「わかった」
魔王になったコンゴウと一緒に砂上船乗り場に戻る。乗り場にある死体は非常食として二人でアイテムボックスに閉まっていると、ボタンが合流した。
「お待たせしましたぁ」
「……ボタン、だよな?」
「はいぃ、そうですぅ」
「そ、そうか」
ボタンの変わりようにコンゴウは戸惑いを見せたが、すぐに切り替えて言った。
「まぁいい。二人は空を飛べるよな?」
「うん、飛べる」
「飛べますぅ」
「よし。ボタン、ワイバーンはどっちの方角に飛んでるかわかるか?」
「んー……」
ボタンは少し考え、頭の花とは別ににゅっと生えた細長い葉っぱが、レーダーのようにくるくる回りだした。
「……あっちですぅ」
居場所がわかったのか、ボタンが指さした。
「あっちか。行こう」
コンゴウが飛び立ち、俺とボタンがそのあとに続いて飛んだ。
――あっ、瞬間移動って誰かと接触してたら一緒にできるかどうか、実験するチャンスだったのに逃してしまった。
まぁいいや。こうして空を飛ぶのも慣れておかないといけないし。
それなりの速度で空を飛ぶことしばらく。
突然、ボタンが言った。
「あれぇ? ワイバーンさんの気配が消えましたぁ」
ワイバーンが消えた?
何かあったか……。
「急いだほうが良さそうだな。ボタン、チエ、飛ばすぞ」
「はいぃ」
「うん」
コンゴウも俺と同じ考えなようで、移動を速めた。
それから少しして、魔王として素晴らしい視力が見覚えのある一隻の砂上船を、遠方に捉えた。
でも、何か様子がおかしい。ワイバーンがおらず、周囲に砂埃が舞っていてよく見えない。
――むっ、でかいワームの群れに襲われてる!?
目を凝らせば十数メートルはあろうかという、推定サンドワーム十数体に砂上船が付き
船の中に衣服があったのか、マシな衣服に着替えた兵士たちが弓や備え付けの
やるな将軍。
でも一人で対処は無理だな。
「ボタン、コンゴウ、先に行くね」
返事を待たずに瞬間移動し、俺はヴァンの隣に立った。それからすぐに動いて船の甲板に食らいつこうとするワームを【ネコパンチ】で吹っ飛ばした。
華麗に着地し、振り返って言う。
「ヴァン将軍、助けが必要かな?」
「ネコ神様――お願いします!」
「ん、任された」
まぁ、俺はド派手な攻撃手段なんて持ってないから、殴ったり蹴ったりだけなんだけどな。
それでも魔王としての力を誇示するには問題ない。早速動いた俺は砂上船を守りながらワームを攻撃し、次々と吹っ飛ばしていく。
「撃ちまくるですぅ!」
ボタンの声が聞こえて振り向けば、空中から手の平をワームに向け、凄まじい連射速度で
うわぁ……えげつない火力。
――うわっ!
ドンッという音が別の場所で聞こえて振り向けば、巨大な砂柱が立っていた。
気になってワームを倒しつつ見れば、砂柱が消えた位置にコンゴウが空中に留まっていた。視線は足元に向いていて、そっちを見ればワームだった無数の肉片と血が砂の上にぶちまけられていた。
まさかただの殴りで今の威力?
こわっ。
コンゴウの強さに恐ろしさを感じながら三人でワームを倒し続ける。
だが、ワームが次から次へと現れてキリがない。
……数が多くてめんどくさいな。
そうは思うが俺には広範囲を攻撃する為の手段がない。
でも代わりに、ボタンが動いた。着地すると足が大量の植物のつるへと変化して地中へ潜った。
砂から姿を見せているワームたちは引きずり込まれるように砂の中に消え去り、大量にいたワームが出てこなくなり、ボタンはお腹をさすりながら言った。
「ごちそうさまでしたぁ。ワーム、全部食べましたよぉー!」
食べた? 全部??
どんだけ食欲あるんだよ。
けど、これで襲撃も収まったし……まぁいっか。
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