第30話 地理を知る
全ての牢を開けて人々を開放し、ノルンと名乗った彼女とその他をぞろぞろ引き連れて地下を出た。
「みんな死んでる……流石はネコ神様!」
「あーうん」
ノルンからキラキラした視線が向けられて、なんだかやりづらい。
「とりあえず、ここ出よっか」
移動を始めると、女の人たちはともかく、男たちは倒れている兵士から武器を拾って武装し、何故か俺とノルンと女たちを守るように動き、一部は先行偵察までやり始めた。
「ノルン、この人たちは?」
「私の国――クルス王国の優秀な兵士たちです。将軍、みなを代表してご挨拶を」
「はっ」
前で護衛していた、この場の誰よりも屈強そうな体に、手入れできずに無精ひげを生やしつつも誠実そうな顔の黒い短髪の男が、歩きながらということで横に並んだ。
「初めましてネコ神様。他を代表してご挨拶させていただきます。私はヴァン・アイオン。クルス王国で第一軍を任されていた者です。お見知りおきを」
この人、地下牢で声出してた人じゃん。
「チエだよ。よろしく」
「はい。よろしくお願いします。護衛に戻ります」
挨拶が済むとヴァンは元の位置に着いた。
「ところでノルン、どうして君たちは捕まってたの?」
「戦争に負けてしまったんです。私はヴァンたちに連れられて国を出て、逃げ延びていたのですが……つい数日前、とうとう捕まってしまい、処遇をどうするかで牢に入れられていたのです」
「ふーん。戦争に至った原因は?」
「クルス王国は砂漠の中心に位置する小国でして、両隣の大国に挟まれていました。今回の戦争では北のイスタン帝国が大型砂上船の開発と量産に成功し、南のギルガ王国に攻め入る為の
なるほど。やっぱり戦いは数というわけだ。
「その大型砂上船って、作るの難しいの?」
「いいえ。ですが船の竜骨に使う部分にはかなりの強度が必要で、その素材は魔物の骨が使われています。私たちの国の周辺では大型砂上船に使える魔物の骨はほとんど見つからないのですが、どうやらイスタン帝国では魔物の骨を大量に発掘したみたいなのです」
で、大型砂上船が量産されて物量でやられたと。
「じゃあ次、現在地はどうなってるの?」
「ここはイスタン帝国の帝都です。もし脱出するのなら大型砂上船を一つ頂戴して、街道を進めば私の国に辿り着きます」
「砂漠に街道あるんだ」
「木の棒を地面に打ち込んで、赤い布を先端に付けて目印にしたものですけどね」
ある程度話が聞けたところで、前にいるヴァンが立ち止まった。
「殿下、神様、宮殿を出ます。走る準備を」
「わかりました」
「ん。あっ、ちょっと待った」
これ言っておかないと余計な混乱を生みかねない。
「外に出たら、もしかしたらワイバーンと人に化けた魔物が二人――いや二体? いるけど、そいつら私の仲間だから下手に攻撃しないでね」
「了解しました。みんな聞いたな? 迂闊な行動はするな。俺たちは全員無事に砂上船まで行くことだ」
ヴァンの言葉に周りの者たちが力強く頷いた。
「では――行くぞ!」
合図と共に一斉に走り出す。俺にとっては散歩くらいの速度だが、隣のノルンと女性たちは必死だ。
道中は逃げ惑う住人とすれ違うくらいで帝国の兵士や冒険者とは出会わず、何も起こらずに外壁の門を抜けて砂上船乗り場まで着いた。
そこでは砂上船を使って逃げ出そうとした住人たちが――死体となって大量に転がっていた。ワイバーンが大人しく座っていて、ボタンとコンゴウが人間の死体をおやつ感覚でゆっくり食べている。
「チエさん、遅いですよぉ」
「ここらはもう片付けておいた。そいつらは?」
コンゴウの問い掛けに、俺は戦う意思を見せていないヴァンたちよりも前に出てから言った。
「この人たちは……まぁなんと言うか、私の信者?」
「そ、そうか」
「食べちゃダメですかぁ?」
「ダメ。情報源だし、これから楽園の住人になるから」
「そうですかぁ。残念ですぅ」
よし。
これで食べられずに済む。
「ボタン、ワイバーンを借りていい? 楽園まで道案内させたい」
「いいですよぉ」
「というわけだノルン、砂上船に乗って先にここから離れるといいよ」
「わかりました」
「はっ」
ノルンは俺に従い、ぞろぞろと引き連れて一番立派な砂上船に乗船した。
「……さて、二人に耳寄りの情報が手に入ったからお知らせ。なんと! 魔物は成長すると魔王になり、そして神へと到る――らしいよ」
「ほえぇーそうですかぁ」
「驚くべきなんだろうが、その情報……前からネットで考察されていたぞ」
「えっ、マジ?」
「マジ。魔王についてはリークされていたし、神へ到るって話も、ずっと先のアプデであるんじゃないかと考えられていた」
しまったな。サービス開始が楽しみで情報を遮断してたから、そういう話があるなんて知らなかった。
「……まぁいいか。それより、逃げ遅れた人間たちを殺して食べよっか」
「はいですぅ。もうお腹ぺこぺこでしたぁ」
俺たちは正門から都市へ戻り、それぞれ分かれて生き残りを殺して回った。
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