第20話 トカゲと出会う




 湿原で現在地と集合場所がわからず、日が暮れる寸前になんとか戻ることができた。


「クレイさん、遅いですぅ! 先に食べちゃったですぅ!」


「うん、ごめん」


 ぷんすか可愛く怒るプランに謝り、その横を見る。使役したタコの他に、新たに大きなヘビと大きなカニが使役されていた。

 大きなヘビは綺麗な深緑色で、全長は五メートルほど。体も太くて俺やプランぐらいなら丸呑みできそうだ。

 大きなカニは全身が曲線を描いて丸っぽく、爪や足の先端が白くなっているが、それ以外はこげ茶色。三メートルほどの大きさ。


「ところで、このヘビとカニは?」


「非常食ですぅ」


「さいですか」


 非常食なんだ。確かに美味しそうだけど。


「あっ、これクレイさんのごはんですぅ」


「おぉ、ありが――とう」


 カニがハサミで掴んで出して来たのは、ヌルヌルした体表のナマズっぽい魔物。一メートルくらいある。


「……プラン、これ食べた?」


「はいぃ。生臭さと泥臭さ、えぐみと苦みがあって食べられたものじゃないですぅ」


「そっかー」


 聞かなきゃよかった。食べるけど。


 ガブリ。


 ……うん。アビリティ【悪食】のおかげで食べられなくはないけど、普通に美味しくない。


 心を無にしてお腹いっぱいまで食べ、今日の活動はやめて寝た。






 翌日。

 日の出とともに起きた俺は朝日を浴びつつ、うにょ~ん、と伸びをしてから木を降りた。プランが眠っていて、傍にはタコとヘビとカニが守るように眠っている。


「おーい、朝だぞー。起きろー」


 と言いながらペシペシと軽いネコパンチ。


「ううーん、あと五分……」


 ……昨日と同じだな。


「起きろー」


 少し声を大きくして、ペシペシペシペシ……ネコパンチしまくった。

 するとようやく起きた。


「んん、おはようございますぅ。起きたからやめてくださいぃ」


「ん、おはよう。朝ごはんにしよう」


「はいですぅ。みんな、お肉を取って来てくださいぃ」


 指示に従い、三体が動いて獲物を取りに出掛けた。


 あぁ、暇だ……。


 待っている間が手持無沙汰で、俺は木に登って毛づくろいでもしながら周辺の観察でもすることにした。


 ――ん?

 なんか、こっちに近づいて来てる奴がいるな。


 見た目はトカゲっぽい魔物だ。全長二メートルほどで、体表は茶色。

 目が合った。


「プラン、あっちの方から何か来てる。気を付けて」


「わかりましたぁ」


 知らせて警戒させ、俺は観察を続ける。

 トカゲは狙いを付けたかのようにまっすぐこっちに向かっている。今逃げたとしても追ってくる可能性が高いだろう。


 使役してる魔物が出払ってるのが痛いな。

 いや、気取られない範囲からタイミングを見計らっていたと考える方が自然か。

 もし相手が想像以上に強かったら、プランを捨てて逃げないと。


 かなりの距離まで接近されたところで、トカゲはピタリと止まった。

 そして口を開いた。


「俺はプレイヤーだ。お前たちもプレイヤーだろう? 話し合いがしたい」


「クレイ、どうしますかぁ?」


 困ったな。

 プレイヤーとの話し合いなんて想定してなかった。


「……まぁ、応じようか」


 木から降りると、トカゲはゆっくりと近づいて来た。


「初めまして。俺はここらでゲームが始まった種族:マッドリザードだ。長いからマッドと呼んでくれ」


「どうも、クレイジーキャットです。仮の名前でクレイと名乗ってます。よろしく」


「プラントウルフのプランですぅ。同じく仮の名前ですぅ」


 挨拶が終わったので、俺から聞いてみる。


「それで、用件は?」


 ただ会いに来ただけではあるまい。


「うむ。近くに人間の集落がある。俺だけだと骨が折れるが、さっきのでかい魔物を使って襲えば、多くの人間を食べて一気にレベルを上げられる。どうだ? 悪い話ではないだろう?」


「……なるほど」


 人語が話せて、近くに集落……つまりこいつは集落を一度襲って人間を食らい、目を付けられてしつこく狙われているから俺たちを使ってどうにかしようと考えているわけだ。

 それを言ったら敵対しそうだから言わないけど。


「……レベルも上げたいし、いいよ」


「感謝する」


 マッドは頭を下げた。元々四つん這いのトカゲだから、姿勢がほとんど変わっていない。


 さて、殺すか殺さないか……どっちにしよう?


 悩んでいる間に獲物を取りに行っていたタコ、ヘビ、カニが戻って来た。ナマズの魔物が三体、俺たちの前に置かれた。


「……プラン、どうする?」


「ふえぇ、他のお肉を探すのは時間が掛かり過ぎますからぁ、我慢して食べますぅ」


「そんなにマズいのか?」


「食べればわかるよ」


 戸惑うマッドにそう伝え、三人一緒にガブリ。


「ふえぇ、不味いですぅ!」


「うっ、これは……せめて焼くことができればな」


 それは思う。ないものねだりだけど。


 楽しみではなく栄養補給として黙々と食べ進めていると、マッドの数センチ横に矢が刺さった。


 わおっ!


「くっ、見張られていたか!?」


 矢の刺さった位置からある程度の方角はわかったので、マッドと同時にすぐさまナマズの反対側に隠れる。遅れてプランが隠れたのは気にしない。

 そっと顔を出して確認。


 ――いたっ!


 かなり離れた位置、半そで短パンのカラフルな民族衣装を着た男が一人、こっちに弓矢を構えていた。

 矢が放たれ、マッドの隠れるナマズに刺さった。障害物がなければ当たっているところだ。


「マッド、おおかた察しはついてるけど、明らかに狙われてるよね?」


 俺が問い掛けると、マッドはバツの悪そうな顔をして口を開いた。


「……すまん。本当は集落を襲って恨みを買って付け狙われてる。どうにかしようと、お前たちの力を利用しようとした」


「やっぱり……。プラン、どうする? 今ならお互い何もなかったで済ませられるけど」


「一緒にごはんを食べた仲なのでぇ、助けてあげてもいいと思いますよぉ」


「だってさ」


「……ありがとう」


 会話している間に男は弓を下ろし、素早い足取りで逃げ始めた。きっと、集落に戻って俺たちのことを報告するつもりなのだろう。


「マッド、どうする?」


「追った方がいいだろう。時間を掛けると態勢を整えられる」


 というわけで俺たちは男を追うことにした。罠とかある場所に誘導されそうな気はするが、マッドの言うことも正しいので何も言わない。




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