16話~31話
第16話 旅立ち
二人と別れてから走り続けていると、森を出た。
雨のせいで視界が悪く、遠くまで見渡せないが平原だとはわかる。見えているのは踏み慣らされてできた街道ぐらいだ。
「ここからどうしよう?」
立ち止まって声に出してみるが、答えてくれる相手はいない。
ぐうぅっとお腹が鳴る。
そういえば朝から何も食べていなかった。
何か食べたい。何かないかな?
街道に沿うよう、走って来た進路のまま歩き出す。
芝や雑草、低木や木が生えているが、食べられそうなものが見当たらない。
またお腹が鳴ってしまう。
……アビリティ【悪食】があるし、そこら辺の草でも食べてみようかな。
アビリティのことを思い出したので、ヨモギっぽい雑草をぱくり。
苦い。雑味もある。けど不思議とえぐみを感じない。
春菊みたいなものと思えば食べられなくはないかも。
食べられることがわかったので、目についた草や花をパクパク食べていく。決して美味しくはないが、
お腹もそこそこ満たせたのでまた歩き始めた。
……ブラッド、無事だといいなぁ。あとマッスルも。
歩き続けていると雨が激しくなり、風が吹き始めた。急いで近くの木陰に入って雨宿り。イヌみたいに体をブルブル震わせて水気を飛ばし、ペロペロ舐めてしばらく毛づくろい。
うん、ばっちり!
ボサボサの毛が元通りの
あとは雨が止むのを待つだけだが、空は一面が灰色の雲に覆われていて止む気配がない。
「……寝よ」
眺めるのに飽きたので、俺は木を昇って寝た。
…………まだ夜か。
目が覚めたら辺りは暗くなっていた。
魔物は暗視の能力が元から備わっているのでよく見えるが、暗さ自体は感じられる。
「ふあ……」
大きな欠伸をし、うにょ~ん、と伸びをしてから木を降りる。雨はすっかり止んでいて、風も穏やかになり、雲も流れてまばらになっている。
これなら、朝になれば晴れるかな。
なんてことを思いつつ寝起きのトイレを済ませ、濡れた草の上を歩き始める。
朝ごはん――いや、夜ごはん?
は、何かないかな~?
お?
獲物を発見。ゆっくり動く緑のスライムだ。草を取り込みながら進んでいるのか、ナメクジみたいに粘液の痕ができている。
……食べられ、るよね?
よし、食べてみよう。
アビリティ【悪食】を信じ、襲い掛かってガブリ。
青汁だこれっ!
核はどんな味だ?
顔を体液に突っ込んで丸い核をガブリ。
血と苦み……
それ以上の感想はない。あとはその辺に生えてる雑草を食べて腹を満たし、ひたすら歩く。
暗視の能力があっても夜行性の魔物が少ないのか、それともこんな平原にはいないのか、出会うこともなく徐々に景色が明るくなり、背中から日の出となった。
「……いい天気だ」
草に付着している水滴が光を反射して輝き、キラキラとした幻想的な景色を見せてくれる。
「あぁ、スクショ撮りたいなぁ。メニュー」
試しにメニューを出そうとしてみるが、反応はない。
「……まぁそうだよね」
諦めて今だけの景色を楽しみながら歩き続ける。
時間が経つごとに太陽は昇り日の出じゃなくなり、雲も少なくなって清々しい青空に変わる。
鳥の魔物が羽ばたき、小型の魔物が遠くで活動しているのが目につくようになり、街道に馬車や人がちらほらと見るようになった。
人間を襲ってレベル上げをするべきなんだろうけど……まだやめておこう。ブラッドがやられてエルフの女が無事であるなら、俺かマッスルの行方を追うだろうし、距離的に近すぎる。せめて街の一つか二つ離れてからじゃないと危険だ。
「ん?」
誰にも見られないように移動していると、前方から何かがこっちに向かって来ていた。
…………イヌ?
灰色の毛をした大型犬だ。動きがぎこちなく、右の腰に矢が一本刺さっていた。そのイヌの魔物の背後――少し離れた位置から冒険者だろう少年二人が追って来ている。
片方は皮鎧に小さな盾と剣を装備した剣士。
もう片方は弓矢を装備しているレンジャー。
あっ、倒れた。
どうやらイヌは出血か疲労――あるいは両方の影響で力尽きたみたいだ。少年二人は嬉々とした表情で足元まで来ると、剣士の方は剣を逆さまにしてイヌに突き立てようとした。
――が、それを射手の少年が肩に手を置いて止めた。こっちを指さしながら何かを伝え、二人と目が合った。
……あっ、自分の体色が目立つの忘れてた。
でも丁度いい。
あのエルフの女には効かなかったけど、新人っぽい二人が相手なら効くはずだ。
【狂気の瞳】!
剣士がこっちに向かって走り出し、レンジャーが弓矢を構えたところでスキルを発動。剣士は突然絶叫してその場で剣を振り回し、レンジャーは矢を明後日の方向に放つと恐怖に怯えて悲鳴をあげながらばたりと倒れた。
しばらく剣を振り回していた剣士は幻覚や幻聴に耐えきれなかったのか、持っている剣で自分の喉を掻き切って死んだ。
「これはひどい……」
想像以上のヤバさだ。味方に掛からないように注意しないと。
でも便利だし、味方がいない状況なら戦いの足切りとして丁度いいかもしれない。
起き上がって困惑気味にその場に留まっている犬の魔物に近づき、声を掛ける。
「やぁ、元気?」
「わん、わおん」
言葉のように鳴き、前足を身振り手振りといった感じにせわしなく動かした。
あっ、こいつプレイヤーか。
「何を伝えようとしてるのかわからないけど、冒険者二人をまず食べたら?」
「……わん」
納得してくれたようで、イヌの魔物は冒険者を食べ始めた。ついでに俺も一緒に食べる。レベルは上がらない。
けれどイヌの魔物は体が光りだして、進化を始めた。
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