第12話 仲間が増えた



 木々が笑う中で青い蝶を追い、一個、二個、三個……とニジイロダケを食べていく。

 段々と幻覚や幻聴がひどくなり、視界は歪んで笑い声がみにくく恐ろしくなる。

 でも、恐くはない。幻だってわかっているから。


 ――これで六個目!


 ぱくりとニジイロダケを食べる。


 ピコン。


 〈アビリティ【毒耐性・小】が【毒耐性・中】になりました〉


 〈アビリティ【精神耐性・中】を習得しました〉


 アナウンスと同時に幻覚が消え、いつもの森に戻った。


「…………習得できた、のか?」


 首を傾げてしまう。


 うーん、まだ幻覚と幻聴が続いているようで実感が湧かない。

 ステータスと詳細を見れば、今がまともな状態ってわかるかも。



 名前:ドラ(仮)

 種族名:ドランクキャット

 レベル:14

 スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】

 アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【毒耐性・中】、【美化・小】、【精神耐性・中】


 アビリティ【毒耐性・中】

 ・あらゆる毒に対してそれなりの耐性を得る。


 アビリティ【精神耐性・中】

 ・あらゆる精神攻撃をそれなりに防ぐ。



「ゲームなのに精神攻撃? あるの?」


 だとしたら、『パンデモニウム・オンライン』はプレイヤーの安全性を無視した違法ゲームだ。精神に直接作用なんて、現実に戻っても後遺症が出てしまう。


「……本当にここはゲームの中なのか?」


 わからない。

 違法ゲームなんて作っても、社会的信用を損なうだけでやるメリットが全くない。ログアウトできなくするのもそうだ。

 まだデスゲームかよく似た異世界の方が可能性が高い。

 気になるが、調査するには俺はまだ弱くて無理だ。


「帰ろう」


 一人で考えても仕方ないので、俺は拠点に戻ることにした。






 日が沈み森の中が暗くなり始めたところで拠点に帰還。ブラッドは焚火を作って傍に座り、クマの肉に木の棒を刺して焼いていた。それとクマの毛皮が木の物干し竿に掛けて乾燥させられている。


「ただいまー」


 と言いつつブラッドの横に座る。


「おかえり。いい気分転換になったか?」


「んー……まぁ」


「……どうした? 元気なさそうだが」


「ちょっとね。改めて考えると、ここって本当にゲームの中なのかなって」


「あー……それは俺も考えた。だが現状は情報が少な過ぎる。答えは出ないんだから、今は生きることを優先しつつ楽しむことにしてる」


「そっか」


「あと、もしこれがゲームじゃなくて異世界だってわかっても、後悔はしない。俺は今魔物なんだからな。人間の価値観や道徳を問われても筋違いだ」


「……確かに」


 今の俺も魔物だ。

 人を殺したのが現実だったとして、人間辞めた状態なら法律とか道徳とかは当てはまらない。

 ちょっとセンチメンタルになっていたみたいだ。


「ほらよ、肉食って元気出せ」


 ブラッドが石の皿に焼けたクマ肉を載せ、俺の前に置いた。

 香ばしい肉の香りが鼻を刺激し、自然とよだれが口の中にあふれ出す。


「ありがとう。そしていただきます」


 ガブリ。


 ……ううーーん……微妙。

 肉が硬いし獣臭いし癖の強い味だ。

 塩コショウが欲しい。


 思うことはあっても貴重なたんぱく源なのでそこそこ食べ、デザートに近くに実ってる黄色いキウイを沢山食べて酔った俺はそのまま寝た。







 翌日、小鳥のさえずりで目が覚めた俺はネコらしくうにょーんと伸びをし、小屋から出た。

 枝葉の間から朝日が差し込み、幻想的な森の光景が広がっている。


「……いい天気だ」


 ぐっすり眠れたから気分はスッキリ。調子は良好。運動がてら軽く走って川に移動し、朝のトイレを済ませてから水分補給。


 ああ、水が冷たくて美味しい。

 ん?

 他の魔物かな?


 物音がして振り向くと、赤いイノシシの魔物が水を飲んでいた。

 目が合うとこっちを向いた。


 またお前かよっ!!


 心の中でツッコミを入れつつ逃げる。

 随分速くなった移動で拠点に到着したが、イノシシは遅れて拠点に来てしまった。


 あーくそ。めんどくさいっ!

 ブラッドにぶつけて倒してもらおうかな?

 ――いやダメだ。クマをけしかけたこと根に持ってそうな気がする。

 やるしかない!


 イノシシの突進を回避し、すぐに追って飛び掛かる。


 【ネコパンチ】!


 顔面を殴るとイノシシは少し吹っ飛んで倒れた。


 おお、レベルが結構上がったからスキルの威力が高くなってる。

 これならいける!


 【ネコパンチ】!


 追撃にもう一発殴ればイノシシは地面を転がった。慌てて体を起こし、後ずさり始めた。


「ま、待って! 降参! 参った!」


 まるで土下座するかのように、前足を曲げて頭を下げた。


「は?」


 なんか喋ったぞこいつ!?


「いきなり襲うような真似してすんません。NPCだと思って」


 ほんとかぁ?

 動き方を見れば区別がつきそうなものだがな。


「とりあえず、相方起こすから逃げるなよ。逃げたら追い掛け見つけ出して殺すから」


 釘を刺してから小屋に入り、ブラッドの顔に乗る。


「おーい、起きろー。お客さんだぞー」


 ぺちぺちぺちぺち、前足で叩く。


「ん、んん――なんだドラ。何かあったのか?」


「あったから起きて。お客さん。プレイヤー」


「ああ、わかった」


 起きたブラッドは目をこすりながら小屋を出たので、俺も出る。

 イノシシはブラッドを見ると数歩下がり、恐怖心からか縮こまった。


「……お前、プレイヤーでいいんだな?」


「は、はい。種族:レッドボアのプレイヤーです。名前はまだないです」


「そうか。俺たちになんの用だ?」


「いえ特には。そちらのネコさんをちょっと襲ってしまっただけでして」


「あ?」


「ひぇっ、すいません」


「……まぁいい。一つ質問だ。どうして人語を話せる?」


「ああそれは、ちょっと前にトロールが一体村を襲って森に帰るのが見えたんで、俺も便乗して村を襲って三人ほどいただきました」


 おいおい……俺は隠れてやったからともかく、種族の違う魔物が二体、堂々と村を襲って人を食べ、森の探索に来た冒険者の一組が消息不明とか重大案件だ。

 というか、お前を討伐しにもう一組の冒険者が既に森にいそうなんだが?

 

「……なるほど。ドラ、俺としてはこいつを見逃して今すぐここを離れるべきだと考えるが、どうだ?」


「賛成。もっと村から離れた場所に行こう」


「じゃあ、そういうことだから。もう行っていいぞ」


「ちょちょちょちょっ、待ってどういうことです? 俺バカなんで説明してください」


 俺とブラッドは顔を見合わせる。このイノシシを無視したら付きまとって来そうな気がしたので、俺は頷いた。

 ブラッドは溜息を吐いた。


「お前も村を堂々と襲ったから、個別に討伐すると考えると冒険者がもう一組この森に入ってる可能性がある。そして、俺たちは冒険者の一組を始末した。数日もすればもっと強い冒険者が来る可能性が高い。だから今すぐ離れる。わかったか?」


「あぁ、そっか! なら付いて行きます! 戦いと嗅覚には自信があるんで、役に立てますから!」


 あっ、ダメだこれ。どっちみち来る気満々だ。追い払っても離れたところから絶対付いて来るぞ、こいつ。


 俺の思いと同じなのかブラッドは頭を抱えた。


「ドラ、いいか?」


「いいんじゃない? 戦力が増えるに越したことはないし」


「良かったな。レッドボア」


「はい、よろしくお願いします!」


 テレレレーン♪

 レッドボアが、仲間になったぞ!

 ……あんまり嬉しくないな。


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