回想〜父達の出会い〜
2002年 4月
中学校に上がった隼瀬は、最初が肝心だからと、同じ小学校からの友達とつるむばかりでなく新たな友達作りに励んでいた。そんな中、ある1人の男子に声をかけたところ、周りが少しざわついて、不思議に思いつつもそのまま話す隼瀬。
「これ、苗字やはたさん?って読むと?」
「いや、「わ」の方・・・って、あなた斎藤さんだっけ?僕の事知らんとですか?」
「ごめん、やわたさんか。ちゅうかもう名前覚えてくれたんだ!そりゃ知らんよ、僕達初対面だし。ちゅうかなんで敬語ね、同級生なんだけん」
「そ、そうね・・・(からかっとる・・・わけじゃなさそうだし、ただの世間知らずのバカか。まあ世間知らずはお互い様ばってん)」
「ねえ、八幡さん、下の名前は?」
「充電の充に希望の希でみつきと言います」
「へー、かわええね。あ、僕は隼に瀬戸の瀬って書いてはやせって言うけん、そんまま隼瀬って呼んでね、僕も充希って呼んでいい?」
「別に、お好きにどうぞ・・・」
小学校時代、殆ど周りと絡まなかった充希はなんだこいつ、庶民の男子は皆こんなんなのか?と不思議に思いつつ、特別扱いしてこない隼瀬に少しホッとして、この子となら自分の望む「普通の友達」になれるかも・・・とも思ったりしていた。して、ほぼ一方的に充希に語りかけて席に戻った隼瀬に、幼なじみで許婚の冬未が怪訝な顔で声をかける。
「隼瀬、八幡さんってあの八幡ホールディングスの一人息子て知らんだったつや?」
「え、ほんなこ(マジで)?あら〜、ほんなら僕ちょっと失礼だったかな・・・」
「後で俺と一緒に謝っとこ」
「そうね・・・って別に冬未はなんもしとらんたい」
「なん、俺も暁美姉ちゃんに学校でのあんたの事頼まれとっとだけん」
「もう、お姉ちゃんも過保護なんだけん・・・」
で、その後充希は皆から離れるようにいたりして中々会えず、やっとまた話せたのは給食後の昼休みの時間であった。
「あの、八幡さん、今朝はうちの隼瀬が何か失礼をば・・・」
「え・・・誰?」
「あ・・・俺、隼瀬の、えーと・・・」
許婚的なとはいえ、今はまだ正式に付き合っている訳でもないし、どう言ったものかと悩んで、保護者の葛西冬未ですととんでもない説明をする冬未の頭をペチンと叩く隼瀬。
「なんが保護者か!あ、あの、充希・・・僕、本当に充希のお家の事とか知らんくて、もし気分害したならごめんなさい」
「・・・・・・ふふ、あははは!」
初めて充希が笑うのを見て、目を見合わせて?という顔をする冬未と隼瀬。
「いやあ、ごめんごめん、いっちょんそぎゃんと気にせんし、なんなら初めてちゃんとした友達ができそうでちょっと嬉しいくらいだけんね」
「そ、そんならよかった・・・」
「八幡さん、その立場で結構苦労してきたんか」
「うん、まあ僕な一人っ子だし余計ね。そんで葛西くんも、僕の事は名前でいいよ。僕も冬未ちゃんって呼ぶけん。あ、やっぱ女の子だけんちゃん付けは嫌?」
「え、いや、そういう事じゃなくて、いきなり男子ば呼び捨てとか・・・」
「ええてええて。ちゅうか隼瀬の事は普通に呼び捨てしよったたい」
「そら隼瀬な、幼なじみで双子んごたもんで・・・」
冬未のその言葉に少し複雑な顔をする隼瀬を見て、(ほーん、なるほどね、ほーん)と全て理解して微笑む充希である。
「なら冬未ちゃん、隼瀬が他の女の子と付き合ったりしてもええと?」
「え、それは・・・」
「だって2人は付き合っとるわけじゃにゃあとだろ?」
「ま、まあ別に、そら隼瀬の自由だし・・・」
「ふぅん、そっか、冬未はそれでええとね」
「隼瀬・・・」
冬未なんか知らん!と言ってどこかへ行く隼瀬を、ただ見送るしかできない冬未。
「・・・なんで女子ってその辺素直になれんとね」
「いや、だって隼瀬はモテるし俺なんかより周りにもかっこええ女子いっぱい・・・」
「分かっとらんね・・・」
「な、なんがね充希ちゃん」
「いやあ、そら冬未ちゃんが自分で気付かんとしゃが分からんたい」
「なんやそれ・・・」
「男はね、女に気付いて欲しいもんよ。まあ、ばってん僕も友達として2人の事応援しとるけんね」
「あ、ありがとう充希ちゃん」
そして、何か相談事があったらと、自分の連絡先を冬未に渡し、隼瀬にも教えといてと告げ、充希は僕達二人でいて噂になるとまた隼瀬の機嫌があれだからと言って、冬未は教室に戻る。して、この日の放課後、隼瀬が充希を家に誘って、冬未と3人で一緒に帰る。
「そういや充希、普通に迎えの車とかないとね」
「特別扱いはやめてってお母様にも口酸っぱく言うとるしね」
「そっか、まあ充希も普通に僕達と同じ年頃の中学生だけんね」
「そうそう、ばってん皆なんか家があれだけんて腫れ物扱いちゅうか・・・だけん、なんべんも言うばってん、今日な隼瀬が普通に話しかけてくれてだっご嬉しかった。冬未ちゃんも知っとったごたばってん、あくまで友達として接してくれるしね。こぎゃんと、2人が初めてばん」
心底嬉しそうに笑う充希が可愛くて、思わずドキッと来る冬未である。して、学校からしばらく歩いて、隼瀬の家に着いた一行。と、普通にただいまーと言って入っていく冬未に、え?と驚き隼瀬の顔を見る充希。
「あー、冬未の家、あの向かいのあれでね。物心ついた頃から一緒だけん、互いに家族んごたもんでもあって」
「なるほど・・・(だけん、一緒におりすぎて2人ともはっきりせんのか)」
「まあ、そぎゃんこっだけん。ほら、遠慮せず上がって上がって」
「う、うん・・・お邪魔致します」
その育ちの良さを窺わせるように丁寧に靴を揃えて上がる充希を見て、冬未は脱ぎ散らかした靴を慌てて揃える。そんな様子を見て、出迎えた隼瀬の父、孔は息子と2人でくすくすと笑う。
「あ、隼瀬さんのお父様ですか、私、八幡充希と申します」
「なん、みっちゃん、そぎゃん堅い挨拶なんかいらんて。ゆっくりしてきね」
「はい・・・」
この地域の親世代なら自分の親や家の事も知らないはずないのに、八幡の名を聞いてもそんな素振りを見せない孔に呆気にとられつつも、ありがたいなと思う充希である。して、そのまま隼瀬の部屋に入って、孔の用意してくれたジュースとお菓子を食べながら、改めて話す3人。
「冬未ちゃん、ただいまーて言いよったばってん、いつもそんままここに帰ると?」
「うん、まあうちん家な両親共働きで、帰っても1人だけんね、ここなら姉ちゃんもおるし、おっちゃんもおばちゃんも自分家と思てよかよって言うてくれとるし」
「そっか・・・そういやさっきからちょくちょく話出てくるばってん、隼瀬のお姉ちゃんて結構離れとっと?」
「うん、9こ上よ」
「へー、話聞いとっと冬未ちゃんにとってもお姉ちゃんて感じね」
「ちゅうかむしろ、お姉ちゃんと冬未ん方が本当の姉妹っぽいくらいばん」
「まあずっと一緒におるどし、同性ならそっか。ちょっと僕も会ってみたいな」
と、噂をすれば何とやらとはよく言ったもんで、すぐに暁美の車の音が聞こえてきて、玄関の開く音がした後、暁美はいつものように着替えを終えると、弟の部屋に当たり前のようにノックもせずただいまーと入ってくる。
「はあちゃ〜んふうちゃ〜ん、お姉ちゃんがかえってきたぞ・・・あら?お友達?」
「お邪魔しております、八幡充希です」
丁寧に三つ指ついて挨拶する充希。
「八幡?ってまさか・・・」
「はい、やっぱしご存知ですよね・・・」
「そりゃあこの辺じゃほぼほぼ知らんもんはおらんし・・・充希ちゃん、隼瀬達と友達になってくれてありがとう」
「え、いえいえ、こちらこそ弟さんと妹さん?に声かけてもろてありがたいちゅうか・・・」
「・・・そっか、家があぎゃんだと大変よね、充希ちゃんも」
「分かってくれますか」
「うん、まあこん子達もばってん、お姉ちゃんもそぎゃんと気にせんけん。なんなら、みっちゃんも私ん事お姉ちゃんて呼んでくれてええばん?」
「いきなりみっちゃんて・・・まあ、すぐには難しいですけど、頑張ります」
「ふふ、じゃあゆっくりしてってはいよ」
「はい、ありがとうございます」
弟達の邪魔をしないようにすぐに出ていく暁美を見送って、ここはなんか落ち着くなと零す充希。
「充希・・・結構ちっちゃい時から色々苦労してきたつね」
「うん、会社の人も、お母様の友達とかいう人たちも、学校でも習い事でも皆、子供の僕に敬語で接してきたりして、なんでも買ってもらえたけど、本当は皆みたいにお友達と遊んだりしたいのに家の会社のなんかとかで行けんかったり・・・そのうち皆も僕ば誘わんくなって・・・・・・だけんね、今日隼瀬が何も気にせず誘ってくれてだっご嬉しかった」
「そっか・・・まあ僕達と一緒におる間だけでん家の事忘れたりできたらよかね」
「うん、私も充希ちゃんに人生楽しんで欲しいし」
「隼瀬、冬未ちゃん・・・ありがとう、その言葉だけで僕な救われるばん」
そして、この2人ならいつか、自分をあの豪華な牢獄の中から救ってくれるかもしれない・・・・・・と充希は今日初めて話したばかりなのに、そんな事を思っていた。これがこの後、何十年に渡って生涯においての大親友となる充希と隼瀬、冬未の出会いだった。
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