和佳奈と桃花 届いた想い(8-7)
ちょっと出てくるから。
玄関先に姿を見せたお母さんらしき人に告げて、桃花が歩き出した。
「遅くならないようにね」「すぐ戻るから」 受験を終えて、これから一人暮らしを始めようとする女の子とお母さんとのやり取りにしては、ちょっとそっけない。
どこに行くんだろう? まあこの辺、初めてで全然わかんないから、着いてくしかないけどね。
それより…… 何を話していいのかの方が全然分からなくて、黙ったまま桃花の後をついて歩く。
歩いた先に、小さな公園があった。高台にあって、フェンスの向こうに見える急な斜面には菜の花がたくさんの黄色い花をつけている。
シジュウカラのよく通る鳴き声が、公園をぐるりと取り囲む木々の間に響き渡った。これぞ春って感じの景色だ。
フェンス際まで歩いて行って、桃花が大きく深呼吸する。あ~って長く伸ばされた声の中には、少なくとも不機嫌な空気はなかった。
何となく、ほっとする。はあってため息を付いた私に今気付いたって感じで、桃花が振り返った。
「久しぶり」
「……うん」
「ここ、よく分かったね」
私の手の中にあるもの、思い出ノートとスマホにちらっと目をやって、桃花は何かを察したみたいだった。
「美月が、教えてくれた」
「あっそ」
それからまた、短い沈黙。
状況は全部分かってて、時間も限られてるっていうのも分かってるのに、何をどこからどう話していいのか軽く混乱する。
無表情に近い桃花の視線が、何かを促してるみたいだ。
そうだ、思い出した。色々あるけどさ、まずはここからじゃん。
私は意を決して、つかつかと桃花に歩み寄る。スマホの画面を操作して、それから桃花に見せた。
「――合格したの。4月から、私も桃と同じ大学だから」
一瞬、桃花が息を詰めた。私は桃花の目線の高さに手を掲げたまま、桃花の言葉を待つ。
にやり。私の見間違いじゃなかったら、それは――
「『わたしもももと』って、もがちょっと多いね」
皮肉っぽく言ったその端から、桃花の表情が柔らかく崩れていく。からかう様な言葉と裏腹なその笑顔に、私の心をせき止めていた何かも思いっきり崩れ去った
「知らないっ! もう…… バカっ!」
自分でも抑えられない気持ちが、びっくりするくらいに自分を動かす。私は桃花に思いっきり抱きついていた。
私の体を受け止め、一瞬ぎこちなく固まっていた桃花の両手が、ゆっくりと、静かに私の背中に回される。
最初に桃花と抱き合ったのは、真冬のさなかだった。あの時とは違う感情が、こんなにも穏やかな春空の下で激しく居場所を主張している。
好き――。やっぱり私、桃のことがすごく好きなんだ――。
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