和佳奈と桃花 受験前の最後の日々(7-3)


「――私も、ホントにびっくりしたんだけどね」


 そろり、そろり。何となく桃花の反応を伺いながら、触れていいのかいけないのか微妙な話題を口に出すみたいに私は話を始めた。

 なんか……。桃花、怒ってる? 怒ってるが言い過ぎなら、イライラ、ピリピリは確実にしてる。

 何だろう? 「草越君が放課後に私の所に来た」っていう出来事の中に、そんなに桃花をいらだたせる何かがあった? 見当がつかないから、こっちも必要以上に慎重になっちゃうみたいだ。


「私もびっくりしてる。んで?」


 わー、やっぱりいつもと違う……。私の知ってるのとは違う桃花と、話してるみたいだ。

 ……これは、アレかなあ? 仲のいい草越君が自分の知らないところで私と話したりしたのが、面白くなかったとか、そういうのかなあ?

 桃花は心の中で動いてる何かを私には見せたくないみたいで、キレイで整ってるけどちょっと冷たい、そんな表情で私と向き合っている。


「前置きとか、約束とかそういうのホントに全然なくってね。いつもみたいに勉強してたら、入口のトコ、あっちのドアのトコに立ってて、『ちょっといいか』って……」


 この居づらさ。何ていうか、「友達と、その友達が好きな人について話をする」みたいな感覚に陥ってしまう。草越君とは何もありませんよって必死で言い訳してるみたいで、自分で言っててバカみたいって思ってしまった。

 こんなはずじゃ、なかったのになあ。

 あの時に感じたコト、桃花に話したかったのになあ。



「――そっか。へえ、あいつがねえ。意外な感じする」

「うん、私もそう思う。桃や湯川さんから聞いてた感じだと、初対面の女の子にいきなり話しかけるタイプじゃないって思ってたから」

「あいつ、何て?」

「それがもう、いきなり。『露切と付き合ってるって噂聞いたけど、嘘だよな』って感じで。失礼しちゃうと思わない?」


 あちゃー。私の言葉にかぶせるように、桃花がそう言って天を仰ぐ。あいつ……。独り言の様に口にしたその言葉は、さっきよりもはっきりと苛立ちを含んでいた。


「あいつ、誰からそれ聞いたって?」


 え、それ? そっちですか?

 私は予想外の言葉にびっくりして、思わずまじまじと桃花の顔を見てしまった。だけど、私にそんな風に見られてるコトにも、桃花は気付かないみたいで――。

 仕方ないや。じゃあ答えてあげようか。でもさ……。


「噂で聞いたって、言ってた。だから私は、草越君が誰から私たちのコトを聞いたのか知らない。っていうか、名前出されたって、たぶん分からないと思う。桃、放送部のコトあんまり教えてくれないし」


 最後のは、余分だったかな……。だけど桃花の態度にむっとして、つい出ちゃったそれは本音でもあった。

 あいつ、あいつって。部活で仲良かったのは分かってるけど……。もうちょっと、もう一言でいいからさ、私のコト、心配してくれても良くない? 私、初対面の草越君にわぁわぁ言いつのられて、ホントにびっくりしたし、最初は逃げ出したいくらいだったけど、でも頑張ったんだよ?


 桃花が好き。その気持ちに気付いちゃったからさ、それでちゃんと草越君には伝えなきゃって思えたんだし……。


 欲しい言葉をくれない桃花への苛立ちなのか、草越君のコトばっかり聞いてくる桃花への焼きもちなのか、何なのか自分でもよく分からないけど、桃花の態度が伝染したみたいに私の心をトゲトゲにする。


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