桃花と和佳奈 12月(5-6)
「あの時は、本当に絶望してた。自分の書いたモノを茶化された気になって、ひとりでかーっとなって、けんかして放送部の空気悪くして、今まで仲良くやってきたの何だったんだろうって……」
「それだけ、桃にとって大切な劇だったんだよ……。譲れないものがあるとか、私にはないからいいなって思う」
「ありがと。だけどそういう『創作のこだわり』だけじゃないトコがまたかっこ悪くてさ。この放送劇の前、文化祭だったじゃん? あの時は放送関係のトラブルがすっごく多くて、他の部からも後で苦情とか来ちゃって、私も部の子たちもピリピリしてたの。その空気を引きずったままあんな劇やろうって思った私も悪くて」
「ワンクッション置けば良かったとか?」
「言い方、上手いね。さすが和佳奈は本好きだけあるわー。だけど、うん。そういうちょっとしたコトで、だいぶん違うよね。今ならそう思う」
苦い思い出だけど、それでも懐かしさを感じるくらいにはなってるんだろう。少し遠くを見つめる様な桃花の表情は、優しかった。
「そっか……。私の知らないトコで、桃も苦労してたんだねえ……」
独りよがりも、かっこ悪いも、絶望も、あの時の桃花にはきっと切実な感情だった。桃花の話を聞いて、それは分かった。月並みだけど、部の子たちと後で仲直りできて、本当に良かった。あ、だけど――
「――あの、私って……。桃の事情知らずになんか空気読めない感じのコト言っちゃった気がするんだけど……」
気がする、は嘘。本当ははっきり思い出していた。
お昼休みの終わり、手芸部の部室から急いで戻って、移動教室前の桃花を見つけて、それから――。
「……覚えてて、くれたんだ」
桃花が目を丸くして、それから今日いちばんの柔らかい表情になった。何か、いつも以上にかわいいんですけど……
「だって、私から桃に話しかけたのなんて、珍しいじゃん。自分でもびっくりしたけど、あの時は『早く伝えなきゃ』って」
「お昼休みの後、でしょ? いつもはすれ違ってるだけなのに、私の方にまっすぐに来たからホントにびっくりした」
――露切さん! 今日の放送劇、露切さんだったでしょ!? すっごく良かった。感動しちゃった
その後のコトは覚えてないから、多分それで終わり、だったんだろう。
ありがとうくらいは言ってくれた気がするけど、私も言ったそばから、ああ~言っちゃった~って焦ってたし。
小さな思い出。桃花とこうして話すようになっていなければ、そのまま「ちょっといい思い出」として引き出しにしまったまま卒業してたはず。だとしたら、今こうやって二人で思い出したコトに、何か意味が……。
「――よし、決めた!」
「は、はい?」
急に桃花が立ち上がったので、私も釣られて席を立っていた。桃花が私の方を向いて、それから手を取る。
「このエピソードにする! そうする!」
「え、えっと……。何が?」
「私が、和佳奈を好きになった瞬間。前に言ってたじゃん? いつから好きになったかとかさ。あれ、ここにしよう。そうしよう」
「あ、いや……。まあ、桃がそれでいいなら、私は別にいいけど……」
いつもの桃花のノリが戻ってきてて、ちょっとほっとしている自分もいる。やっぱり桃花は、笑ってる方がいいよね。
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