和佳奈と乃愛(4-3)
「えーと……、なんだか横根先輩と話してると、別に心配しなくても大丈夫みたいな空気なんですけど……」
「まあ、ねえ。大丈夫なんじゃない?」
「でも、あの、おっ女の子と付き合ってるとか噂されて、ホントに大丈夫なんですか?」
湯川さん、心配性モードみたいだ。今日だけで大丈夫って何回やり取りしただろう?
「だってうちら、もうすぐ卒業なんだよ? 受験が終わったら二人とも結田からは出てくコトになるし、人の噂も74日…… 75日? どっちだっけ? とにかくいなくなった人のことなんてみんなすぐに忘れるって」
そういう噂は、自分では聞いたことはないけど、誰と誰が付き合ってるって噂の中には、もしかしたら女の子どうしとか、男の子どうしとか、この学校にもあったかも知れない。
今度、愛華に聞いてみようかな。
「……露切先輩と、同じコト言うんですね」
どうやら多少は、肩の荷が降りたみたいだ。ほっと息をついて、乃愛がしみじみとこぼした。
「桃も、そう言ってたんだ」
「はい。卒業生のコトなんてみんなすぐに忘れるんだから、今は騒がせとけばいいって」
「騒がせとけばって、桃らしいね」
マイペースだけど本当は相手のことを気づかったりしてるし、自分がコレと決めたことは誰に何と言われようとその道を進む。卒業の直前まで知らなかったそんな桃花の姿が、今は心の中にしっかり像を結んでいる。
私にとっての…… 特別な存在?
この教室に限定だけど、もしかすると桃花は、ただの同級生からそんな存在に変わってきているのかも知れなかった。
「取りあえず、横根先輩も露切先輩も大丈夫だってコトで、安心しました。……お勉強、お邪魔しちゃいましたよね。ごめんなさい」
「あー、いいっていいって。桃が来てくれる時もそうなんだけど、ちょっとした気分転換になるからね」
「そうですか。それなら良かったです」
「ね、それよりさ。湯川さんの方はどう? 草越君とは上手く行ってる? ……って、そんなに急には進まないか。どんな感じ?」
直接、私が何かしてるわけじゃないけど、間接的にはお手伝いしてるって言ってもいいよね。
このくらい聞いても罰は当たらないだろう。後で桃花にも話したいし。
「ええと…… ですね。先輩の仰るとおりで、まだこう何て言うか…… じわじわと様子をみながら近づいて行ってるみたいな……」
「あはは、そうだよね。『桃に恋人ができました。ですから、諦めて私と付き合いましょう』 なんていうわけには行かないもんね」
「草越先輩、けっこう難しいトコあるんで。受験は終わってるから、そっちは心配はないんですけど……」
「時間は短いけど、焦らない方がいいねきっと。上手くいくように応援してるから」
「本当、ありがとうございます」
乃愛はそう言いながら立ち上がって、深々と頭を下げた。わー、礼儀正しい子だなあ。
お話は、これでおしまいってとこかな。じゃあ今日はもうちょっとだけ、国語を頑張ろう……。
「横根先輩」
ドアに向かってすたすたと歩いていた乃愛が足を止めて、くるっと私の方にふり返った。
「……はい?」
「あのですね、もしも…… なんですけど」
「うん」
「露切先輩が本当に横根先輩のコト好きとかだったら、どうしてました?」
――沈黙。
最初に桃花と乃愛がこの教室に来た時と同じくらいに、私の頭は働かなかった。
「あー、ええと……」
「ごめんなさい、冗談です。忘れて下さい。じゃあ、失礼します」
答えが出てこず、反応も鈍い私を待つことなく、乃愛はそれだけ言い残して教室を出て行った。
遠ざかる足音とともに、静けさがまた満ちる。
――本当に、横根先輩のコト……
その先を考えることが、その問いかけへの答えを探すことがどこか怖くて、私はのろのろと勉強に戻ることにした。いやいや、冗談だし。最初から最後までウソで演技だけだし。そうでしょう――?
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