和佳奈と桃花(3-3)



「あー終わった! ていうか終わる! 今日はここまで!」


 一応、ここまでって決めてたトコまで何とか終わらせて、私はシャーペンをノートの上に放り出した。

 目の前で真剣に事前課題? だか何だかに向き合ってる桃花の存在が、私をいつも以上に頑張らせた…… そんな気がする。


「おつかれさま、和佳奈。頑張ってたね」

「ありがと。うん、桃がいてくれたから、頑張れた気がするよ」

「さすがに受験勉強の邪魔になったら悪いかなーって思ってたけど、それなら良かった。はい、これ」


 そう言うと桃花が私に何かを手渡した。――あ、これ私の好きなハチミツ入りのど飴じゃん。


「ありがと。ていうか私これ好きなんだけど、知ってたの?」

「まさかー。受験生っていえば風邪引くなじゃん? だから買ってみた」

「へぇ~。やっぱりもてる子は普段から考えるコトが違うね~。でも、嬉しいよ」


 ありがたくのど飴を頂いて、さっそく口の中に放り込む。すっとする甘さが、勉強に疲れた体にしみこんでいく気がした。


「おいしい?」

「う~ん、おいしいねえ。ありがとねえ」


 コロコロと口の中で飴を転がしながら、私はノートや参考書をカバンの中に片付けて――ってアレ? 桃花?


「はい、何でしょう」


 私の心の声が、どうやら口から漏れてたみたい。っていうかその言い方、もしかして私のマネ? まあいいけど……。

 何気ない表情で参考書とノートをしまって、それから桃花は別のノートを机の上に出していた。


「……何それ」

「え? ノート」


 桃花のこういう返しにも、ちょっとだけ慣れた。最初にわざとそっけない態度で言ってみて、こっちのリアクション待ってるんだよね。

 ホント、あざといっていうか何ていうか……


「ノートはわかるんだけど! 勉強終わったのに何をするノートなのかなって」

「ああ、そういう」


 とんとん。桃花は右手のシャーペンを得意げに振って、何か書いてある表紙を私に示してみせた。文房具屋さんに売ってるような、特徴のない普通のノートだ。


「……Our memories……? 私たちの思い出、ってこと……?」

「そうそう、ホントはLove とか Sweet とか入れてみたかったんだけど、それだと誰かに見られたとき言い訳できないじゃん。だからこれにしてみた」


 匂わせるとかギリギリ攻めるとか言ってませんでしたっけ……。あ、匂わせる言ったのは私か…… どっちにしても、攻めなくて全然いいんですけど。


「何となく桃の考えてるコトは分かった気がする……。気がするけど、これ何書いてきたの? 見ていい?」

「いいよー」


 ご機嫌な桃花からノートを受け取って、パラパラとページをめくる。あれ、これって……


「何も書いてなくない?」

「うん、まだ書いてないね。取りあえず枠作ったトコだから」

「枠ねえ……。あ、これって入学した年ってことか。お、4月だ。え、1ページ丸ごと? そんなに書くことあったかな~」


 ノートの最初のページには左端近くに縦線が引かれてて、上に私たちが入学した年と4という数字が入っていた。その後は真ん中くらいに縦線がもう1本。左が桃で、右が和。なるほど、そういうことね。


「和佳奈、やっぱり面白い。自分で自分に答えてるの、何か一人芝居みたいだよ」

「痛い子みたいに言わないで~」


 一人芝居とか言われちゃった……。でもこれ、けっこう面白そう……。


「どう? 興味もってもらえた?」

「うん、これはちょっと面白そう。左に桃のエピソード書いて、右に私のを書くんでしょ? それで……、そうそう、”この時はまだクラスメイトの一人だった” とか、”この辺からちょっと気になってた” とか、そういう思い出を書いてったらいいんだよね?」

「……!」

「ん? あれ? 何か間違ってた?」

「ううん、全然。ていうかびっくりしてた。思い出って、そこまで考えてくれるんだ」

「だって『私たちの思い出』なんでしょ? だったら、まあニセモノって言ったらニセモノなんだけどさ、そういうの書いてった方が面白くない?」


 普通に書いていったら、「4月 入学 手芸部に入部 桃花とは接点なし」 とかになりそうだし、それだと味気ないよね。やるなら、ちゃんとやらなきゃ。


「面白いのは、和佳奈だよ。想像ポエムうけるわ~。なんで今まで話せなかったかな」

「あー、ひどっ。また珍獣みたいな言い方してる」

「珍獣って。ここで出てくる言葉? さすが本好きは引き出しが違うね」


 とにかく、これを埋めてくのね。でも入学ってもう3年近くも前になるんだ…… 時間が経つのって、本当に早いね。


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