気まぐれでVtuberを始めてみたら美少女リスナーを好きになってしまった
にぃ
第1話 恋するVTuber(もどき)
私は恋をしたことがない。
誰かのことで頭がいっぱいになるような経験などしたことないし、胸を焦がすようなトキメキも私は知らない。
別に恋愛アンチなわけではない。
単に私が恋愛できるような環境に居ないだけ。
それはきっとこれからもそうなのだろう。
「きゃぁぁ! 花野井様よ! 本日もブラウン色の長髪が麗しいわ!」
「前回の期末試験で学年トップの花野井様ぁ! ああ。本日もお美しい」
「名家のご令嬢で札束のお風呂に入っていると噂の
……なんで説明口調なの? あの子達。
札束風呂なんて入ったことないよ。なんでそんなお風呂に入っている人間がフローラルの香りがするの。渋沢栄一氏の匂いになるよ。
「……はぁ」
小さくため息を吐く。
これなのだ。
ちょっとだけ容姿が整っていて、ほんの少し成績が良くて、家がお金を持っているだけで、皆が遠巻きにしながら尊敬のまなざしを向けてくる。
同級生にもまるで憧れの先輩と接するような態度を取られてしまい、正直げんなりしていた。
こんな環境で恋愛など出来るわけがない。
「きゃああ! 花野井様が通っただけで近くの枯れ木に潤いが戻ったわ!」
「きゃああ! 花野井様と目が合っただけで虫歯の痛みが消えましたわ!」
「きゃああ! 花野井様が天を仰いだだけで一斉に雨雲が霧散しましたわ!」
魔法使いか私は!
あ、頭が痛い。人を勝手に神の使いにしないで。
「頭痛がしてきた。早退したい……」
ああ。
誰か。
私を普通の人間として見てくれる人は居ませんか?
そんな風に思って始めたのがVTuber活動。
いや、私の活動をVTuberと称すのは本物の皆様に申し訳がない。
自分で描いた一枚絵を配信画面の片隅にバンッと張り付けて適当な雑談しているだけなのだから。
当然モーションキャプチャーなどという高価なモノも使っていない。故に絵も動かない。
やる気の「や」の字も感じられないお粗末な配信だった。
でもそれで良かった。
家に帰るとすぐにPCを立ち上げ、慣れた手つきで配信画面を立ち上げた。
私のアバターキャラ『花井花子』を適当に配信画面に置き、リスナーへ挨拶をする
「みんな~、ただいま~。花ちゃんが帰ってきたよ~」
『おかえりんこ』
『なんか声疲れてるな 体調悪い?』
配信開始直後にも関わらず、数名のリスナーがコメントを返してくれる。
「全然元気だよ。疲れが声に出ちゃってたか。めんご」
『花ちゃん。おかえりなさい。はいお茶( ^^) _旦~~』
「
『wwww』
『お前本当に美羽たんの前だと性格変わるな』
『俺らとの扱いの差www』
『きちゃないずび音ありがとうございます』
みんな私のくだらない雑談に付き合ってくれる大切な人たちだ。
特に『美羽』という名前の女の子リスナーがお気に入りだった。
いや、美羽たんが本当に女の子かどうかなんてわかりっこないのだが、私の脳内では天使のような美少女像が鮮明に出来上がっている。
「こんな私にコメントでお茶を入れてくれる美羽たん。きっと美少女に違いない。ペロペロしたい」
美羽『ぺ、ぺろぺろですか?』
あ、あれ? どうして私の心の声に美羽たんが反応しているの?
『声出てる声出てるww』
『これには美羽たんもドン引き』
「うわぁぁぁぁっ! ご、ごめんね! 美羽たん! お、おまいら! 美羽たんからの好感度が下がらないようにフォローせんかい!」
『おwwまwwえwwがwwしwwろww』
『美羽たん以外のリスナーの下僕感w だがそれがいい』
『ごめんね美羽たん 気持ち悪かったね こんな主で本当にごめんね』
『主の失態をリスナーがフォローする配信 ぱねぇっす』
パソコンの前で静かに微笑む私。
こんな風に配信でわちゃわちゃと楽しむのが私の日課となっていた。
心地良いネット空間。
私の素を見せることが許される暖かい世界。
「そだ。みんな聞いてよ~。今日学校で嫌なことがあってね~」
『うわあ! 急に話を変えてくるな!?』
『花ちゃん 今おじさん達がフォローしている最中でしょ?』
『あ あの 大丈夫ですから! 引いたりとかしていませんし、私も花ちゃんの学校での話を聞きたいです!』
『美羽たん……なんていい子なんや』
本っ当、リスナーさん達好き!
美羽たん、大好き!!
美羽たんのこともっと知りたい。会いたい。舐めたい。毎日おやすみ通話したい。
「……美羽たん、どんな声をしているんだろう。美羽ASMR発売しないかなぁ。エロめの」
『お前 本当いい加減にしろ!?』
『喋る度に取り返しのつかなくなる女』
『心の声を外に出す悪癖なんとかしろww』
『ついに美羽たんコメントしなくなっちまったじゃねーか!』
「うわぁぁぁ! ごめんなさい! 美羽たん本当にごめんなさいぃぃ!」
とまぁ、こんな感じでリスナーさん達とお友達のように慣れ合うのが私の日課になっていた。
学校とは違い、私を人間扱いしてくれる。
心に平穏を与えてくれる。
この空間こそが私の唯一の居場所になっていた。
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