第5話
「独り言でもいっているのではないか?」とスケキヨの将来を半分諦めている父親の佐兵衛は言った。「そうねえ」と母の松子も頷き、とりあえず知らない顔をすることに決めた。ところが二階の声はだんだんエスカレートして、すすり泣くような声や、妙な奇声まで聞こえてくるようになった。両親は流石に心配になり、もう何年も開けたことのないスケキヨの部屋を覗こうかと相談するようになった。そうしたある真夜中、また例のゴニョゴニョという声が聞こえた。「まただ」と父親の佐兵衛が枕から顔を起こし囁くように言った。「今日こそ、見に行きましょう」と母親の松子は気丈げに起き上がった。そして抜き足差し足で廊下を歩き、両親はそっとスケキヨの部屋の扉を開けて覗いて見た。中は妙に薄暗かった。なぜだろうと目を凝らすと、どうやら部屋の電気は消されていて、ゆらゆらと揺らめく蝋燭のみが部屋の中に灯っているようであった。スケキヨはその薄暗い部屋の隅の方に座っていた。そして蝋燭の立てられた祭壇のようなモノの前で熱心に何かをこすっているような動きをしていた。「何をしているんだ?」と佐兵衛は眉をひそめた。「あれは祭壇かしら?」と松子は目を細めた。と、その祭壇の下に何かがクネクネと動くのが見えた。両親はハッとして、もっと詳しく見ようと、扉をもう少し開けた。そして驚愕した。祭壇の下でうごめいていたのは素裸の、若い女の子であった。「な、何をしている」と佐兵衛は怒声をあげて飛び込んだ。スケキヨはアッと驚いて振り向いた。娘も驚いて跳び上がり、服も着ないで窓に駆け寄り、白い尻もあらわにしたまま瓦屋根に飛び出て行った。「あ、あれはお隣の娘さんじゃない?」松子は愕然としてつぶやいた。
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