サキュバスでもいいの?

月狂 四郎

第1話 淫魔の小娘

 蠱惑的な微笑。それは少女的なのに、どこか底知れない妖艶さを兼ね備えている。きっとかわいらしい顔とアンバランスなツノがいいんだろうな。そこには可憐さと艶やかさがうまいこと共存している。あたしはこの世界で誰よりもかわいい。だって、あたしはサキュバスだから。


「今日もかわいくてごめん」


 鏡に映り込んだ自分に言う。言葉とは裏腹に、あたしの心は高鳴っている。


 だって、久しぶりにゾルムディア様に呼んでもらえたからだ。魔王でもあり、超絶美男子でもあるゾルムディア様。あたしが映画監督なら、彼をヒーローにした作品を撮るだろう。


 ゾルムディア様はV系バンドマンみたいに黒ずくめの衣装に身を固めていて、風に流れる銀色の髪がとても綺麗。銀髪の貴公子、なんて言葉はゾルムディア様のためにある。そんなイケメンが魔王の座に就いているんだからたまらない。


「ああ、ゾルムディア様。こんな夜にあたしを呼び出すなんて。これってきっと、愛の告白ってやつなんじゃないの?」


 ――メル・アマディリア。私とともに、魔族の未来を作らないか。


 あたしの名前を呼んで、沈む夕日を前に指輪を差し出すゾル様。震えながら薬指に嵌めると、どこからかラブソングが流れだす。


「きゃー♡♡♡」


 想像するだけで恥ずかしくて、独り悶える。


 嗚呼、尊い。ゾル様に愛を囁かれる光景なんて、想像しただけで昇天しそう。今日も妄想がはかどる。


 あたしは一人で勝手に舞い上がる。サキュバスは男を堕落させる淫魔だけど、ゾルムディア様に関してはあたしの方がとろけてしまう。


 だって、あの美形だよ?


 どちらかと言えば女性に近い整った顔立ちに怜悧さを携えた蒼い瞳。その目で見つめられるだけで、あたしは痺れて動けなくなる。


 それでいて普段は無表情に近いゾルムディア様が時折ニコって笑う瞬間なんか、全宇宙の女の子が溶けるぐらいの破壊力を持っている。


 ああ、どうしよう。これからゾルムディア様に「ずっと好きだった」なんて言われたら。


 あたしはその一言だけで気を失える自信がある。長いこと生きてきたけど、これからもずっと、未来永劫彼を愛し続けられるぐらいの推しであることに間違いない。


 ああ、そんなことをしている間にゾルムディア様を待たせてしまっている。


 焦らすのもテクニックのうちだけど、あの人にそんな小細工は効かない。舞い上がってお化粧に時間をかけすぎちゃった。


 使い魔のコウモリが「早くしろ」とばかりにあたしを急かしてくる。そうだよね、鏡の前でポーズを取っている場合じゃなかったよね。


 さて、急がなくちゃ。


 あたしは先を急ぎつつも、高鳴る鼓動を抑えることが出来なかった。

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