第9話 ステータスと夢




「疲れたぁ……」


 怒涛の一日を終え、俺は鍵付きの引き出しから手製のノート【暗黒手記ブラック・レコード】を取り出した。 


 風呂上がり後の、日課に勤しむ大人の時間だ。


「さて……」


 そしてソレ――表紙を黒で塗りつぶした――を、パラリとめくった。



――高木たろすけダーク・アンド・ビタースウィート・ウォーマシーン



【ステータス】



【レベル】98 (やや高めに見積もって)


【HP】1500


【MP】不明


【攻撃】測定不能


【防御】1000


【かしこさ】9999


【素早さ】240(やや低めに見積もって)


【運】BAD・ラック


【容姿】上の中


【真の容姿】超高校級


【所持スキル】


 暴虐の右 (お箸持つ方のセト)

 冥府の左 (お茶碗のオシリス)

 我流剣術【達人】

 高木流棒術【家元】

 徒手空拳【裏世界チャンピオン相当】

 喧嘩寝技【人間アナコンダ】

 本気ボクシング【ほぼ鉄球付きクレーン車】

 痛みを感じたことのない鉄皮膚

 超短期間睡眠ショートスリープ・マスター 

 片翼の哲学者センス・オブ・タロスケ  

 服従か死かタカギ・ザ・オルタナティブ 

 達人の交渉術【極み】

 疾風の逃走者

 迅雷の追跡者

 小粋なステップ

 まろやかな横歩き

 王道の寝姿(高木の9時間は他者の24時間)

 異界言語理解【極み】

 外国語検定3級【大マジ】

 しゅ算(手指を使っての計算の方)【神速】

 論理的理論的真理的論理理論者セオリー・オブ・タカギ

 

 スラ吸い NEW‼


【称号】

 :影の支配的反逆者 【シャドー・ユニオン】

 :しゅつ・闇プト  【ダーク・エクソダス】

 :全てを手に入れし者の孤独 【ロンリー・キング・ロンリー】

 :感情不在の悲しい戦闘者 【高木・ソウ・ソーリー】

 :オープンリーチ・トラック単騎・地獄待ち状態


 :スライムスレイヤー NEW‼



「……ふぅむ」


 昼間の戦闘を振り返ると、ステータスについて手直しすべき箇所が何点か浮き彫りになったが、俺は歯を食いしばってその『敗北者的誘惑』を断ち切った。

 そして、ただ、【所持スキル】と【称号】の欄に一文ずつ書き加えることで、自らへの戒めとした。


 俺はまだ『強すぎない』。


「まだ……」


 それが分かっただけでも収穫だ。……ほんとにそうだ。


「俺は挑戦者なんだ」


 少しくたびれたそのノートを見返すうちに、過去からの俺自身のエールが、積み重ねて来たこれまでの歴史が、俺に下を向く事を許さなかった。


「人間16年。真っ直ぐな道なんてなかった、……ぜ」


 ありがとう、昔。俺に俺の事を思い出させてくれて。

 焼き鳥だって『串打ち3年、焼き一生』だそうだ。スライムを殺すなんてそれ以上の事だろうし……。


「俺自身が何者か……、また少しだけ分かってきたぜ」


 世界が俺に向かって風を強めてきた。だからこそ、俺はより強くあらねばなるまい。


「……ふわわ。もう10時か。……寝よ」


 俺は超短期睡眠のスキルをジョワーっと起動すると、断絶の夜に、少しの間、目を閉じることにし――、スピー。




 ◇◇



 ケラケラ


 アハハハ



「んむぅ……?」


 寝苦しさに片目でエアコンを睨むと、緑のランプが消えていた。


「ふわぁ……」


 机の上に有るはずのリモコン。

 右手を伸ばし……、探る。

 ん、……あった。


『ピッ』


 すぐに広がる18度の天国。


「ふぅう」


 ムシムシした熱気の塊は部屋の反対側に押しやられ、片目の裏に再び闇のとばりがおやすみなさ――、



 アハハハ



「んぇ?」


 なんかぁ聞こえたような……。下の庭? 誰か居るのかな……。



 アカンテー。 アハハハ


「うるっさいなぁ……」


 まぶたを顔に張り付けたまま、もぞり起きだしカーテンをめくる。


 空には大きな月。静止した深夜の住宅街と、青白い街路灯。それはいつもの光景

 だが。


「……?」


 見おろす我が家の裏庭。塀の脇に植わったイチジクの木の根元で、今一瞬キラッとなにか光ったような……。



 アハハハ


「……」

 今度こそ聞き間違いじゃない……。


 窓ガラスにおでこを付けて、よおく目を凝らすと小さな影が躍るようにひょこひょこ揺れていた。


「え?」



 小さな人形が両手に一つずつイチジクの実を抱え、 


「……二丁拳銃アキンボで食ってらぁ」


 木の根元に居る太っちょの方の小人が、必死に樹上に呼びかけてる様子。



 ワケテー


 羽の生えた二匹の小人が、イチジクの木の上と下とで猿カニ合戦やってる光景がそこにあった。


「……」


 ふぅ、寝よう。


「…………、全然夢じゃん」



 なんだか不思議な夢だった。




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