国を立て直した偽物の聖女と隠れていた本物の聖女のお茶会

朝乃倉ジュウ

第1話 完遂

 聖女に見捨てられ窮地に陥った王国が、やっと救われた。

 明るい未来に歓声を上げる民衆の中、私は聖女として王城のバルコニーから笑顔で手を振って応えた。

 しかしいつまでも笑顔ではいられない。

 聖女としての役割は果たした。次は本来の第二王女としてやるべきことがある。


 現国王であり実の父であるあの男を殺すこと。


 王位継承権第一位の愚兄は廃した。異母兄弟である王位継承権第二位の兄がいるから王国の存続は可能。王位継承権のない第二王女の私が言うことではないかもしれないが、今の王族にまともな男はいない。消去法で一番ましな王位継承者を残したにすぎない。


「お前は……王位継承権が欲しかっただけではないのか?」


 聖女として動きやすくなるため国王である父には毒で病床に臥せってもらっている。

 非力な私でも、聖女の力を使わずに止めを刺せるほど弱っている。なんならこのまま会話をしていたら死ぬんじゃないかしら。


「王位継承権など必要ありません。そんなものよりも大切なことをしたかったのです」


 第二王女としての私と国王の会話なんて今まで無かった。聖女になってから私を見るようになり、話を聞くようになった父親に私は軽蔑の目を向ける。


「先代の聖女にしたことを繰り返させるわけにはいきませんから、王族の中の掃除をしたかったのです。まあ最後にお父様だけを残すだけとなりましたが」


 私ははっきりと父親の弱り果てた目を見て言ってやった。


「聖女に乱暴をしておいて見放されたなんて被害者ぶるからこうなったんですよ」


 もはや反論を言う気力もない父親だが、反省や後悔の色は見えない。むしろ納得のいかない不満の方があるのだろう。呆れたものね。

 第二王女として、私は最後に父親の顔に布を乗せ、近くに置かれている花瓶の水をかけた。

 濡れた布が顔に張り付き、息を吸おうとすればするほど、布が吸った水を飲みこんでしまう。アッフェル侯爵に教えてもらった拷問だ。毒で弱りきった今なら、私でも簡単に父親の両腕を押さえつけることができる。

 毒で簡単に死ぬなんて許さない。

 

 しばらくして父親の両腕から力が抜け、呻き声もしなくなった。呼吸は完全に止まったみたい。

 これで第二王女としての役割も果たせた。

 私は今までの疲労が一気に肩にのしかかる感覚からその場にへたり込んだ。

「ああ──やっと聖女をしないで済む」

 偽物とはいえ聖女として国を立て直す為に走りっぱなしだったけど、これで全部終わった。

 初めて自分で自分を褒めたい気持ちが湧いた。

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