番外編 もうひとつの恋



 高校最後の春。


 桜が舞う校庭で、私は健と並んで座っていた。


 「ついに卒業か……。」


 健がしみじみと呟く。


 「うん、早かったね。」


 思えば、健と付き合ってからの高校生活はあっという間だった。


 最初はお互いに遠慮があったけど、時間が経つにつれて、健の素直じゃないところや不器用な優しさがどんどん見えてきて——。


 気づけば、私は彼に夢中になっていた。


 「大学行っても、ちゃんと連絡しろよ。」


 「健こそね。」


 「……ま、俺から連絡するけどな。」


 「ふふっ、頼りにしてるよ。」


 高校を卒業しても、私たちは変わらず付き合っていく。


 そんな未来が当たり前だと思っていた。


 


 大学に進学し、新しい環境に飛び込んだ私たち。


 最初は変わらず連絡を取り合い、デートもしていたけれど、次第にすれ違いが増えていった。


 お互いに課題やサークル、バイトで忙しく、会う時間が減っていく。


 「ごめん、今日はゼミの集まりがあって……。」


 「そっか。じゃあ、また今度な。」


 健もまた、大学の勉強や資格取得のために忙しくなっていた。


 (本当に、このままで大丈夫なのかな……。)


 不安が募る中、ある日、健から「話がある」と言われた。


 「俺たち、このままでいいのかな。」


 静かな公園のベンチで、健が真剣な顔で言った。


 「え……?」


 「最近、あんまり会えてないし……。無理して付き合ってるんじゃないかって思って。」


 胸がギュッと締め付けられる。


 (健も、同じこと考えてたんだ。)


 「……私も、思ってた。」


 「紗奈が今、頑張ってるのはわかってる。でも、俺もやりたいことがあって、前みたいにちゃんと時間作るのが難しい。」


 健の声は真剣だった。


 私は、どう答えるべきなのかわからなかった。


 「……好きなのに、別れるの?」


 「好きだから、ちゃんと考えたいんだよ。」


 言葉が出てこなかった。


 結局、その日は結論を出せないまま別れた。


 ***


 それからしばらく、お互いに距離を置いた。


 でも、心のどこかでずっと健のことを考えていた。


 そんなある日、偶然、街で健と再会した。


 「紗奈……?」


 「健……!」


 久しぶりに見る彼の顔は、少し大人っぽくなっていた。


 「あの……元気?」


 「まあな。」


 気まずい沈黙が流れる。


 でも——もう、私はごまかしたくなかった。


 「健。」


 「ん?」


 「……やっぱり、好き。」


 「……俺も。」


 その瞬間、今までの不安が一気に吹き飛んだ気がした。


 「もう離れたくない。」


 「俺も。」


 気づけば、健がそっと私の手を握っていた。


 やっと、やっと素直になれた。


 ***


 大学を卒業し、お互いに仕事を始めた頃。


 「結婚しよう。」


 健がシンプルにそう言った。


 私は驚いたけれど、すぐに微笑んだ。


 「うん。」


 それ以上、言葉はいらなかった。


 ***


 そして迎えた結婚式の日。


 バージンロードを歩きながら、私は健の姿を見つめた。


 (やっぱり、この人でよかった。)


 たくさんすれ違って、ぶつかって、それでもこうして隣にいる。


 健が私の手を取り、誓いの言葉を交わす。


 「紗奈、これからもずっとよろしくな。」


 「うん、こちらこそ。」


 指輪を交わし、誓いのキスをした瞬間、会場が祝福の拍手に包まれた。


 (これからは、ずっと一緒だね。)


 どんな未来が待っていても、ふたりなら大丈夫。


 幸せな笑顔のまま、私は健と手を繋いで歩き出した。


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