9章 モナテスの頑張り

「シン君……」

「シン……」

微かに聞こえた声を、ケルベロスたちは敏感に感じ取った。


おびえた声にすぐさまたくわえていた力を使い、ヘルミーネとリリーナを通じて周囲の状況を探る。


『シン!』

『シン!』

『シン!』

三頭は同時に叫んだ。


(ん? どうした?)


『姫たちが危ない!』

シンが応じると、ロスが切迫した声で伝えた。


「モナテス!」


シンは即座に立ち上がり、叫んだ。


「ワン!」


そのままギルドを飛び出し、宮殿へと向かう。モナテスも力強く鳴き、ちびとともにシンの後を追った。


宮殿前に到着すると、周囲は静まり返っていた。しかし、耳を澄ますと、宮殿の中から鋭い斬撃音が響いてくる。

シンは正面から入るのは無謀だと判断し、別の侵入場所を探した。


『俺たちは先に行くぞ!』


ロスがそう言うと、ケルベロスたちは窓のある最上部へ向かい、力を使って駆け上がっていった。


シンは周囲を探りふと、わずかに開いた窓を見つけた。しかし、高い位置にあり、どう登るか考えていたところ、モナテスがどこからかロープをくわえて戻ってきた。


「そうだ!」


シンは近くにある木の枝を折り、それにロープを結んだ。そして、ヤリ投げの要領で窓の隙間に向かって投げる。

数回目で、ようやく木の枝が中に入った。ロープを勢いよく引くと、窓が開いた。


「モナテス、あそこから入れるか?」


「ワン!」


シンの問いに、モナテスは窓を見上げると、前足を揃えて身を低くした。そして、一気に駆け出すと、壁のくぼみを器用に使いながら窓へと飛び込んだ。


「モナテス!今から木の枝を投げるから咥えて引っ張ってくれ!」


モナテスに向かって叫んだ。投げ込まれた木の枝を咥え、力強く引っ張る。

シンはロープを頼りに登り、なんとか窓から侵入した。


「ここは……厨房か?」

シンは辺りを見回した。


少しだけ扉を開けて様子をうかがうと、兵士たちが戦っていた。徐々に謁見えっけんの間の方へ押し込まれている。


「このままじゃ、ミーネとリリーのところに行けない……」


シンは考え、モナテスに尋ねた。


「モナテス……鎧の人たち以外、燃やせるか?」


「くぅ~ん」

申し訳なさそうに鳴いた。


「火傷程度でいいんだ」


「ワフ!」

モナテスは気合を見せた。


シンは意を決し、勢いよく扉を開ける。


「モナテス!」


「ワオォォォォン!!」


モナテスの遠吠えが響き渡り、鎧を着ていない賊たちの体が数秒だけ炎をまとった。その場にいた兵士たちは驚き、混乱におちいる。


「今だ! 押し戻せ!」


ペルシー親衛隊の一人が声を上げ、動揺していた兵士たちにかつを入れる。

士気を取り戻した彼らは、一気に敵を押し返し始めた。


その隙に、シンはモナテスと共に謁見の間へと駆け込んだ。

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