第36話 危機一髪
「おいおい、まだくたばるなよ」
マッコフが面白おかしそうに言うと、ダリウス騎士団長が私を無理やり立たせた。私はおぼろげな視界の中、お嬢様の顔を捉えた。お嬢様はダリウスに「乱暴にしないで!」と叫んでいたが、彼は突き飛ばしてしまった。
「黙れ、人殺しが! 俺の息子を死なせたくせに!」
息子――? 彼に息子がいたなんて知らなかった。その疑問に答えるようにマッコフが話し始めた。
「お前らはすっかり忘れているかもしれないが、こいつの息子はこの学園に通っていてな……確か優秀な火の魔法が使えたとか。だが、ある日、ジュリアーノの前を通っただけで理不尽に虐められ、挙げ句の果てには殺された……そうだよな、お嬢さん?」
マッコフは問いかけると、お嬢様は俯いてしまった。彼の話を聞いているうちに思い出した。確か激昂してお嬢様の背後から火を浴びせようとしていたのを私が火球にして放り投げて爆発させたんだった。あいつが騎士団長の息子だったんだ。
「なぜ黙っていたんですか?」
「どうせ言っても大した反省はしないだろうからな。だから、俺は復讐するためにこいつと手を組んだ」
騎士団長がマッコフを見ると、彼はクククと立ち上がって私とお嬢様を交互に見た。
「俺の活動に目をつむってくれる代わりにこいつらの復讐の手伝いをすることにした」
「予告状を送ったのはまさか……」
「そうだ。
すると、お嬢様が声を荒げた。
「私を誘拐したのも、召使いやパパもママも殺したのもあなたの指示なの?!」
その問いに騎士団長は少し黙ってから「いや、あれは他の奴らだろう。暗殺者達に殺されて欲しかったが運の悪いことにこの付き人が返り討ちにしてしまったからな……仕方なく強行突破する事にした」と話した。
「学園の扉を開けたのも俺だ」
「あなたがこの反乱を企てたんですか?」
「……あぁ、マッコフと協力してな」
騎士団長はそう言って私を突き放した。
その拍子にお嬢様と一緒に倒されてしまった。私は立ち上がり能力を発動しようとしたが、発動しなかった。
戸惑う私にマッコフが大笑した。
「おいおい、無駄だ。前に騎士団長からお守りを貰っただろ? あれには好きなタイミングで能力を封じる事ができる力を持っているんだ」
なんてこった。あらゆるものを護ってくれるブレスレットがまさか呪いの品だったとは。私は騎士団長に掴みかかろうとしたが、まだ頭痛が酷いからかうまく力を発揮できずにコテンパンにやられてしまった。
「覚悟しろ、悪魔ども」
騎士団長が剣を抜くと、ルーリ王子が「ダリウス騎士団長! 本当にそれでいいんですか?!」と引き止めた。騎士団長は静止して王子の方をチラリと見たあと「お許しを」と剣を振り上げた。
私はお嬢様を庇うように立ちはだかった。すると、今まで泣いていたマリーが「止めて!」と甲高い声で叫んだ。その声に騎士団長が魔法が掛かったかのように動けなかった。
このチャンスを逃すまいと彼に向かってタックルした。バランスを崩す騎士団長にルーリ王子も協力して押さえつけた。
「おい、こいつがどうなってもいいのか?」
すると、マッコフが手のひらサイズのボウガンを取り出してカッサンドラのこめかみに当てていた。生徒会長は「私のことは構わず」と叫ぼうとしたが彼はそれを封じるように矢の先をギリギリまで触れた。
「喋るんじゃねぇ! 同じ平民のくせにこんな貴族を庇うなんて……この裏切り者がっ!」
「あなたの方こそ、いくら貴族が憎いからって手当り次第に殺すなんて……あなたは平民じゃなくてただの殺戮者です!」
カッサンドラの言葉にマッコフが「なんだと?!」と顔を赤くして引き金を引こうとしていた。
その瞬間、天井の板が抜けて彼の頭に直撃した。重さがどれくらいあるか分からないがかなり効いたらしく白目を向いて膝から崩れ落ちた。
解放されたカッサンドラはダリウス騎士団長の元へ駆け寄ると、「ふんっ!」と顔面を蹴っ飛ばした。彼は間抜けな声を上げて気絶した。
「さぁ、早く他の馬鹿な平民達も大人しくさせましょう」
カッサンドラは赤い仮面越しでも分かるくらい怒りを露わにして騎士団長の足を引きずりながら音楽室を出た。
ルーリ王子がマリーを優しく撫でながら「大丈夫?」と聞いてきた。マリーは「えぇ」とか細い声で答えると私に視線を向けた。が、すぐに逸してしまった。
二人が出ていくとお嬢様が「スカーレット」と声をかけてきた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「えぇ、あなたの方は? 頭……殴られたんでしょ」
「平気です」
「それにしても何でいきなり天井の板が……」
「あぁ、それはですね」
私が指を鳴らすと、天井の穴からレッドベーカーとグリナールが出てきた。
「あなた達っ?! なんで?」
「スカーレットに頼まれたのさ。もしマッコフが誰かを人質に取ったら天井の板を落とせってさ」
「ふひひひひっ!」
レッドベーカーとグリナールはマッコフをクッションにして降りると、お嬢様の無事を喜んでいた。
「ジュリアーノ! 良かったよ、無事で〜!」
「ふふふふふっ!」
お嬢様は二人に抱きつかれていたが、未だにポカンとしていたが、大きく息を吐いた。
「はぁ……あなたと一緒にいると頭が痛くなるわ」
そう嘆くお嬢様だったが薄っすらと笑みを浮かべていた。助かって嬉しかったのだろう。私もつい顔がほころんでいた。
「まだ終わっていない」
突然声が聞こえたかと思うと視界が暗くなった。お嬢様もレッドベーカーもグリナールもいなくなった。
「お嬢様……お嬢様!」
私が叫ぶと、暗闇から「お嬢様、お嬢様……本当にお前はジュリアーノのことが好きなんだな」と嘲笑するかのように話しかけてきた。
「誰?!」
「俺だよ」
闇から現れたのはマッコフだった。
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