ホビアニ転生!! ~世界を救う戦いに巻き込まれてから一五年が経ち平和に過ごしていたらなんか様子がおかしいんですが?~

海星めりい

プロローグ 『第五十三話 最終決戦(ファイナルバトル)!』


「っく、まさかここまでとは……油断はしてないつもりだったが……僕もどこかで君たちの力を舐めていたのかもしれないな……」


 膝をついた白衣を着た壮年の男が不機嫌さを隠そうともせずにこちらを睨んでくる。自分の計画を台無しにされたのだから、こうなるのもしょうがない。


「どうだ! これが俺達の力だ!!」


 しかし、相対する赤い髪を逆立てた少年はそんな男の視線など気にせずに自分の相棒と一緒にガッツポーズをしていた。

 一見すると煽っているようにも見えるけど、主人公様だしそんなつもりはないんだよね。


 それにしても、なーんで、私ここにいるんだろう?


 その横で私――八百望やおもち くさびはラスボス戦に巻き込まれた不幸を呪っていたのだった。



 ――――――――



 私がこの世界が『戦友機人リンクデバイス パノプロイド!!』の世界だと認識したのは一年前のことだった。

 その前から、なんか記憶には引っかかってはいたんだよね。

 多分、前世の記憶が微妙に残っていたんだと思う。完全に思い出したのは、誕生日に両親が誕生日プレゼントとして別々のパノプロイドを渡してきた挙げ句、私が懸賞に応募していた限定パノプロイドもおまけに付いてきたときだ。


 懸賞のはともかくとして、『あんたら夫婦だろ。子どもの誕生日プレゼントくらい、相談しとけよ! もろかぶりやろがい!』って内心で突っ込むと同時に渡された三体のパノプロイドを見て気がついたのだ。


 なんか、この三体になんか見覚えがあるなって。そう思った瞬間には脳内に記憶が溢れかえって――。

 あ、これゲーム版じゃん


 『戦友機人 パノプロイド!!』はアニメ――中でもホビーアニメと呼ばれる部類に入る人気アニメだった。過去形なのは放送が一〇年以上前……私が子供の頃の作品だからかな。


 ホビーアニメってのは、簡単に言うとアニメと連動して子供用の玩具を売って売って売りまくろうって感じだろうか。大人の思惑と子どもの需要を一致させた作品ともいえる。


 何か一作品でもハマった人は多いんじゃないかな。複数ハマった人もいると思う。

 そんでもって、『戦友機人 パノプロイド!!』だけじゃないけど、ホビーアニメって実物の玩具だけじゃなくてゲーム化していることもままあるわけだ。


 ゲームの内容や評価は……うん、千差万別なわけだけど、『戦友機人 パノプロイド!!』の場合はオリジナル主人公(プレイヤーが名前を決めるタイプ)を加えて、大まかにアニメのストーリーを追体験するっていう割と普通な感じだった。オリジナルシナリオも少しはあったかな。


 アクション面は荒削りだけど、そこまで評判は悪くなかったはず。

 ゲーム版の相棒は三体(男型と女型がいるので種類的には六種類)いてそれを選択する感じだったんだけど、なぜか三体手に入ってしまった。


 でもって、私がゲーム版の相棒を手に入れたってことは、ゲーム版主人公=私ってことになるわけだけど……原作アニメ通りならゲーム版主人公はいなくてもなんとかなるんだよね。


 これだけなら、前世の推しアニメに転生したわけだから、楽しんじゃえー! で、いいんだけどそうは問屋が卸さない。

 『戦友機人 パノプロイド!!』にも、ホビアニ世界にはお決まりのアイツラ――玩具ホビーを使って世界征服やら洗脳やら滅亡やら、そこまではいかなくてもなんか悪いことを企む悪の組織がいるんだよ。


 うん。なんで、子供用の玩具でそんなことするんだ? とか思うかもしれない。

 だけど、ホビーアニメって大体そんなもんなんだよね。伏線がかなりあって世界観の考察が滅茶苦茶捗るのもあるかもしれないけど、大体はなんか玩具で悪いことするやつがいます→それを倒します! みたいな。


 まあ、本来紙のはずのカードで撃鉄を止められたりするし、『イッケー!』って叫んだら加速するマシンもあるんだから、ホビーアニメにツッコみだしたらきりがないと思う。

 小学生や中学生が世界を救うこともおかしくないしね。自分が関係なければだけど。


 前世を思い出した直後の私の周りには主人公たちはいなかったから、原作の事件に巻き込まれるのは避けられるかな? なーんて、思ったのがフラグだったのか、両親の仕事の関係で引っ越しでーす。


 引っ越した先は見覚えのある建物――わーい、原作の小学校だ!

 ふざけんな、ゴラァ! と心のなかで怒鳴ったところで、小学生の身では家を出て一人暮らしというわけにもいかない。


 なら、主人公達に近づかなければいいわけなんだけど、無理だった。

 『おまえ、バトル強いんだってな!』って初日から主人公絆君に絡まれちゃった。


 目立ちたくないから全国大会とかには出場してなかったけど、店舗大会とかでいい成績を残していたせいで、小学生部門のランカーに入っていたらしい。

 だって、しょうがないじゃん! 鍛えなきゃ、いつどこでやられるかわからないんだからさぁ!

 リアルでできるパノプロイドバトルを楽しんだってのもあるけど……。


 そんなわけで、私も主人公絆君達といっしょに行動する羽目になったわけだ。

 もう、ホント疲れたよね。ストーリー自体は大まかに覚えているとはいえ、細かいところまで完璧に覚えているわけじゃないわ。アニメ版とゲーム版がごっちゃになったようなストーリーで展開していくわ。


 あとは最終決戦の場に主人公絆君を送り届けて、ラスボスはお任せしちゃって、これで原作も終了って思っていたわけですよ。

 そしたら、ラスボスのいるビルの屋上前の大広間での戦いで、


「お願い、楔ちゃん! 絆を助けてあげて!」


 ヒロインちゃんにはお願いされ、


「悔しいが、俺の腕じゃあ絆の隣には立てねえ。だからよ、楔。お前に頼むぜ!」


 ガキ大将君にも頼まれ、


「ここは俺達が食い止めてやる! 任せたぞ!」


 ライバル君にまで託された。


 そんなんされたさあ! 行くしか無いじゃん!! 

 ホントなら私も見送り足止め組そっちにいて、『ここは私に任せて、行け!』とか言ってみたかっての!


 主人公絆君は感動したように『み、皆!』と呟いて駆け出して、その後ろを私もついていく羽目になったわけだ。

 このあとはラスボスだけだから、私が行く必要もないはずなんだけどな―と思いつつも、二人がかりで戦えるならまあいいか、とか考えたのが良くなかったよね。


 屋上にいたのはラスボス――ストロフィ博士とその相棒パノプロイド。

 おまけに、大型防衛機構が二機。

 全長約三〇センチメートルが基本のパノプロイドの倍以上の大きさを誇る大型防衛機構はアニメ版には存在せず、ゲームでも一機だけのはずだったんだけど、私がいるせいなのかなぜか増えていた。


 二機浮かんでいるのを見たときは本気で焦ったよね。これ主人公絆君を一人で行かせていたら、負けていた可能性があるって。

 ゲームだと同時に戦っても二対二だからそこまで苦戦しなかったけど、三対二なうえ、なんか性能が上がっているのか、ゲームの高難易度よりも倒すのが滅茶苦茶大変だった。


 ええ、今は戦闘領域バトルフィールドの外で煙を上げて転がっていますとも。

 よ、よかった……。なんとか原作を壊さずに済んだ。

 というわけで、主人公絆君がラスボスである博士に勝利を突きつけているシーンに戻ってくるわけですが――それにしても、と膝をつくストロフィ博士を眺める。


 おじ専ってわけじゃないけど、やっぱりストロフィ博士はカッコいいよね。前世からパノプロイド最推しキャラなだけはある。整った顔立ちと揃えられたあごひげに切れ長の目とホビーアニメで出していいキャラではない。


 おまけにボイスは少し前に写真集も出したイケオジ声優。これで好きにならないはずがない。

 私がややおじ専になったのも、間違いなくストロフィ博士が原因といっていいだろう。

 主人公絆君はストロフィ博士を問い詰めていた。


「なんで、皆が楽しむためのパノプロイドで悪いことができるんだ! 博士! あんたは俺にあんなに楽しそうにパノプロイドの凄さを語ってたじゃないか!! 好きじゃなかったのか!!」


「ふっ、好きかって? どうでもいいね。僕にとってこれらは目的を果たすための……ただの道具ツールさ!!」


 はい、来ました。今年の流行語大賞! 思わず叫びたくなる口を抑えつつ歓喜に震えていることを悟られぬよう表情を取り繕う。重厚な声が最高です!


「やれ! PRTIVプルティーブ!」


 ストロフィ博士の言葉に合わせて、半壊していたパノプロイド――PRTIVが主人公絆君目掛けて襲いかかってきた。大型防衛機構は完全に機能停止していたが、こちらはかろうじて無事だったようだ。

 おまけにリミッターを外されている博士のパノプロイドは人への攻撃制限など存在しない。


 万が一があると困るので、


「危ない!」


 と私が声を張り上げるも、原作通りPRTIVは動きを止める。


「何をしている!! さっさと攻撃を……!?」


「ごめん……なさい……そして彼を止めてくれて……ありがとう。彼はいつも一人で無茶をするから……」


「な、なんだと……PRTIVに感情プログラムは搭載していないはず……まさか、イヴ! 君なのか!?」


「ええ、そう……」


 そこから語られたのは原作のラストシーンでもある博士がこんなことをした理由が明かされる。

 簡単に言うと若くして恋人を失ったストロフィ博士はパノプロイドに彼女を宿して復活させようとした。ただ、それには莫大なエネルギーと費用、加えて普通にやっていたんじゃ何十年かかるかわからない。

 なら、全部違法でやってしまおう。主人公絆君に妨害されつつも、最後の最後で成功しました。というわけだ。


 なんでそうなった? とかは思っちゃいけない。感動シーンなんだからツッコんじゃ駄目なんだよ。イッツ、ア、ホビーアニメ。

 ストロフィ博士とイヴさんは何年ぶりかの再会を果たしていた。


「そうか……イヴ……君はここにいたのか……バカだな……僕は……」


「そうね……私のためにこんな……アナタは本当にバカ……」


 二人仲良く抱き合う――というか、ストロフィ博士の顔にイヴさんが抱きついている形だ。

 サイズ差がエグいが、まあ本人たちが満足しているのだからいいのだろう。


 しばらく、そのまま会話していた二人だったが、一通り話したところで我らが主人公絆君が博士たちに声を掛ける。


「ストロフィ博士。もう戦う気はないんだな?」


「ああ、イヴにも会えた。僕はもう一度やり直して見るよ。君たちには済まないことを……」


 ストロフィ博士が立ち上がり、イヴさんと一緒にこちらを向いた瞬間――巨大な揺れが私達を襲った。


「な、なんだ!?」


「これは……!?」


「う、うわー!」


 私は何が起きるのか知っているけど、主人公(絆君)と博士に続いて驚いておく。驚かないのは不自然すぎるからね。


「っく!? 無理矢理稼働させたせいで、グランドタワーがエネルギーに耐えられなかった――危ない!!」


「なっ!? 博士!?」


 ストロフィ博士が主人公絆君をとっさに引き寄せる。振動の影響で実験機材の一部が倒れて来ていたのだ。

 私も一緒に避けたが、他の機材もいつ倒れてきてもおかしくない。


「楔! すぐに逃げるぞ!」


「うん!」


「イヴ、僕たちも!」


「ええ!」


 全員で屋上から逃げようとしたのだが、私達を囲むように青白い壁状のものが出現する。

 うわっ、やっぱりこれ出ちゃうのか。できれば出ないで欲しかった。


「っ!? 何だよ、これ!?」


 主人公絆君は青白い壁にぶつかって、尻もちをついてしまう。すぐに起き上がり、壁を叩いているが鈍い音がなるだけで、突破できそうにない。

 私も無駄だと思いつつも一緒に叩いてみるが、全く効果がない。

 ですよねー。


「力場を失ったエネルギーが暴走しているのか! 制御を少しでも戻せれば!」


 それを見たストロフィ博士は残っている機材の元へ戻ると、カタカタと機械を操作し始めるとすぐに青白い壁は消えた。


「消えた! 博士!」


「ああ!」


 主人公絆君の言葉にストロフィ博士が機械の前から離れるけど……博士が離れた途端、青白い壁は復活してしまった。


「ま、またっ!?」


「――なるほど、制御し続けなければ駄目なわけか。おまけに、暴走はひどくなっている……と。これは僕の責任だな。イヴ、君だけでも……」


「待って……その先は言わなくていいわ。私も……付き合うから……」


「だが、君はようやく――」


「今度は私を一人にする気?」


「ふっ、敵わないな」


 軽く笑ったストロフィ博士は晴れやかな顔でカタカタと――いや、ダカダカとものすごい勢いでキーを打ち続ける。


「絆君、楔君。君たちはすぐにここから離れるんだ! ここはもうすぐ崩壊する! そうすれば君たちも閉じ込められる!」


「でも、博士達が!?」


「いいから、行け!」


「お願い! 行って!!」


 ストロフィ博士とイヴさんが必死に呼びかけるも、主人公絆君の足は動かない。ここまで来て悔しいのだろう。それは私も同じだ。

 だって最推しキャラだもん! 救えるなら救いたかった。でも、無理だったんだよ。


「絆君、行こう! 博士の覚悟を無駄にしちゃう!」


「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 どの口が言ってんだ? とは私も思う。

 だけど、私の言葉で主人公絆君は動いてくれた。


「これは僕の贖罪だ! 気にするんじゃないぞ!! 最後に君たちを巻き込むような人間には……させないでくれよ」


 私達は博士のそんな言葉を背後に聞きながら、屋上から駆け出していく。その最中見てしまった。

 機材の一部が爆発し崩壊していく屋上で――発生した謎の裂け目に機械ごと飲まれていくストロフィ博士たちを。


 原作通りの終わり方だった。

 その後、私たちは脱出に成功し、敵を足止めしていたヒロインちゃんやライバル君も全員無事だったようで、外で合流できた。


 博士が最後まで足掻いたからか、グランドタワービルの崩壊だけで周辺への被害はほぼないに等しかった。


 いや、十分大事件なんだけども、これで収まっただけすごいだろう。博士たちが消えたあの空間が周辺ごと飲み込んだ可能性もあったのだから。

 何にせよこれで本当に終わりだ。


『戦友機人 パノプロイド!!』――これにて完!





 ――――――――――





 なぁーんて、大事件が起きたのも一五年前。いやー、若かったな私。

 そうなんだよね。物語が終わったからといって私の精神が元の世界に帰ったり、記憶を失ったり……なんてことはなく、普通に人生は続いたわけなんだよね。


 中学→高校→大学と前世同様のルートを辿った私は、このホビアニ世界でやりたかったことをやることにした。


 それは何かって?

 それはもちろん……


「よし、今日もがんばりますか!」


 そこにあるのは『Connecters』と書かれた看板が掲げられた店。

 そう、私のやりたかったことはショップ経営だ!

 

 ホビアニ世界といえばショップとは切っても切れない関係にある。前世のホビーショップに比べると、当たり前のようにパノプロイドが広がっているこの世界なら安定した経営が可能になる、というわけだ。

 おまけに私も楽しい! こんなに優れた働き方があるだろうか、いや、ない!

 まあ、祖父母がやめた店に居抜きで入ったというか、全部自分のお金で買ったわけじゃないけど、それはまあいいだろう。立派な一国一城の主だもんね。


「あ、そうだ。シャッター開ける前に在庫確認しとこ。最近、中量級が人気なんだっけー? さぁーって、在庫在庫……うん? あれ? 私、倉庫に鍵かけなかったっけ?」


「パタ?」


 倉庫を開けた私の眼の前にいたのはどこかで見まくった、出来の悪いPの文字が入ったスーツと仮面を被った三人組。

 おまけにその三人組はパノプロイド用の武装をこれでもかと抱え込んでいた。


「は?」

 

 どうやら、私はまた何かに巻き込まれてしまうのかもしれない――が、それはそれとして!


「うちの商品―――!!!!!」


「「「パターーーーーー!?!?!?!?!」」」






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