第7話 初めての寮生活

 日が完全に落ちてしまった中、私はこれから夜を過ごすことになる寮へと地図を開きながら向かう。学園からはあまり離れていないし、寮までの道は明かりに照らされているからそこまで苦労はしなかった。学園の正門から少し歩いた先ですぐに寮を目視することが出来た。寮の見た目は少しマザーガーデンと似て大きな門が正面に待ち構えていて、泊まる場所だけあって厳重に鉄柵で覆われていた。やっぱり王立だから少し似るのかもしれないと寮の前で考えていると一人の生徒が私に声を掛けてきた。


「あなた、新入生?」


 寮の見た目をじっくり見ていたから彼女の声に気付かず、悲鳴を上げてしまった。


「ごめんなさい、驚かせてしまって」


「い、いえ……私の方こそすみません」


 その生徒は私よりも遥かにお姉さんで髪も綺麗な黄色をしていて、王族の人のように感じてしまった。マザーガーデンでは王族直属ということもあり、たまに王族の人が来ることもあったけど、その時の人に少し似た風貌だった。


「私は名をキャトル・ヴェインと申します。寮の監s……ではなく管理を任されているの。もし困ったことがあれば、私に何なりとお申し付けを」


 とても丁寧な言葉で話してくれたが、その中に何やら怪しげな言葉が混じっているのを私は聞き逃さなかった。


「監視ってもしかして……魔法使いになろうとしている人をとかですか?」


「え? いえ、夜中に出歩かないようにですが……確かにこちらの寮の方が魔法使いになるという言動をされることは許されないですけれど……」


 ついうっかり言葉が漏れてしまった。どうして魔法使いになる人を監視しているか聞いたんだろう。頭を冷やさないとダメだ。


「あの……どうされましたか? もし具合が悪いのであれば、保健室へ一緒に行きましょうか?」


 どうやら落ち込んでいる私を見て体調が悪いと思っているようだった。


「いえ、大丈夫です! 心配してくださってありがとうございます」


 私は一息落ち着かせてキャトルさんのことを見ると、胸元に魔法学部の校章が付けられているのに気が付いた。どうしてローレンが暮らすコクリコ寮をアルティナが監視しているのか少し引っかかった。まず、どうして一般の生徒に寮を監視させているのかから気になるところだ。私は、興味本位で尋ねてみる。


「どうして魔法学部の人がコクリコ寮を監視しているんですか?」


「それは、私がこの役割を立候補したからよ」


「どうして立候補したんですか?」


「それは…………うん、秘密ね」


「魔法学部の人にこうやって話せたのがうれしくて色々聞きたいんですけど……例えば魔法のことってどう思ってるんですか?」


「別になんとも思ってないですよ。不思議な力、だとは思いますけれど」


「そうですよね! 魔法にはどんな魅力があると思いますか?」


「特には……まあ、色々な使い方があることは素敵だと思います」


「なるほど……本で読んだ通りの意見もありっと……」


 私は貴重な機会が来たとここぞとばかりにメモを取り始める。師匠が教えてくれたこともよくメモを取っていたからメモ用紙は大量に保存しているからこういう時でも安心して使うことができる。私がメモを取りながら疑問に思っていることを次々と質問すると、キャトル先輩はある質問で急に答えてくれなくなった。


「デスト・アヴニール事件にはついてどう思いますか? 魔法学部の生徒としての意見を聞いてみたいです!」


 すると、私の質問はそっちのけにして逆に質問してきた。


「あなた、お名前は?」


「あ、すみません! 名前も言わずに……私はファルって言います」


「ファルさん、質問ならまた今度にしましょう? 今日は早く自室でお休みにはどう?」


「え……? は、はい」


 キャトル先輩は笑顔で私にそう告げた。初対面で少し圧が強すぎたのかもしれないと少し反省した。それに魔法学部の先輩だから魔法の情報欲しさに思わず前のめりに聞いちゃったけど、食堂で起きたあの光景を忘れてはいけない。この学園には何があるか分からないからこそ、気を引き締めて調べる必要があるということを。


「すみません、一方的に質問してしまって。では、また今度聞かせてください!」


 私はそう答えて寮へ行った。扉の目の前に立つと扉に描かれた花の紋様が至る所に描かれていて、とても素敵で見入ってしまった。私は早く入らないとまた注意されると思って扉を開けようとするも、あまりの硬さに開けることが出来なかった。部屋にある扉よりも格段に大きいから重かったり、動かしにくかったりするせいかびくともしなかった。私が必死に扉を開けているとキャトル先輩が私に声を掛けてきた。


「扉を開けるときは、学生証を使うのよ」


 私は突然の登場にまた悲鳴を上げてしまった。


「ごめんなさい、また驚かせてしまって。学生証を扉の真ん中の窪みに填めると入ることが出来るの」


 鞄から学生証を取り出してキャトル先輩が話す窪みに填めてみると、カチャリと金属の音が聞こえた。


「後は学生証を取り出すと扉が開けられるようになるわ。取らないと扉は開かないの」


 私はすぐに確認するため扉の取っ手を握り、軽く押すと簡単に開くようになった。


「あ、ありがとうございます、先輩!」


 私はどのような仕組みで扉が開いたのかという興味が溢れるほどに湧いてきた。


「いいえ、寮について教えるのは私の責務だもの。それじゃあ、早く入りなさい」


 ただ、質問をしようとすると上手く流されてしまう。


「は、はい!」


 私は勢いよく返事をしてそのまま扉を開けて寮の中へと入っていった。


 扉を開けるとそこには大広間があり、寮の人がくつろげる空間が広がっていた。暖色の照明に木造の内装でどこか温かみがあって好感触だった。ふと後ろを振り返るとそこには扉を開けるために使った窪みらしきものはなく、内側からは誰でも開けることができるらしい。大広間の奥には丸太で造られたのカウンターや観葉植物、娯楽小説や絵本などが入った本棚など私の好奇心はもう止まることを知らない。



 あれから1時間もの時間が過ぎてしまっていた。特に本棚があった場所では見たことがない本が多くて、次に読む本の目次や前書きを見て考えているとあっという間に時間が過ぎてしまう。これからはもう少し時間を見て行動するように気をつけないといけない。私は螺旋階段を上がりながら自分の部屋へと移動する。荷物は先にこの寮の自室に置かれているらしい。どうやらこの学生証を当てると荷物が入ったケースが開けられるらしいけど、この学生証ってどんなにすごい魔法が施されているんだろう。学生証を思わず解体して調べてみたいと思ってしまう。

 私の部屋は3階の扉に「 Ⅰ 」と刻まれた部屋だと聞かされている。


「ここだ」


 私は「 Ⅰ 」が刻まれた扉の目の前に立って一度深呼吸をする。ここでこれからの夜を過ごすことになる寝室。他の部屋で寝ることが初めてだからこそ緊張してしまう。私は一息吸い込んでから扉の取っ手を握り、ゆっくり開ける。そのはずが、なぜか扉が開かなかった。私は取っ手を何回か押したり引いたりしてみるも中々開けられなかった。すると、部屋の中から誰か女性の声が聞こえてくる。


「学生証を扉の傷に当てたら開くよ」


 私はさっきの寮の扉と同じ仕組みだと理解し、その声の通りに実行してみた。すると、カチャリと鍵の開く音が聞こえてきた。その音を聞いて、すぐに扉を開けてみるとそこにはふかふかそうなベッドと壁際に置かれた机が二つあり、真ん中には大きな窓が一つある部屋でシンメトリー設計になっていた。そして、右の空間にはさっき声を掛けてくれた少女がいる。黒くて短い髪と少し垂れ下がった目をしていて狼みたいな印象を受けた。ちょっと怖そうなイメージを持つけど、さっき扉の開け方を教えてくれていたから優しい人だと思っていたこともあってそこまで怖くはない。


 この寮では歳が近かったり、性格相性が良いと診断された人が選ばれる仕組みで寮の部屋が決められるらしい。歳はともかく、性格相性に関しては色々疑問はあるけど、思ったよりも上手くやっていけそうで安心した。


「初めまして! 私はファル・ロンドと申します。今後ともよろしくお願いします!」


 初対面でしっかりと挨拶を交わす。挨拶は大事だと師匠にはよく言われていたからここはしっかりと礼儀として行う。すると、彼女は少しの間硬直してから言葉を返してくれた。


「ん、よろしく」


 思った以上にクールで表情の変化も読み取れないような一定の低いトーンで答えが返ってきた。その言葉を話した後、彼女は名前も言わずにベッドへと横たわった。


「えーっと……名前は何て言うんですか?」



「………………………………レスティア」


「レスティアちゃん……レスティアちゃん、よろしくね」


 私は名前を覚えられるか不安だったからしっかり脳裏に刻むように何回か唱えて覚えた。今まで孤児院の人の名前しか覚えていなかったし、むしろ孤児院の全員を覚えられていたわけではないから少し不安だった。本に出てくる固有名詞だと思って覚えればなんとかなるだろうか。

 そういえばと荷物のことを思い出し、部屋の中を少し見回してみると足元に大きな木の箱が置かれていた。私は学生証を箱にあった印に当ててカチャリという音を聞き、箱を開けてみた。すると、マザーガーデンで見た荷物と何故か黒い三角帽子が入っていた。


「え?!」


 私は思いもよらないものを見つけてすぐに手に取って確かめる。


「やっぱり魔法学部の三角帽子だ!」


「静かに」


 私は興奮のあまり夜中に大きな声を出してしまい、会ったばかりのレスティアちゃんに怒られてしまった。


「ご、ごめんなさい……」


 私は心を落ち着かせて三角帽子をもう一度確認する。それは間違いなく私が被りたかった魔法学部の生徒が身につける三角帽子だった。

 魔法学部の生徒は必ず三角帽子を着用しなければならない。だからこそ、魔法が使える者の証とも言える。でも、どうして荷物の中に入ってるんだろう。

 すると、三角帽子が入っていた荷物の底に誰かの手紙が入っていた。


「これは……お母様から」


 それはお母様から寄せられた手紙だった。赤い封蝋を剥がすと中には一枚の紙と一輪の花が描かれた栞が入っていた。お母様はきっと私を勇気づけようとしてくれているんだと思って栞を大切に自分の机に置き、ベッドに座り込みながら手紙の内容を確認した。その内容は私への励ましと、応援のメッセージが書かれていた。


「ファルはまだ世の中を知らないこともあるだろうけれど、無事に過ごせるようにマザーガーデン一同願っているよ」


 世の中を知らないこともあるだろうけれどという一言余計な部分はお母様譲りかとマキナのことを思い出しながら読み進めていく。


「ちなみに、未来学部の生徒は三角帽子をつけないと言っていたけれど、魔法使いを夢見るファルのために三角帽子も購入しておきました」


 やっぱり、お母様がと少し嬉しい気持ちがむず痒くも、この三角帽子を着こなせるようにしっかり魔法を身につけるという自信にもつながるから今は素直に喜んでおくことにした。


「寝坊しないように気をつけてください。byマキナ」


 マキナのメッセージもいつも通りで少し安心した。まだ入学して一日目なのに、少しだけ孤児院が恋しくなってくる。私は今朝にルアンから貰ったスズランの花を思い出し、机の窓際にそっと飾った。いつかこの場所も自然でいっぱいの素敵な部屋にしたい。それに、もう少し同室の人と仲良くなりたいし、もっと私が感じる魔法の魅力を学園中に伝えたい。でも、この学園はどこかおかしいし、先生も何かを隠してる。だからこそ、知って知って全てを解決する。そうやって地道に積み重ねていこう。

 花も水を毎日あげることで少しずつ実っていく。だから、今できることを探してみよう。


「いつか実りますように」


 私はそっとスズランの花に手を合わせ、願いを込めた。

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