第4話 ピジョンズ・シエル
羞恥を晒した入学式の後はそれぞれの学部ごとに分かれ、それぞれの学部棟である校舎に移動することになる。私は「未来学部」所属だから、隣接する未来学部第一校舎、通称「ピジョンズ・シエル」と呼ばれる校舎へ移動する。そこでこれからの年間スケジュールや提出物、これからの学園生活の注意点等やその他の説明などについて聞くことになる。未来学部の新入生はマリアード大聖堂を出てすぐの場所で案内役の先生を待つことになっている。どんな先生が来るのかと少し心を躍らせるも心のどこかで未来学部の先生だから魔法を見れる望みは薄いと思ってしまっている自分がいる。さっきの入学式があの様子だから尚更だ。それに前にあった説明会で、担当教師は生徒同様、それぞれの学部で「アルティナ」か「ローレン」かがしっかりと分けられている。だから今から来る先生はローレン人で違いない。早く自由時間にならないかと空を見上げていると案内役らしき人物がやって来る。
「今日、未来学部の皆さんにはピジョンズ・シエルとコクリコ寮を案内をします。案内役は社会学担当のロミオ・バルムが務めさせていただきます。ロミオ先生とでもお呼びください。これからどうぞよろしく」
爽やかに自己紹介を終えた彼は、他の先生と比べても断然若く、細目で長身の優しそうな男性だった。まるで、若い王女様の側で仕える執事のようなスタイルで引き締まった黒のスーツがまた雰囲気を感じさせる。なんとなく女子生徒からの支持が高そう。
「きゃあああ! かっこいいいいいい!!」
そう思った矢先、女子生徒の黄色い悲鳴が響く。正直私も目を惹かれてしまった内の一人だったけど、そこまで心を打たれる生徒がいるとは思いもしなかった。
「大丈夫ですか? まだ慣れないとは思いますが、無理をせず着いてきてください。万が一の時は保健室へと連れて行きますので」
「連れて行ってほしいかも……」
ロミオ先生の優しさに溺れそうになる女子生徒も現れる。
「では、これからピジョンズ・シエルの中に入り、一階の大広間へと移動します。僕の後にしっかり着いてきてください」
そう言ってすぐ、先生の後を追うように校舎の中へと入っていった。校舎に入るとまず、正面ホールが広がっている。石材の床と大理石の白壁、その先には二又になっている2階へ繋がる階段とその両際には宝石が埋め込まれた扉が全部で4つ開かれていた。いずれの扉も大きくそれぞれに鳥の絵が彫られていた。そして堂々と立つ誰かの石像が階段の踊り場に聳え立っていた。
「ここが皆さんが必ず通るであろう正面ホールです。皆さんが授業を受ける際にはこの場所を通ることになります。まず、正面に見える石像は初代学園長である…………」
ロミオ先生が説明をし始めると、一つ一つの石像や絵画、植物、扉の鳥のことなど語り始める。その時間はおよそ20分にも及んだ。それに痺れを切らしたとある生徒が口を挟む。
「ロミオ先生、早くしないと昼食の時間になるよ」
「先生の話はまた今度聞かせてください!」
私にとっては少しだけ気になる話だったけど、確かにこのままあの話が続けばいつ校舎案内が終わるか分からなかったから今はこれでいいのかもしれない。
「そうですね……すみません。つい癖で……ただ、次の機会では扉の宝石のことやピジョンズ・シエルの建築構造についても是非話したいですね」
この先生と絡むと学園長よりも長い話を聞かされる。学園長に比べれば話の内容自体には興味はあるけど、私的に一人で色々見て周りたい気持ちが強い。だから、時間が進むにつれて興味は疲労へと変わっていった。
その後もロミオ先生の長話をなんとか生徒の掛け声で乗り切り、昼食の時間になる。
昼食は大広間に設置されている食堂「ピジョンズ・ニド」で食べることになる。観葉植物が豊富で全体的に緑に覆われた場所になっている。植物があると私的にはすごく身近だけど、ここはあまりに多過ぎて森の中と見間違うほどだ。
「ここはピジョンズ・ニド。おそらく大半の人が朝昼夜の三食をこの食堂で食べることになると思います。僕もこの場所にはよく来るのですが、特にメニューにあるポテチーズグラタンが絶品で……」
ロミオ先生がまた話し始めた。もうあの人止めなかったらきっと夜が明ける。ただ、ロミオ先生が語り出そうとすると誰かがすぐに止めに入るから話はそこまで長くなかった。
そして、少しお腹が減ったところで昼食をこのピジョンズ・ニドで食べることになった。ちなみに私はロミオ先生が言っていたグラタンを興味本位で食べてみた。食べてみれば絶品だったのは間違いないけど、思ったよりもボリュームがあってお腹が苦しい。他のみんなが食べる料理も全部美味しそうで、ここの食事はこれからも通うことになりそうなほどには魅力的だった。何より食事代は全て学園側が賄ってくれるからこそ食べなければ損だし、観葉植物のおかげで心が落ち着くからゆっくりと食事を楽しむことが出来る。私は胃も心も満ち足りた昼食を終えて、食器類は全て返却口へと返しに行った。その際、ちらほらと魔法学部の生徒がこの食堂を使っていることに気がついた。
この学園は学部によって校舎が別だったこともあって、魔法学部の生徒には中々出会えないのではと思っていた。でもこうして魔法学部の生徒も使っているのなら話しかけるチャンスはありそうだ。そう思いながらどうやって魔法に関する情報を集めようか考えていると、あっという間にロミオ先生の集合の時間になった。
私は席に着いて待機しているとロミオ先生が手を鳴らし、生徒達の注目を集める。
「それでは皆さん、改めましてようこそ、マリアード学園へ!」
「我々教師一同、生徒達の健やかで誠実なる学園生活を送れるように切磋琢磨の精神で教育に取り組んでいます。この学園に来られたということはおそらく皆さんは魔法がエネルギーとして非常に魅力的で未来を動かす力を持っていると感じていることでしょう。その想いを大切に育て実を結べるよう、共に学んでいきましょう。リ・アマナの加護があらんことを」
ロミオ先生は数秒間祈りを捧げ、生徒達も見よう見まねで祈りを捧げた。私も同じように祈る。祈りが終わると次は、自己紹介の時間に移る。
相変わらずロミオ先生は自分の紹介をする際に話が長い。その長い話が終わってからようやく生徒達の自己紹介が行われる。しばらく同級生たちの自己紹介が進み、みんなそれぞれ自分の想いを胸にこの学園に来たことをアピールしていた。
「魔法工学をもっと広げたい」
「魔法によって人々を救う範囲をさらに広げてより多くの人を助けたい」
「魔法によって世界を変えたい」
その理由は千差万別でどれも魔法に関する内容が多かった。未来学部なだけあって魔法を活かした未来を夢見る人で溢れていた。ただ、その中で誰も私と同じ「魔法使いになりたい」という人はいなかった。
昨日の本にあったし、今まで読んできた本にも多く書かれていたけど、ローレンは魔法使いになることが出来ない。だから夢を見ても仕方がないと思う人が殆どだということも分かっていた。それにしても誰一人いないのは少し疑問だ。魔法は人を救えるのにどうして自分が使いたいとならないんだろう。
「では、次は……ファルさん」
その時、私の名前が呼ばれた。私は、魔法を夢見てここまで来た。だから堂々と胸を張り、ここで皆に私の夢を伝える。そして、何か情報を得る。
「私はファル・ロンドです。私はこの学園で…………」
「魔法使いになります!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます