集う者たち
アリナと言う仲間を手に入れ、ザレンの魔王討伐への道は進んでいく。
一人だけの旅たった時よりも、やはり二人旅の方が負担は少なく、安定した旅が行えるようになった。
順番に睡眠を摂ることで、翌朝しっかりと動けるようになったのが何より大きな利点と言えるだろう。
本来、パーティーを組む上でのメリットは数の増加による戦力の強化なのだが、ザレンとアリナはあまりにも強い。
活性化した魔物を倒すだけなば、一人で十分なのである。
しかし、万が一大きな怪我を負った場合、助けてくれる者が居ない。
神の奇跡とも言われる、治癒の力が使える者が欲しかった。
そんな訳で、ザレン達はとある教会にやってくる。
そこには、稀代の神の奇跡の使い手と言われている聖女システィーナが居るのだ。
「聖女様は忙しい。貴様らのような者を相手にする暇など無い。帰れ」
「そんな!!せめて、話だけでも!!」
「聖女様には無い。それ以上騒ぐようだと、貴様らを牢獄に叩き込むぞ」
教会を訪れたザレンであったが、当然聖女システィーナにそう簡単に会えるはずもない。
彼は、聖騎士と呼ばれる教会の兵士に突き返されると、口を尖らせた。
「話ぐらい聞いてくれたっていいじゃないか。今日、ここら辺で聖女様が何かをやるなんて話は聞いてないぞ」
「........ザレン、だから私は止めたのよ。一介の冒険者が聖女に簡単に会えるわけないじゃない。聖女は教会の顔。もしもがあれば、教会の顔に泥がつく」
「教会はそんなにメンツが大事なの?人の命より?」
「そう。それが組織。特に教会や国家は舐められた時点で終わりなの。私たち冒険者だって、他の冒険者に弱い態度は取らないでしょう?カモにされるから。それと同じ」
ザレンは良くも悪くも世間知らずだ。
そして純粋である。
元々農家の出のため、あまり教養がない。
しかし、アリナは別にその世間知らずな考えを否定したりはしなかった。
ザレンは世間知らずではあるが、賢い。
アリナの言葉を聞いて、それに納得できる部分があれば自分の間違いを素直に認めるのである。
「聖女の体は一つ。私たちのような冒険者の話を一つ聞けば、それは二つ三つと膨れ上がる。その全てを救える?」
「........無理だね。ごめんよ。僕が短慮だった」
「気にしてない。いつもの事」
「でも、それじゃ聖女様を仲間にできないのかな?せめて、話だけでも聞いて欲しいんだけど........」
断られてしまうのは構わない。ザレンは旅の中で、魔王討伐を本気で目指す者が少ないことを理解している。
アリナのような変わり者でなければ、この話に乗ることは無いだろう。
しかし、話を一つも聞いて貰えずに諦める訳には行かなかった。
可能性は低いとは言えど、話してみる価値はある。
「方法ならある。聖女は毎日必ず一回、日が沈み始めた頃にあの窓から顔を出す。そこに手紙を送ればいい」
「どうやって?」
察しの悪い、いや、どうするかを分かっていながらも、あえて質問するザレンにアリナはニヤリと笑うと自分の担いでいる弓を強く握った。
「その為の、狩人」
─────
聖女システィーナ。
この国でその名は国王よりも有名だと言われている。
治癒の力を持った神の奇跡の使い手。彼女はその中でも、卓越した力を有していた。
死者の蘇生は出来ないが、欠損した腕を生やす事ぐらいならできる。
死んでさえいなければ、彼女は大抵のものは治せてしまう。
それほどまでに、システィーナの力は兄弟であった。
故に、教会から軟禁にも近い保護をされている。
彼女が相手にするのは貴族や大商人といった、教会の権力に関わる人のみ。
魔王の出現によって、世界は混乱に満ちていると言うのに、何も出来ない彼女はこの現状を歯痒く感じていた。
「........はぁ。今も多くの人々が苦しんでいると言うのに、なぜ私はここに居るのでしょうか?私が相手にするのは、教会にとって重要な人物達のみ。しかも、そのお金は大司教や枢機卿と言った者たちの懐に入るだけ。一体、何のために私はこの力を神より授かったのでしょうか?」
組織が肥大化すれば、自然と内部は腐って行く。
それは、国家も教会も大して変わることなく、今の教会は魔王の脅威を利用して金稼ぎに勤しんでいた。
特に酷いのがとある枢機卿だ。彼は運良くシスティーナを見つけた人物であり、システィーナを使って今の席まで上り詰めている。
彼はシスティーナを失えば自分の立場が危ういと分かっているので、滅多な事では彼女を外に出さなかった。
しかし、そんな中でも一つだけ許されている事がある。
「そろそろ時間ですかね。この街を見下ろす五分間。これが私の唯一の楽しみですか........」
軟禁生活は、精神的な異常を引き起こす可能性がある。
聖女としての価値がある中で、気が狂ってしまった時には大きな打撃となるだろう。
そこで、枢機卿は、毎日日が暮れ始める5分間だけは窓を開けることを許していた。
教会の最上階という事もあり、暗殺の可能性も、逃亡の可能性もない。
監視の目から逃れられる唯一の時間であり、システィーナの唯一の楽しみであった。
そして今日も窓を開ける。
「........えっ」
今日も何も変わらない街並みを眺めるだけの時間が過ぎると思っていたシスティーナだったが、今日は違った。
窓が空いたと同時に窓枠に突き刺さる1本の矢。その矢には手紙が付けられており、システィーナ宛に書かれているものだと分かる。
一体誰がこんな所まで矢を飛ばしたのか。
その理由は分からなかったが、自分に充てられた手紙であるということで、システィーナは早速中身を読むことにした。
「えーと、“初めまして聖女様。このような形でのご挨拶となってしまい、誠に申し訳ありません。僕達は─────”」
そこに書かれていたのは、とある少年と少女の旅とその目的に着いてであった。
簡単に言えば、“魔王討伐をしたいから、仲間にならないか?”というものである。
初めはなにかのイタズラかとすら思ったが、この場に向かって矢を放つ事がどれほどのリスクを抱えているのかを知っているシスティーナは、この文の主が本気であることを理解した。
「なるほど。私はこの街からほとんど出たことが無いので知りませんでしたが、世界はもっと悲惨なことになっているのですね。魔王........神の奇跡を得た私がやるべき事は、これですか」
そしてシスティーナは決意する。
この鳥籠よりも窮屈な世界から飛び出して、世界の為に、世界の平和の為にこの力を使おうと。
『聖女に会うのはやはり厳しいか........どうする?』
『あん?んなもん決まってんだろ。やるかやらないか、聞きに行くんだよ』
『どうやって?』
『こうやってさ!!強行突破だ!!アタシより弱いやつが前に立つんじゃねぇ!!』
『はぁ?!ちょ、おい!!』
かつて勇者ザレドは聖女クリスティナを仲間にする為に、教会を強行突破したことがある。
ザレドは他の方法を考えていたのだが、ゾーイが何も考えずに突っ込んだのだ。
もちろん、こんな滅茶苦茶な話を書けるはずもなく、ザレドの英雄譚では聖女クリスティナが神の導きによって、ザレドと共に歩むことを選んだとなっている。
流石にここまで荒い方法を使った訳では無いとはいえど、やっている事はほぼ同じ。
またしても、ザレンは勇者と同じような方法で仲間を手にする事となったのである。
それから一週間後、聖女システィーナは魔王討伐の為に檻の中から飛び出した。
“魔王討伐の旅に出ます”とだけ書かれた紙が置かれ、教会は一時混乱に陥るのであった。
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