第39話 絶対絶命の少女

「はぁ、もっと簡単に勝てると思ったのに」



 全力で走って逃げて振り返る。すると、大量死は追ってきていなかった。どうやら歩いてくるらしい。余裕を振りまいて観客にアピールということか。むかつくが、こちらとしてはその余裕を利用するしかない。肩で息をして、ジュリエットはいろいろと細工をする。そして、ジャケットを地面に伏せて、物陰に隠れた。



「この仕掛けがうまくいかなければ、もう負けかな」



 ジュリエットは銃を握って敵を待つ。


 一本道。先はなく立ち入り禁止のマークが立っている。その先は場外。脇に砂山と寂れた工事機材。この会場を作成する際に使用した機材を放置したのかもしれない。


 そこに大量死ビッグダイが歩いてくる。


 堂々と正面から。おそらくジュリエットの力量をほぼ理解したのだろう。普通にやったら銃を向けられてからでも十分に対応できると踏んだのだ。


 そのまま、なめくさってくれればいい。そして、こちらの仕掛けにひっかかってくれ。


 

「ほらほら、子猫ちゃん。行き止まりだぜ。追いかけっこは終わりだ。さっさと尻を振って出て来いよ」



 どうでもいいが、子猫ちゃん呼ばわりはおもしろいと思っているのだろうか。はっきりいって、おさむい。何でこんなくだらないジョークで観客が湧いているのか不明だ。おじさんだからだろうか。おじさんにはうけるのだろうか。少なくともジュリエットには理解できない。


 まぁ、いい。そのまま来い。


 そのまま来て罠にハマれ。



「何だ? ジャケットも脱ぎ捨てて。俺に犯される準備でもしてんのか?」

 


 道の真ん中に置かれたジャケット。普通に歩いてくれば踏む場所にある。そして、大量死がショーにしたいのならばジャケットは踏みつけていきたいだろう。ジュリエットは期待して息をのむ。あと3歩、あと2歩、あと1歩。大量死が足を振り上げたとき。



「なんてな。こいつを踏んでほしいってところか?」



 大量死は足を止めた。



「見え見えなんだよ、子猫ちゃん。いや、猫でも自分のクソはもう少しきれいに隠すぜ。これじゃ、この下に罠がありますって知らせているようなもんだ」



 大量死はジャケットを足でめくる。その下には穴。いや、穴というにはお粗末な窪み。時間がなくてジュリエットにはそのくらいしか掘れなかった。だが、無警戒に踏みぬけば隙はできる。そこを狙うという算段だと大量死に見抜かれた。



「くそっ!」



 思わずジュリエットは漏らす。もしかしたら位置がバレたかもしれない。だが、そんな問題ではない。これでこちらに勝てるカードがなくなった。


 

「さぁ、小細工はもうおしまいか?」



 大量死が落とし穴をまたいで、ゆっくりと近づいてくる。1歩、また1歩と。もう待っていられないと、ジュリエットは大量死の前に飛び出し、銃を構えた。



「当たれ!」



 パンパンパン!



 破裂音が鳴る。しかし、それらはすべて大量死の足元。彼はぴんぴんとしたまま立っていた。



「残念だったな。最後のチャンスだったのに」


「まだ!」



 バン!


 一発。一発の銃声が、ジュリエットが指を動かすよりも先に鳴る。次の瞬間、肩に耐えようのない衝撃が走り、ジュリエットは後ろに弾き飛ばされた。



「こうやって狙うんだ。勉強になったかい、子猫ちゃん」



 ゲームが終わらないようにわざと急所を外された。だからって平気なわけもない。激痛が肩に走り、そのまま頭の奥まで駆けていく。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」



 悲鳴がこだまする。同時に、歓声と笑い声。やっと人に弾が当たったことに盛り上がっている。拳銃決闘の醍醐味といえる要素。味わうのは楽しいだろう。けれども味わわれる身になるとは思っていなかった。あまりにも考えが浅かった、とジュリエットはやっと後悔した。


 銃を、撃たなきゃ。


 そう考えたが、手に銃がない。先ほど撃たれたときに、銃を落としてしまった。どこだ? 後ろを振り返ると転がる銃。ジュリエットが走ろうとすると、その先に銃弾が撃ち込まれた。



「おいおい、さすがにもう追いかけっこは終わりだぜ。観客も待ちぼうけだ。早くR18のお楽しみショーを初めてくれってな」


「ふざけんなよ。誰が、おまえなんかに犯されてたまるか」


「何だ? まだ元気じゃないか。いいねぇ。せっかく組み敷いても無反応マグロじゃつまらんしな」



 ジュリエットは少しずつ足をスライドさせて脇道に移動する。隙あらば逃げられるように。しかし、その思惑も封じられ、銃弾で牽制される。銃弾は建設機材に当たって甲高い音を立てた。ジュリエットはその銃弾に驚いて、砂山に倒れ込む。



「おまえ、まさか女だから殺されないと思ってんのか?」


「……」


「ははは、いい根性しているね。確かに殺しはしねぇ。だが、もう何発か撃ち込まれるとは思わなかったのか?」


「……!?」


「俺は何人も殺してきたが、人間ってのはなかなか死なねぇもんさ。おまえが泣いて許しを乞うまで何発かな?」


「……嫌」



 ジュリエットは率直に答えてしまった。



「もう一発もムリ。痛いのは嫌」


「あはははは! 何だよ、もう降参かよ! あっけねぇな」


「ギブアップする。何で? 何で終わらないの? !」


「この状況でギブアップなんてできるわけねぇだろ。おまえが丸裸になって、俺のイチモツで絶頂するまで終わらねぇさ」


「くそっ。最悪」


「何だ? まだ生意気だな。もう一発くらい撃っとくか?」


「やだっ、やめて。何でもするから」


「そうだよな。痛いのは嫌だよな。女なら、身体にぶちこまれるのは、別のもんがいいよな」


「……ひっ」



 ジュリエットは砂山の上を逃げるように移動した。銃弾は怖い。しかし、半裸の男が迫ってくるのを黙って待ち受けられるような精神構造はしていなかった。


 大量死が、砂山に寝そべるジュリエットの前に立つ。近くで見ると余計に大きい。2メートルくらいあるのではないだろうか。自分の股間のあたりを触りながら、ジュリエットの腰の上で膝立ちになった。そしてせわしなくベルトを外す。



「たっぷり楽しませてやるよ。俺のご立派様でな」


「ま、待って」


「あ? この期に及んで抵抗か? まぁ、かまわねぇけど」


「いきなりは嫌。せめて胸から」



 そう言って、ジュリエットは上半身のスーツをめくり上げた。お腹から順に肌が露出する。誰にも見せたことのない二つの乳房がぼろりと現れた。ここ一番の歓声。大量死も、ひゅー、と口笛を吹く。



「いいサービスじゃねぇか。やっぱり調教には暴力がいちばんってな。ははは、じゃ、おいしくいただくかな」



 大量死が、ジーンズを下ろして前かがみになる。ジュリエットは諦めていて抵抗しない。大量死の勝利はもう確定だ。


 



「そんなわけないじゃん」



 バン!

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