4.一言でいえば『失敗』ということだ。
「ジブさん、ライガーなら大丈夫です!」
多段構えの不意打ちで分断された仲間を心配するリルちゃんに、レフくんが喝を入れる。
ライくんはすでに俺の視界からも外れてしまったが、確かに進行方向へ盾を構えて吹っ飛んでいた気がする。ちゃんと意識も態勢もあって吹っ飛んでいたのなら大事には至らないってことだろう。
不意打ちした二人もあれで倒したとは思っていないらしい。素早い小男が先行し、怪力の大男がノシノシと吹っ飛んだライくんの後を追った。
「くっ」
リルちゃんが歯噛みし、眼前で不敵に笑うナンバー2に向き直った。
ナンバー2はリルちゃんの眼光を真っ向から見返して見下すように顎を反らせた。
「良いんですか? 私にかまけているとお仲間が袋叩きに遭いますが?」
リルちゃんの背後では、残った襲撃者たちが奇声を上げながらレフくんに詰めかけていた。
レフくんも騎士団の一員だ、一般人に毛が生えた程度の低ランク魔法使いは剣であしらっているものの、それも多勢に無勢、制圧されるのは時間の問題に見えた。
リルちゃんの判断は早かった。
「賢明です」
ナンバー2の嘲笑を背に、リルちゃんはレフくんの援護に駆け出した。
鍔迫り合いで動きを封じられたレフくん背後を、氷の刃が襲い掛かる。間一髪、リルちゃんが加速魔法で割り込み、その氷の刃を叩き落とした。
「ジブさん……!」
悔しさを滲ませて。レフくんが背後を守るリルちゃんに声をかけた。
「ここを切り抜けてライくんと合流する」
リルちゃんは短く応えた。
「……致し方ありませんね」
その短い命令の意味を即座に理解したのだろう、レフくんは痛恨に頬を歪ませてそう吐き出した。
それはつまり、相手の目的や手段を詮索することを諦め、即座に撤退するということだ。
一言でいえば『失敗』ということだ。
「申し訳ないんですが、そういうわけにもいかないんです」
名うての誓騎士団員を手玉に取った愉悦か、ナンバー2の愉快そうな声が不快に響く。
刹那、リルちゃんとレフくんが陣取る道の空気が、ふわりと動いた。
気が付けばリルちゃんの眼前に一人の男が出現していた。
やや癖の強い長めの髪を散らした中肉中背の男が、リルちゃんを見下ろしている。
寒くもないのに巻いた長いマフラーは何故か両端がふわふわとたなびいている。
いきなり現れたことといい、謎にたなびくマフラーといい、加えて姿を現してからずっと宙に浮いていることといい、只者じゃない感がハンパない。
それを裏付けるかのようにレフくんが悲鳴を上げる。
「星五です!」
は、星五って、最高レアリティってこと? 始ケン者の村正と同じのがいきなり? え、そのマフラー男が?
リルちゃんの顔色が変わった。手にした剣がわずかに動く。
が、振り抜くところまで、相手は待ってくれなかった。
「ぐっ!?」
突然、リルちゃんとレフくんが巨人に踏みつけられたかのように地面に
それを平然と見下ろすマフラー男。『そう在る事が当然』といった傲岸な態度を見れば、リルちゃんたちを押さえつけているのがこの男の魔法だというのは自明だろう。
だとしたら、あの男が突然二人の目の前に現れたのは何故だ。
いや、俺の視界には映っていた。あいつがものすごい速度で空から落ちてきて、不自然なほど自然にリルちゃんたちの眼前に静止したのを。
相手の動きを止めることも、空を飛ぶこともできる魔法?
いったい何の魔法だ……?
「お待たせしました、破天様」
ナンバー2っぽい男が
「ご苦労だった、
破天と呼ばれたマフラー男はリルちゃんたちから視線を外すことなく労った。
「『破天』に『雨竜院』、だと……」
「ほう、我が名を知るか、女」
破天が僅かに片手を上げると、リルちゃんの苦悶の表情が和らいだ。破天が謎の魔法の効果を緩めたのだろう。レフくんの方は相変わらず
で、破天がなんでリルちゃんだけ緩めたかといえば、多分『知っていることを話せ』ってことなんだろう。
リルちゃんもそう察したのか、僅かに逡巡したのち口を開いた。
「星五魔法使い『破天』率いる非公認クラン『破天公』は誓騎士団で特定危険思想団体に指定され、常に情報の収集と共有が義務付けられている」
「ふん、危険思想か。誓騎士団にだけは言われとうない」
つまらなさそうに鼻で笑う破天。そうして一拍待ってから軽く首を傾げた。
「それだけか?」
「……」
「そうか」
軽く挙げていた掌を降ろした。
「くっ……!」
再び、巨人か何かに押さえつけられたように地べたに這いつくばるリルちゃん。
「破天様、女以外は始末していただいて結構ですよ」
ナンバー2こと雨竜院がそっと背後から囁き告げた。
「心得ている」
破天の視線が足元のリルちゃんからレフくんに移る。
「ぐっ、ううぅぅっ!」
途端にレフくんの呻きの苦色が強くなった。
「己が罪の重さをその身で思い知り、死を以て
「や、めて……!」
短く告げ、リルちゃんの声も無視し、破天は下に向けていた
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