第12話 両思いまであと少し?

夜の冷んやりした空気の中、俺はたった今送り届けたばかりのミサキとのやり取りを思い起こしながら自宅への道を歩く。

肌に触れる空気は冷たいのに・・・。

俺の身体の奥底から際限なく生み出される歓喜の熱は、冷える様子はない。

俺の腕の中にすっぽりと収まったミサキの体は、想像していた以上に細かった。

そんな彼女を護りたい・・俺の庇護欲が高まったのを感じた。

彼女を護りたくて、腕に力をこめれば、彼女のあたたかく弾力のある柔らかな身体を強烈に感じた。そして、瞳が潤んだ真っ赤な顔で恥ずかしがる・・・可愛らしくも艶っぽい彼女の顔を思い出した途端、俺は庇護欲だけでなく情欲(じょうよく)をも駆り立てられた。

職場から近い場所にある自宅に帰ってきた俺は、彼女を思い出しただけで

彼女を欲しがる己の分身に血液が充満するのをなんとか抑えようと、

大きく息を吐く。

彼女を想像しただけで・・・・勃起するなど!!

精通したばかりのガキでもない・・・33歳の大人の俺が!!

三十三年間・・・感じたことなどなかった欲望が・・・『純粋な好き』、『恋』のような綺麗なものではなく、『嫉妬』『粘着質』『執着心』を含んだ禍々しい欲望が、心に巣食う感覚。

俺をこんな男にするのが、ミサキだと思えば悪い気はしない。

ただ、俺にこの禍々しい欲望を教えた彼女には責任をとってもらおう・・・

君の隣にいるのは俺でありたい!

俺を選んでくれ!

俺に君のすべてをくれ!

君が俺を選んだその時は・・・・俺は君を決して離しはしない。


いくらミサキが俺に「私は団長が好きです」(何度も脳内で繰り返している)

彼女が俺のことを、とはいっても、俺はまだ気持ちを伝えていない。

それなのに、あんなことをしては、初心な彼女が困惑することなど分かりきっていたのに。

真っ赤な顔をして恥じらう彼女が・・・可愛すぎて困った。

彼女を『俺なしでは生きていけないほどデロデロに甘やかしたい』俺と、

『彼女のもっと困った姿を見たい』・・・そう思っている俺がいる。

幸運にも彼女の思いを知ることが出来た。

ならば、次は俺の番だ!

俺の気持ちをきちんと伝えよう。

その上で彼女が選んでくれたなら、彼女は誰にも渡さない。

彼女が俺以外の誰かを愛すなど許さない。

俺以外の他者が彼女に心を奪われた時は・・・・

彼女を愛するのは俺だけでいい。


でも・・・先ずは俺の気持ちを彼女に伝える!!



俺は普段よりはやめに職場に向かい、執務室で彼女を待つ。

執務室の扉を開け、俺をみたミサキは顔を真っ赤にして、

オロオロしながらも

「お、おは、おはようございます」

動揺が隠せていない挨拶をした。

そんな挙動不審で・・・・小動物のような・・・

その彼女の反応が可愛らしく、俺の嗜虐心(しぎゃくしん)を煽っていることに気がついているのだろうか。

彼女は、十中八九(じゅうちゅうはっく)気がついていないだろう。

俺は手で口元を押さえ、彼女に隠れて笑う。

そんな俺をルーカスが見て・・・色々と察したようで、呆れにも非難にもみえる目で俺を見ているのに気がついたが無視した。

ルーカスにどう思われようと構わない!(いまさらだ!)

それよりも、俺の気持ちを『いつ』・『どこで』伝えるべきか。

今すぐにでも、ミサキを抱きしめ言いたいところではあるが、この部屋にはルーカスがいる。

俺は人前であっても構わない(むしろ牽制できていい)が、初心な彼女は困ってしまうだろう。彼女が恥ずかしがる困った顔を見たくはあるが・・・・嫌われたくはない。まして、彼女が恥ずかさのあまり俺を拒否などしたら・・・・死んでも死にきれない!やはり、俺が気持ちを伝えるのは二人っきりの時が最良に思える。何よりも、彼女の恥じらいながらも艶っぽい・・・可愛らしい顔を誰にも・・・絶対に見せたくない。

「あの、書類を医務室に届けてきます」

パタパタとミサキが部屋をでて行く。

「おい、レオナルド」ルーカスに呼ばれる。

「なんだ」

「ミサキの様子がおかしいが・・・何かあったのか?」

「何が知りたい」

(おい、いつから『ミサキ』呼びなんだと問い詰めるのを我慢する)

「ミサキを見た時のお前の顔!あからさますぎるだろ!それに、お前の機嫌が良すぎる」

・・・・・ルーカス・・・お前、よく見ているな。

騎士になった当初から、一緒にいるルーカスは、部下ではあるが遠慮することのない友でもある。

「やっと付き合い始めたのか?」

「お前、知ってたのか?」

「当たり前だ。二人とも態度があからさますぎだったからな」

「そうか。・・・・ミサキから『好きだ』と言われた」

『好き』を言いながら、顔が赤くなってしまった俺を、ルーカスは気持ち悪いものをみてしまったような嫌な顔をする。

「レオナルド・・・・ミサキに先を越されたのか・・・・。マジか、情けない!」

「なるべく早めにお前の気持ちを伝えたほうがいいぞ。雰囲気も大事にしろよ!」

蔑むような目をしながらもルーカスはアドバイスをくれた。

「わかった」

普段モテまくっているルーカスを知っている俺は、彼の言う通りにすることにした。


「もっ・・、ただいま、戻りました」

挙動不審を今も引きずっているミサキが戻ってきた。

「お茶いれますね」

いつもは俺を見ていうはずの言葉をルーカスに向けて言っている彼女。

その頬が少し赤くなっているのは、気のせいではないだろう。

本当に可愛らしい・・・・可愛らしい顔をルーカスに向けているのが、いただけないが・・・・些細なことにも嫉妬してしまう俺。

彼女が入れてくれたお茶を飲む。

彼女が・・・俺を好きだと言ってくれた彼女が入れたお茶だと思うと、お茶の味までもが特別に感じる。

俺の机に置かれたカップに彼女が手をかけた瞬間を狙って、俺は彼女の小さな柔らかい手を握った・・・優しく。

「えっ・・・・へっ?!・・・あっ・・・・」

俺に手を握られた彼女は瞬時に顔を真っ赤にし、まごまごして慌てる彼女を見て、俺は微笑む・・・・困った彼女は可愛らしい。

彼女の柔かな手を握ったまま、俺は親指でしっとりとしながらもすべすべした彼女の手の甲・・・指の間・・そして指先を味わう・・・もちろん俺の視線は彼女の顔をとらえたまま。

ほてった顔を隠しながら去って行く彼女・・・後ろ姿からは赤く染まった顔を見ることはできないが、彼女の真っ赤になった耳はハッキリと見えた。

そんな俺を・・・呆れ果てた目で見ているルーカスと目があった。

ルーカスが『や・め・ろ』と口で訴えてくるが、無視した。

俺の気持ちを彼女に伝えたい・・・なるべくはやく・・・・



どうしよう・・・・

朝から私は挙動不審だ。

自分でもそんなことはよくわかっている!

だが・・・・・

先日の自分のしでかし(告白)を思えば、

挙動不審にもなるだろう。

ああ〜、なんで!!

告白するにも・・・もっといい感じでしたかった。

あんな、流れで・・・それも・・・・

追い詰められた犯人が白状するような形ではなく・・・

ああ〜〜〜〜〜っ!!

どうすればいいのか・・・・考えがまとまらなくとも時間は過ぎる。

そして、覚悟して職場の扉を開ける。

開けたとたん、団長と視線が合う・・・途端に私の顔が真っ赤になったのが分かる。

恥ずかし過ぎる〜〜〜!!

「お、おは、おはようございます」

怪しすぎる挨拶をしてしまった・・・私。


この職場は今日はマズイ!

そう思って、たいして急ぎでもない書類を手に医務室に急ぐ。

医務室にはナナがいるはず・・・ナナならアドバイスをくれるはず!

・・・・・だが、無情にもナナはいなかった。

書類を医務室のナナの机に置いて・・・・団長の元(執務室)に戻る。



どうしよう!

団長が壊れた!

なんか、団長からピンク色のフェロモンが撒き散らされている!

助けを求めるべくルーカスさんを見る。

団長のダダ漏れになったピンク色のフェロモンの存在に全く動じていない。

通常運転のルーカス副団長。

私も見習おう・・・・でも・・・でも・・・・・

いかんせん、甘い。団長が〜甘すぎる!!

先日のマルクさん酔っ払い事件の時に、寮まで送ってくれた・・・・別れ際の団長もフェロモン出しまくりで色っぽかったけども・・・・今の団長はそれ以上に・・・・恐ろしすぎる甘さを放っている。

仕事は(多分)いつも一緒だと思う・・・

でも、なんか団長がジーッと私を見ている・・・視線を感じるし・・・・その視線が途切れない!その上、なんか私に向ける表情が・・・・声が・・・・甘すぎる!

極め付けは、飲み終わったカップを手にした私の手を握った団長の手が・・手が・・・・団長の親指が・・・少しざらざらした団長の親指が・・・・!!

私の手の甲を撫で・・・・指の間を揉むように撫で・・・・最後に指先をスリスリするように触ったのだ!!エロすぎる!!

ここは、職場で・・・ルーカス副団長もいるのに・・・

ルーカス副団長にも見られただろう・・・・ああっ!!

痛たまれない!

恥ずかしすぎる!!

団長に触られるのが嫌なわけじゃない!

だが、ここは職場だ・・・人の目(ルーカス副団長)があるのだ!

団長が甘すぎて・・・・エロすぎて!!

嫌じゃないけど・・・恥ずかしい!

でも、喜んでいる・・・『嬉しい』と思っている私がいる。

そして、なんとか仕事が終わり3人で職場を後にした。

ルーカス副団長と別れて・・・団長と私の二人になった。

そして、団長から食事に誘われた。

それも今夜。

驚いたが、頷いてしまった私。

今日の団長を前にして『否』は言えない。

なにがなんだか分からないまま、寮に帰った。

そして、今・・・・

ちゃんとした・・・・可愛い下着も装着・・・

いや・・・別にそんな期待はしていない。

だが・・・もしも・・・ということもある。

そして、今日の団長に対抗するために・・・・

そうです・・・勝負下着!!

ドキドキ・・・ドキドキ・・・・

私の心臓が早鐘を打ち続けている!

私の心臓・・・興奮しすぎて止まったり・・・(不安である)

目の前には、団長がいる・・・・

団長は私に『好き』を返してくれるだろうか・・・・

団長の私に向けられる優しい視線・・・・気遣い・・・

そして、今日の職場の団長から放たれた甘すぎる空気を思い出す。

団長も私のことを・・・・・・と期待している・・・期待してしまう。

でも・・・・もしも、違ったら・・・・どうしよう・・・

不安もある・・・・

そして、今、私は団長と・・・・団長の隣を歩いている。

ドキドキ・・・・ドキドキ・・・

期待と不安を抱えながら・・・・。

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