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「……え、私?」
一瞬、何を言われたのか分からずにきょとんと目を瞬きさせた。
「知識もあるし、資格だっけ?検定も受かったんだろ?」
やはり聞き間違いじゃなく、私を指名してくれたらしい。
「そ、それは知識の話で、実践となると話は別です」
「なにより、商品のことを一番理解している」
奏叶さんの声が琴線に触れる。
認められたわけじゃない。
「(だめだ……)」
リスクヘッジの選択を迫られているのに、なんだか泣きそうになる。任せて貰えたことではなく、私のことを理解してくれる人がいる、たったそれだけの幸福。
「それがいいよ。あやみならできるよ!」
彩葉も賛成する。うん。いまは悩む時間がもったいない。
「……やってみる……!」
見逃し三振よりも、空振り三振だ。
ゆりあさんに事情を説明して、納得していただいた上で私がメイクをすることを許してもらえた。新作のことは全部頭に入ってる。モデルさんが化粧で生まれ変わるその瞬間を何度も間近で見た。うん。問題ない。
「……失礼します。このベース、かなり肌なじみがいいので少量でするする伸びるんですよ。発光しているようなパール混なので、普段使いから夜のデートにオススメです」
説明をしながらラベンダーカラーのベースを肌に馴染ませ、リキッドファンデーションをブラシに取る。ゆりあさんのきめ細やかな肌が陶器のようにつるんとなめらかになって、きらきらと輝いた。
「このベース、めっちゃ良いですね」
「でしょう!光を味方にするベースです。このファンデもオススメですよ。ダントツで肌が全然疲れないってモニターさんからも沢山ご意見が届いてました」
「わあ、それすごく嬉しい」
「ですよね。色ムラもなくてカバー力もあるし、元々Queensさんの名品ファンデの光を操るテクノロジーを搭載しつつ、弊社の化学力を結集させた美容成分たっぷりな、いいとこどりのハイブリッドファンデです」
「やばいですね、私、クラゲみたいに発光できそう」
「クラゲですか?もうちょっと高級なものになりましょうよ」
「高級?たとえば?」
「…………ホタルイカとか」
「ホタルイカって高級かなあ?」
二人で笑いあってしまい「ゆりあさん、笑うのやめてください」と言えば「笑わせないでください」と叱られ、なんとか完成させた。
「結城さん、隠してましたね」
「え、なにがですか?」
「元々BAで働いてたでしょ」
「違いますよ。本社勤務の素人です」
「本当に〜?」
「本当です。友人の結婚式の時に、メイク選びはお手伝いさせてもらった程度です」
「え、ゆりあの時もお願いしたい〜」
プロ仕上がりとは天と地の差だけど、あとは、カメラマンの方に任せて私の仕事は終わりだ。
すべて終わると、今更手指が震えた。
「おつかれ」
そんな私に、見ていたのだろう奏叶さんが声をかけてくれた。
「楽しそうだったな」
「そうでしょうか。……そうかもです」
やっぱりメイクは偉大だ。頬は夕陽の最後の輝きならば、唇は夜明けの最初の光。 なにかに挑む時も、気持ちが沈んだ時も、頑張る時も、毎朝私の隣にはメイク道具があって、今日も頑張ろうって私を応援してくれる。
一度目の撮影が終了した頃、真実さんが当初のメイクさんを連れて来てくれた。
「(良かった……!)」
しかし、これで一件落着と思いきや、波乱はもう少し続いた。
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