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「うわ、パケ可愛い!色もめっちゃ可愛いですね!?」
本日はプレリリースに合わせて発信する告知用の撮影だ。
撮影時間まで、雑談を交えて軽く打ち合わせを行う。
「もう、ほんっとうに力作なんです。ゆりあさんに絶対似合いますよ」
ゆりあさんは私が尊敬する旬のモデルさんで、何度もやり取りをして漸く口説き落とせた。
「シャドウも可愛いけど、リップやばいです。ヌーディピンク、絶対バズる」
「でしょ〜!研究室の職員も絶賛してました。肌なじみのいい色味と、高濃度の美容成分が入っているから、まさに塗る美容液!ご褒美メイクをコンセプトにしているんですけど、このご褒美って言うのはご自分のお肌に向けたご褒美でもあるんです。だからギフトのようなパケですし、このラインは全て、化粧をしながら肌に潤いを与えるんですよ。一石二鳥じゃないですか?」
商品語りを始めると「熱量」と奏叶さんに言われてぱくんと言葉を飲み込み、両手で口を押えた。
「す、すみません……!」
奏叶さんのほかに研修の名目でQueensの広報の方も同席されている。もちろん美人だ。美人たちに囲まれた小心者は我に返ると真っ赤になる。
「大丈夫ですよ結城さんが話しやすい人でよかった。たまに素っ気ない人いるもん」
「恐縮です」
「親しみやすいですよね、彼女」
ゆりあさんの言葉に奏叶さんが同調するから、私の心に存在する満足ゲージがみるみるうちに満たされる。
「マスコットというかペットみたいですよね」
奏叶さんの言葉により、満足度を溜め込んだグラスがぱりんと音を立てる。
「はい??????」
「よしよし」
本当に頭をペットみたいに撫でられ、口を尖らせた。
なるほど、奏叶さんはこうやって女性を喜ばせているのね?
「倉木さん、勘違いさせやすい性格なんで、気をつけてくださいね?」
「そのようですね……ありがとうございます」
Queensの方にもご忠告を受け、奏叶さんの誉め言葉は危険、と脳内に説明書を付け足し、時計を見遣る。
それより、メイクアップアーティストさん、遅いなあ……。
もう10分前なんだけど……。
「ねえ、浅野さん遅くない?最終チェックして、連絡は内尾さんにお願いしなかった?」
同席していた内尾さんと真実さんの二人に尋ねた。この企画は奏叶さんのアドバイスももらい同期に少し手伝ってもらった企画でもあるのだ。
「え?私、松田にお願いしてたんだけど」
内尾さんは彩葉の名を挙げる。一瞬で胸がザワついた。
「ちょっと聞いてみる」
オフィスにいるはずの彩葉に電話をつなげる。
「おつかれ〜!どうしたの?」
「ごめんね、ちょっと確認なんだけど、メイクの浅野さんに連絡って今日でお願いしたよね」
「……え?内尾がしてくれるって話しだったけど」
嫌な予感、的中だ。
「何かあった?」
「ううん、大丈夫。」
いや、全然大丈夫じゃない。
全然大丈夫じゃないけれど、指示慣れしていない私の責任だ。
直ぐにメイクさんに連絡した。朝の時間なので電話は繋がらず、メールにした。
「結城、浅野さんに連絡は?」
先ほどの会話で何かを察したらしい真実さんがこっそり耳打ちするので「とれない……」と肩を落とした。先方、モデル、カメラマン、スタッフ。大勢の貴重な時間をいただいているのに、何をしているんだ、私は……。
「浅野さんの事務所、ここで間違いない?」
「うん、間違いないよ」
「私、事務所に直接行って謝罪してくるから、結城はここをお願い」
「真実さん、ありがとう……!」
本来私が行くべきなのに、私を残してくれた真実さんを信じて状況を説明した。
「すみません、もう少し待っていただけますか?」
トラブルの全容は明かさずにいると「もう少しって、スタジオを借りれる時間も決まってるんじゃないの?」と、内尾さんの指摘に頭を抱えた。そうだ、時間……!
「それに私、午後から別の仕事も入ってるんだよね」
「お忙しいのに、申し訳ありません。なるべくすぐに対処しますので」
モデルのゆりあさんに謝罪していると、腕を引かれた。奏叶さんだった。
「どうした」
「いえ……私のミスで、メイクさんへの連絡が出来ていなかったみたいで」
「きみの?あんなに入念に準備していたのにミスはないだろ」
奏叶さんは呆れたようにため息を漏らした。まるでそれは私の嘘を見抜いているようだった。
「人に甘え下手が人に頼ると、だめですね」
前髪を触り、迫られた対応を考える。最悪の場合今日はリスケ。積み上げられた信頼が崩れても、今この場にいる何名もの人間の、貴重な時間をぼんやり通過させるのも酷だ。
しばらくすると「お疲れ様です~!」と、スタジオにやってきたのは彩葉だった。
「ごめん、ちゃんと確認するべきだった。大丈夫そう?」
「ううん、ほかの業務があるのに任せてごめんね」
「お互い様だよ。残業してたらあやみはすぐに手伝ってくれるじゃん~……」
会社と近い場所にあるとはいえ、心配してきてくれたのだという。
「……なるほど」
奏叶さんはひとり頷くと、
「だったら、結城さんがメイク、してみたら?」
……なぜか私を指名する。
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