復讐の果てに、君がいる~愛する彼女を殺したクズども、覚悟しなさい!必ずあなたたちを地獄に叩き落とすから……って、あれ? なんで女の私にヒロインと女悪魔が迫ってくるの!?~
蒼井星空
第1話 非業な死から始まる物語
「あぁあぁ、酷で~なぁ、これは……」
上司が転がっている死体を見て呟いた無神経な言葉が私の胸に刺さる。殴り飛ばしたい……。
しかしそんな気持ちを全力で抑える。なぜなら私はダンジョンを管理するギルドの職員であり、この場には亡くなった探索者の調査に訪れただけなのだから。
目の前の探索者と面識があることには気付かれていないのだから。
でも、悲しい……。どうしてこんなことに?
足が何かに絡まったように不自然に曲がり、さらに正面から大きく斬り裂かれた衝撃的な状態の死体を直視できず、込み上げてくる吐き気を我慢できない。
「どうしたんだ、篠宮? ダンジョンで死体を見るのがはじめてってわけじゃないだろう? 冷徹女なお前がそんなに取り乱すなんて……」
上司が私の方を振り返り、顔を覗きこんでくる。見ないで……。そしてそれはただの誹謗中傷よ。
「って、お前……。今日はもう帰れ。あとはやっとくから」
いつもなら体調が悪くても、時間が遅くなっても、仕事が終わるまでが仕事だとか言って返してくれないのに、こんな時だけなんで?
「いえ。問題ありません。仕事はきっちりやります」
「しかし……」
「お願いします」
ここを訪れた直後にすぅっと涙を落した私の様子を見て、普段は鈍くて横柄で無神経な上司は何かに気付いてしまったようだ。
それで私を気遣ってくれた。でも、申し訳ないが、断った。
そんな優しさはこの前、私が誕生日の時にでも発揮してくれれば良かったと思う。
さらにその昔、デートの約束があったのに、ダンジョンで発生したしょうもない事故の報告を書くために徹夜させられたのは、今でも恨んでる。
その後、淡々と死体を専用のシートで包んで……冷たい体を処理した。それからなんとか立ち上がり、周辺の状況を記録して調査を終える。
涙は止まらないし、震えも頭痛も吐き気も止まらない。心を刺すような鈍い痛みも。私の中で何かが崩れていく。
どうやってギルドに帰還したのかも覚えていない。
遺体はたぶん彼女の親族に連絡して話しをしてくれる専門の係りの人に預けた。
調査報告書は書いて上司に提出したし、事務所の後片付けもして、何なら普段やらない掃除までして退出した。
もう夜遅い時間になっていた。
□ダンジョン管理ギルド東京支部特別調査課長 木村浩平
その日、一通のダンジョン内での死亡事故の報告書があげられた。
***
日付 : 2027年10月10日 19時頃
死亡者: 花城柚羽(はなしろ ゆずは)
場所 : 武蔵のダンジョン 下層 ボス部屋手前
原因 : 野良の高位モンスター(推定:悪魔族)の襲撃によるもの
証言 :
□パーティーリーダー
•パーティーで遭遇したが逃げ遅れた
•メンバーを守るために犠牲になってくれたことに謝罪していた
***
他にも形式ばった文言が並んでいる。全く見たくもない悲しい報告だが、受け取らないわけにはいかない。
普段はしっかりしている部下が泣きながら、心ここにあらずな状態で仕上げた一枚だ。
明らかに知人ないし友人だと思われるが、本人は気丈に振る舞い、仕事をしていた。
「課長、時間あるか?」
「なんだ?」
かけられた声にふと顔を上げると、目の前には今回の件でパーティーリーダーの証言を取った大柄な部下が立っていた。
報告書は篠宮が書いていったが、そこに付した証言は彼が取ったものだ。
「萩野の証言……あれは嘘だぜ?」
こいつはもと探索者だ。若い頃から腕っぷしに任せて活動してきたため、言葉遣いは荒い。
一方で、探索者から話を聞きだすのが得意。懐に入るのが上手い。だから片足を失った後、ギルドの仕事をしているわけだ。
「それで?」
仮に嘘だとしてももう処理済みだ。今回の件はダンジョンの中で起きた悲しい事件としてただ処理されていく。今さら覆らない。なのになんでこんなことをわざわざあげて来た?
「荻野に絡む死亡事件はこれで6件目だ。課長も、さすがに多いと思うだろ?」
「だが、証拠はない。いずれもダンジョンの中だ」
この事実は動かせない。それに悪魔の関与だ。あいつらに戦闘力はやばいし、不思議な術を使う。どんなに不可能に思えることもあいつらならあり得る。
そして人とは相容れない。
「今回の件も、配信の最期で悪魔と思われるモンスターが出現し、咄嗟に逃げ出すところで映像は途切れている。いくら荻野でも悪魔を呼んだなんて言わないだろ?」
今回死んだ花城は、若手では有望とされる探索者だ。既にBランク。このまま行けば20代のうちにAランクを狙えるはずだった。死ななければ。
「証拠がない? ダンジョンの監視システムの記録は今回も何も写ってないのか?」
「アクセス不可だ……」
「くそがっ!」
通常そんなことはあり得ない。事件があったら記録を見る。当たり前だ。なのにアクセスできないなんて、探るなと言っているようなものだ……。今が誰もいない時間で良かった。
「荻野が花城に交際を迫っていたという話があった」
「それを断ったから悪魔の餌にされた? さすがに妄想が過ぎるのでは?」
「餌じゃないかもしれないが、囮ならあり得る。なにせあいつのパーティーは……」
「やめておこう、玄さん」
普段は直情的な玄さん……権田玄太だが、決して地頭が悪いわけではない。むしろいい方だ。だからこそ長年探索者をやってこれたし、引退後にここで働けている。
そんな玄さんが噂話を持ち出して何かを言おうとするなんて珍しい。でも、ダメだ。仮にそれ以上踏み込もうと思っても俺達には権限も時間もない。
「ご苦労様だった、玄さん。今日は上がってくれ」
だから俺は玄さんを労って今日の仕事を終わらせようとした。しかし……
「篠宮の涙はさすがに堪える。あいつ、もしかして花城と……」
「友人だったのかもしれませんね。仕事はしていたから知人かも。でも、この話はここまでです」
「木村……」
俺は報告書を決められた宛先に送信して、ギルドの事務所を後にした。
□篠宮燈
「どうしてこんなことに……」
震える体にあの子の匂いが付いた毛布を掛け、真っ暗な部屋の中で1人呟く。
あの子があんな場所でただの悪魔に襲われたというの?
あの植物だらけのダンジョンで?
なぜあんなところに悪魔が現れたの?
絶対に何かある……。
あの子のあの奥歯を噛みしめたような表情……。
苦しかったね。辛かったね。怖かったね。切なかったね。
なぜ足があんな風に曲がっていたの?
なぜ回復メインの魔法使いのあの子が正面から斬られていたの?
なぜあの子のパーティーリーダーは仲間を考慮することもなく逃げたの?
なぜ?
なぜ?
なぜ?
許さない……絶対に……。
絶対に何かある……。
奪われたものは、すべて取り戻す。どんな手を使ってでも。
奪ったやつらは……ねぇ……地獄に落ちる準備はできてるよね?
***
お読みいただきありがとうございます。
新作です。
本日中にもう一話投稿し、明日以降毎日1話投稿します。
よろしくお願いします(*ᴗ ᴗ)⁾⁾ペコリ
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