第12話 意識しはじめた『幸せ』

父様たちに私が作ったクッキーを『美味しい』と褒めてもらい、お菓子を作る!

その上、お菓子を作る場所や材料、販売の糸口まで・・・・

フフッ・・・・自然に頬が緩み笑い声が漏れ出す!

そんな私を訝しげな表情で見つめるマナ。

「お嬢様、お菓子作りの件は・・・・もう、私には分かりませんので置いておくとして・・・・お嬢様には婚約者のジューク様がいらっしゃることをお忘れになりませんように・・・」

??????

はっ???(マナの言っている意味が分からない???)

マナの言っている意味が全く理解できず固まっている私。

「お嬢様、聞いてらっしゃいますか?お嬢様の婚約者のジューク様は狼獣人なのですからね!揉め事になる事だけは避けてくださいよ〜」

ヤレヤレ・・お手上げです!!と言った感じのマナであるが・・・・

????マナの言っている意味が本当に分からない。

「マナ・・・それってどういう意味???私のお菓子作りと婚約者のジューク様って何か関係があるの?」

マナに真剣に問いかける。

「意味が分からないって???本気で言ってます?!」

マナは口をあんぐりと開けて、本当に驚いている様子だ。

こんなマナの驚き顔を前にすると・・・なんだか、自分が分からないのがおかしいような気がしてくる。まあ、マナからしたらまさにその通りなのだろうが・・・。

・・・・・マナはしばらく何か考えていたが、騎士団のエントランスに向かって歩いていた足をピタッととめ、辺りをキョロキョロ見回し歩き始める。

何がなんだかよく分からないが、私はマナの後ろをついて行く。

少し歩くと廊下の端に二人がけのベンチがあった。

マナはそのベンチを指し、「ここでお話ししましょう」と言いながら

私にそのベンチに座るように促す。

私はマナに促されるままマナの座る場所をあけてベンチに腰かける。

「マナもここに座って」隣を手のひらで触りながらマナに声をかける。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

マナと私がベンチに隣同士で座ってからしばらく経つが沈黙が続いている。

この沈黙が・・・いたたまれない。

私は意を決して、「マ、マナ、さっきの話だけど、お菓子作りと婚約者のジューク様って何か関係あるの??本当に分からないの・・・・。だから、教えて欲しい。お願い!」

そんな私にマナは仕方ありませんね〜といった表情を隠しもせず、ヤレヤレ感満載の顔でゆっくりと頷きながら説明をしてくれる。

「お嬢様の婚約者のジューク様は狼獣人です。覚えてますよね!」

「はい!そこは大丈夫!!」首を大きく縦に振る。

「狼族と竜族は獣族の中でも執着心が特に強いことで有名なのです。ですから、お菓子作りのことをお嬢様ではなく他の方から聞いてしまうと・・・・お菓子作りが中止になりかねませんよ!!」

はあっ???(そんなことないだろう!!)

私の表情を見たマナはさらに言葉を続ける。

「それに、いくらガルリオ様がお嬢様の父様であってもクッキーを口元に運んでの『あ〜ん!』は絶対にNGです!!あれは、恋人にだけに許される恋人特権です!!ですから、絶対にジューク様に知られてはいけません!!」

マナの話を聞ききながら????を浮かべる私の脳みそであったが、真面目な侍女のマナがこれほど真剣に話す内容に間違いはないだろう・・・でも、この話を聞いて・・・私はどうすれば????分からない・・・だから、

「マナ、私どうすればいいと思う?」

マナに丸投げすることにした(卑怯者とは呼ばないで〜)

マナに任せるのが一番いいのだ!!

『マナ様よろしくお願いします』そんな気持ちを込めて、

私はマナを見つめる。

・・・・「お嬢様、私に丸投げしようと思ってますよね!?」

バレてるって思ったが、私はブンブンと首を横に振り否定する。

そんな私をマナは呆れた目でみていたが、そこは長い付き合いの私とマナだ。

「ほんと、仕方ありませんね〜」っと言いながら、

「まずはガルリオ様と一緒に帰宅してから考えましょう。もう、夕方ですし・・・私とお嬢様だけで帰るのはダメですから・・・・」

マナの言葉で私は外を見る。

まだ明るいが、そろそろ夕方に近い時間にないつつあるようだ。

「うん。マナ、いつもありがとう。一緒に父様の部屋に行こう」

二人一緒にベンチから立ち上がったためか、ベンチがガチョッと変な軋んだ音を立てる。

それがなんとなくおかしくて、二人ともフフッと同時に笑い声が漏れる。



私たちは、お菓子について話をしながら、先ほどの父様の執務室を目指して歩いた。


たどり着いた先ほどの父様の執務室、

扉をノックしようと思った矢先、

扉越しに・・・、妙な声?が聞こえてくる。

えっっ・・えっぐっっ・・・

ギッシュッ・・ギッシュッ・・(床が軋む音?)

わかるっす!!


泣き声???嗚咽??

返事?

執務室から漏れ聞こえてくる。

私とマナはこの不気味な声に顔を見合わせる。

そして、二人でうなづきあい、おそるおそる扉を叩き、そっと扉を開く。


コンコン・・ガチャ・・・

テロン副団長が鼻水と涙?で顔をぐしゃぐしゃにした二人の筋肉ゴリゴリの大男に抱きつかれていた!!

私は咄嗟に父様に助けを求めて叫んでいた。

「父さ・・・・、きゃ〜〜〜〜〜〜っっ・・・!!!!」

私の叫び声に驚きつつもマナが部屋を覗き込む。

そして、もちろん

「ギュッ〜ワィぉっワっっっっっっっっっっっぁ〜〜〜!!!」

絶叫の嵐だ!!

私たちの声に驚いたのか、テロン副団長に抱きついていた筋肉男たちがこちらを向く。

そして、彼らは立ち上がりこちらに向かってくる。

『『いや〜〜〜〜』』

私もマナも声にならない悲鳴とともに思わず後ずさった。

そんな私たちに容赦なく大男たちが詰め寄ってくる。

「「助けて〜〜〜!!」」

もう無理〜〜!!

と思った時、

「止まれ!!!ガルリオ、ドロン」

救世主は現れた!!

「リリーナ嬢たちが怯えている」

そしてテロン副団長はすぐに私たちのもとに駆け寄り、背に庇ってくれた。

ああ〜〜神〜〜〜!!

私もマナもひっつき虫のごとくテロン副団長に引っ付いた。

・・・・・・くっ・・・グズッ・・・・

なんだか泣き声のような声を出しながら、大男たちは部屋の奥に移動したようだ。

ホッとした私たちは、テロン副団長に

「「助けてくれてありがとうごいざました」」

二人揃って感謝を伝えた。

そんな私たちにテロン副団長は、言いづらそうにしながらも

「リリーナ嬢たちが怖かったことは十分わかるのですが・・・・あの大男たちは・・・お二人に危害など加えることは絶対にないことだけは分かっていただきたい」

んっ??

私とマナは????

二人で顔を見合わせる。

そんな私たちにテロン副団長は・・・ますます言いづらそうにしながら・・・・

部屋の奥の大男たちを若干遠い目で見ながら・・・

「彼らはガルリオ様とドロン副団長ですから・・・・・」

呟くように話された。

私とマナは『『いやいや・・・そんなはずは・・・』』

半信半疑で彼らに視線を移す・・・・

『『ああ〜〜〜〜っ、父様とドロン副団長の姿が・・・・』』

涙と鼻水を擦ったためか、顔を真っ赤に腫らした二人の姿があった。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

ものすごく気まずい。

この気まずさをなんとかしたいとマナに協力を求めるべく後ろを振り返る。

あれっ・・・?

マナがいない。

キョロキョロ周りをみていると、執務室の扉からススッと現れたマナ。

彼女は布巾(ふきん)を握っている。

私に寄り添うようにそっと近づいてきたマナは、

「お嬢様、冷たい布巾を持ってきました。これでガルリオ様の顔を冷やして差し上げればよろしいかと思います」

柔らかな口調で話ながら、私に布巾を持たせる。

(さすが出来る侍女マナである!)

私はマナの行動に絶賛しつつ、ためらいながら父様のもとに近づく。

「父様、お顔にこの布巾をあててもいいですか?」

父様は私の言葉に静かに顔をあげたが、私と目があったとたんに顔を伏せてしまった。

いつもの父様の威厳に満ちた姿は全くない。

そんないつもとは全然違う父様だったけど、父様の赤く染まった両耳をみつけて、今までよりずっと大好きになった。だって、父様が怒ったり悲しんだりする時は、いつだって大事にする人たちのためだって知っているから・・・・。そして、今・・・父様が顔が崩れるほどに感情を乱した原因が、多分私が関係していると思ったから。

『ありがとう父様。大好き!!』

私は、心の中で感謝と最大の大好きを唱える。

「父様、これをお顔にあててくださいな。私が魔法をかけた布巾よ」

もちろん、魔力のない私には魔法をかけることなど出来ないが、ちょっとだけちゃめっけを出して言ってみた。そのほうが、父様が受け取りやすいと思ったから。

「・・・・リリーナ、ありがとう」

顔を伏せたままの父様が、私に手を差し出した。

私が父様に布巾を渡すと父様は布巾に顔を押し当てた。

「ああ、ひんやりしていい気持ちだ。ありがとう。リリーナ」

そして、父様は布巾に顔を押し付けながら

『〜・・〜』小さく呟いた。

あっ!!

布巾から顔をあげ、こちらを振り向いた父様の顔は泣き崩れた真っ赤な顔がうそだったようにいつもの顔に戻っていた。

ああ、さっき父様が『〜・・〜』って呟いていたから・・・・納得(うんうん)

そうだった。この世界ではみんな大なり小なり魔力を持って生まれてくるんだった。

私には、魔力なんてないに等しいけど・・・・だから、捨てられたんだよね・・・きっと・・・・

ぼんやりとだが、嫌な日々が・・・あったような気がする・・・・なんだったっけ・・・・

あ〜ダメダメ、こんなことで暗くなったりしたら・・・

私は、頭の中の嫌なことを振り払いたくてフルフルと頭を左右に振る。

「リリーナ、どうした?」

私の様子を怪訝に感じたのか、父様は膝立ちになり私の顔を覗き込んでくる。

「・・あっ・・えっと、なんでもない」

そんな私の反応に父様の眉間に皺がよる。

父様が私を心配してくれているのが痛いほど分かって・・・・

申し訳ないって思いながらも、心配してくれるのがすごく嬉しいって思ってしまう・・・。

私は、ちゃんと知っている。

私が、大好きな父様や母様の本当の子供ではないということを。

それなのに、私を大切な家族として認めてくれる・・・私の居場所を作ってくれる・・・そんな、父様や母様、そして、私を受け入れてくれる人たちが大好きだ。

だから、私に出来ることはなんでもしたい。

きっかけは、『甘いお菓子が食べたい』気持ちからだった。

でも、途中から私の頭の中の知識を使うことで私にも出来ることがあるではないかと思い始めた。(思い始めるというよりも、何かに導かれるように思い描いた・・・っていうのが正しいかもしれない)

私の知識によって作られる『甘いお菓子』でみんなの笑顔をみること出来るかもしれない!

これは、大なり小なり魔力を持って生まれるはずの世界で、

魔力を持たずに生まれた私の挑戦だ!

魔力がなくても、大好きな人たちを笑顔に出来るって証明してみせる!

私は手をぐっと握りしめる。

力いっぱい握りしめた私の拳をそっと父様の大きな手が包み込む。

顔をあげると父様と視線がぶつかる。

父様の切れ長の深い緑色の瞳が優しく私を見つめている。

いつも私を見守ってくれている優しい瞳。

この優しさは、私に勇気と元気・・・そして居場所をくれる。

それと同時に時々・・・

『ここでは、ひとりぼっちじゃない・・・・』

『がんばれ・・・・』

私の頭の中で浮かぶ不思議な呟き・・・・。

「リリーナ、帰ろうか」

父様は私を抱き上げる。

私は、急に目線が高くなりびっくりして、父様の逞しい太い首にしがみつく。

それをみて、テロン副団長とドロン副団長はニコニコと微笑みながら、父様に抱き上げられた私の頭をかわるがわるなでてくれる。

なんだか、嬉しくて

「テロン様、ドロン様。私、またここにきてもいいですか?」

仕事場だからダメだと言われると思ったけど一応聞いてみた。

「「もちろん!!」」

驚くことに即答でのOKをいただきました。

嬉しくて、父様の足元に控えるマナに向かって笑顔光線発動!!

もちろん、マナはウンウン頷きながらニコニコ笑顔で私を見ている。

私の心?頭の中?が、ぽかぽか・・・あたたかくって、ちょっと気恥ずかしくって、ふわふわっと身体がはずんだ感じ!

私は、父様の職場訪問&お茶会プレゼンを果たした達成感とこれからお菓子作りのワクワク感で大興奮状態!!なのだと思った。

そんな私に「お嬢様、幸せですね」マナが微笑みながら言った。

マナが言った『幸せ』

・・・・・・・

この感情が・・・・この気持ちが『幸せ』

・・・・・・このドキドキ、ワクワクする・・・・

たくさんの嬉しいが詰まった感じ・・・・これが??

・・・・・フッ・・・フッフッッ。

そっか・・・・・。

私、『幸せ』がちょっとだけ・・・わかった気がする。

私が初めて意識した『幸せ』という感情・・・・。

急に呟き笑いを始めた私に皆の視線が集中する。

「「リリーナ嬢、大丈夫ですか?(大丈夫か?)」

テロン副団長とドロン副団長が私の顔を覗きこんでくる。

私はすんごく恥ずかしくなって、父様の首に抱きついている腕に力を込める。

そんな私の背中を父様の手が『大丈夫、大丈夫』というかのように

ポンポンとあやすように優しく叩く。


父様に抱き抱えられた私は、

ちょっとだけわかり始めた

『幸せ』に包まれ、父様とともに帰路についた。

そんな私は、皆が優しい瞳で見守っていた・・・・ことに気がつかなかった。

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