第一号は俺に決まりで良いかな

「それからは、気が付いたら誰とも関わらないようになってましたね。いつからは俺にも分かりません」


 もちろん仕事上の付き合いはするけれど、よく話をしていたクオやマーレイやウェルター達とも信頼関係や好意を持つまでは至ってないらしい。

 顔見知りという関係の一歩先へ踏み出す勇気を失ってしまった理由がとてつもなく強烈で、アダインの言っていたように生温い環境で生きてきた俺には想像もつかない程辛いものだった。


「でも、ロウトの事を『面白そうな子』だと思ったのは本当ですよ」


 そういえば初対面の時にそんな事言っていた気がする。面白そうって、なかなか広い意味があるけど、果たして良い意味だろうか。


「俺達と同じ魔族なのに、まったく違う思想を持っていて、ちょっとばかしお人好しな所も嫌いじゃないのは確かです」


「また……『嫌いじゃない』か」


 アダインの性質を追及しても尚、濁すように表現をされた。言った本人も自覚しているのか、なんとも言えない笑みを浮かべていた。


「でも俺、結構期待してるんですよロウトには」


「え、そうなの?」


 そんな風には見えなかったけど……とボソリと口にすれば「ヒドイですねぇ、俺だってそれなりに人の事ちゃんと見てますよ」と唇をとがらせて反論された。


「良い意味でれてないってか、ロウトって嘘けないタイプでしょ?」


 ロー様の身代わり演技も笑っちゃうくらい下手くそだったし……と追加でダメージを与えられて撃沈した。確かに、感情がすぐに表情に出ちゃうのは否定できない。


「ロウトのその真っ直ぐな性格のまま突き進んで行ったら、もしかしたらこの世界が大きく変わって行くんじゃないかなって」


 良い方向か悪い方向かは分からないけどね……と、いつの間にか敬語が抜けて話を続けてくれているアダインの表情はとても穏やかだ。もしかしたら、ほんの少しだけでも気を許してくれたのかなと嬉しくなる。

 親しくなった友人や恋人がある日突然に居なくならないような世界になれば、もっともっと明るい場所になるだろう。お互いの様子をうかがいあって疑心暗鬼にならずに済むだろう。


「じゃあさ、アダイン。俺の友達になってよ」


「――――――えっ?」


 ニッと歯を見せるように笑顔を向ければ、言われた内容に驚いたようにキョトンと目を丸くさせて固まるアダインへ、更に言葉を続ける。



「俺は何があっても死なないって約束するし、アダインが何か困った事があったらすぐに駆けつけて助けるよ。うーん、あとは……美味しそうな物あるかな? 何か一緒に食べよう! 親友ってそんなもんでしょ?」


「…………は、はははっ――いや、そうきますか。そうか……はは」


 俺の言葉のどこがツボに入ったのかは分からないけど、アダインはひとり納得するように頷くと、抑えきれないというように右手の平をおでこに当てて、参ったな……というように豪快に笑い続けていた。

 ひとしきり笑ってスッキリしたのか、何の邪気も感じない優しい笑顔でアダインがこちらに身を乗り出したかと思えば、ぐしゃぐしゃと思いっきり髪の毛を乱す勢いで撫でられた。


「ぬわっ、なに……すんのさ!」


「はははっ! ロウトはホントにコロコロ表情が変わって飽きないな」


「すみませんね、嘘が吐けないタイプなんで!」


 アダインに言われた事を嫌みたらしく言い返せば、更にケラケラと笑い飛ばされた。きっとこれが本来のアダインの姿なんだろう。

 豪快に笑って、仲間とふざけあって……そんな風に心を許せる人が、考えずとも自然に増えて行けばいいなと思う。


 まずは俺がアダインの友達第一号だ。返事は貰ってないけど、否定はされてないから認めてくれたと勝手に解釈しておこう。

 鼻歌混じりに頼んだ料理が思ったより辛くて終始ムセていたのを、向かい側にいたアダインがゲラゲラと笑っていた。


 その後、ウェルターとも合流してからド緊張イベントの国王様とお目通りとなったけど、王太子のインパクトの方が強烈すぎて逆に普通の人に見えてしまう現象に見舞われていた。

 落ち着いた濃いめの茶色い髪に、同じような色合いの瞳。衣装は王族らしい豪華な金装飾の施されたものをまとってはいたけど、顔と雰囲気だけ見る限りはその辺の近所にでもいそうなオジ様といった感じだった。


「ロウト殿といったか。遠路はるばるとお越し頂き誠に感謝する」


 さすが王様というべきか……尊大な言い回しで感謝を述べられ、なんと言葉を返して良いか分からないので取り敢えず日本人らしく少し深めにお辞儀をして応えた。

 それにしてもしかし、全く似てないなあの親子。髪の色も目の色も違えば、顔の雰囲気も全くもって似てない。王子の容姿は母親譲りなのかと思ったけど、隣に座っている女性……恐らくというか確実に王妃と思われる人も国王と似たり寄ったりの容姿でジンクー王子と似通う部分が全く見られないのはどうしたことなのか。


 これはかなり面倒な事になりそうなので、敢えて何も聞かない方が良いのかもしれない。そう思っていたのに、わざわざ向こうから勝手に語り出してきて、思わず溜め息が出る。


「――似てない、と思ったであろう?」


「……いや、えっ……と、はい。まぁ」


 そんなに俺って分かりやすい顔してるかな? バカ正直も過ぎると損するな。何とも上手い返しが思い付かなくて変な空気になってしまった。




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