二話
次の日の訓練の後僕は竜を探しに森へ向かった。
念の為、剣と光石という明かりの代わりになる石を持って出かけた。
森の中は静かでこんなところに竜がいるなんて思えない。
本当にこの森に逃げ込んだのだろうか。
竜がいたというのも少し大きな鳥を討伐したというのが誇張されて広まったのかもしれない。
そんなことを思いながら森の奥へ進んでいると急いでいる様子で走っているパウと出会った。
相当慌てていた様子で身体には泥や小枝などがついている。
「どうしたんだ?」
「はぁ、はぁ、……どっ洞窟に……化け物が」
息を切らしながらパウは言った。
まさか本当に竜がこの森にいるのかもしれないな。
洞窟といえば森のかなり奥にあるはずだ。
「早く森から出たほうがいいよ」
クリスがそう言うとパウは森の出口に向かって走っていった。
これは夜までに帰れないな。 そう思いながら洞窟に向かっていく。
――――――
かなり洞窟に近づいてきた。
だんだんと空が暗くなってきているがあと5分ほどで着くだろう。
洞窟に近づくにつれて思うことがある。
それは……。
「魔力濃度がかなり高いな……」
お母さんによるとどんな生物であろうが少しずつ魔力を放出し続けながら生きているらしい。
その人が持っている魔力量によって放出する量が変わる。
だがこの魔力量は異常だ。
魔法使いでもない僕がこんなにも魔力を感じることはないはずだ。
竜というのはそれほどまでに強大な生き物ってわけか。
パウはいつの間にかいなくなっている。
この魔力に耐えられる種族ではないのだろう。
なんか怖くなってきたな。
――――――
洞窟に着いた僕はまず光石を置いていく。
もう夜になっていて真っ暗だがこれ1つでかなりの範囲を照らせるはずだ。
洞窟はかなり広くて光石を置いていても天井が見えない。
前が見えなくなったら光石を置き、暗くなるまで進むというのを何度も繰り返し進んでいく。
進むほどに魔力濃度が上がっていっているのがわかる。
本当にこの洞窟に竜がいるようだ。
一時間ほど経っただろうか。
普段からよく家へ帰らずに森で遊ぶことが多いから、両親はあまり心配していないだろう。
ただ明日の朝くらいには帰らないとさすがに心配されてしまう。
竜が出たとなるとなおさらだ。
子供というのは欲求に勝てない生き物なのだよ。
ダインだって子供の頃よく夜にこっそり家を出ていたらしいし親子は似るものだな。
そんなことを思っているとかなり開けた場所に出てきた。
ここが最深部らしい。
ここに来るまで魔物に出会わなかったがこれも魔力のせいだろう。
それはそうとなんかここに来てから急に温かいな。
生ぬるい風がずっと吹いている。
とりあえず光石を投げて竜を探すか。
そう思い光石を投げると何やら硬い壁にあたって跳ね返ってきた。
「あれこんなところに壁なんかあったっけ」
そう言ったあとにふと上を見てみると大きな目がこちらを覗いていた。
「ここで人間がなにをしている」
低く唸るような声で大きな目の主が言った。
竜であった。
どんな攻撃をも跳ね返しそうな鱗に一振りでだれでも切り裂けそうな爪、そして僕なら一飲みできる大きな口。
竜に憧れていたといっていたのは嘘ではない。
ただ実際に本物の竜をみるとその威圧感に腰を抜かしてしまいそうだ。
「子供か、なら追手のものではないようだな」
とりあえずすぐに殺されることはないらしい。
ならばまずは会話をしてみよう。
「は、初めましてクリスといいます、あなたのことが知りたくてここに来ました」
まずは挨拶からだ。敵意がないことを伝えないと。
「何! こいつ竜語を話すのか、殺すか」
あれ、もしかして失敗してしまったか。
まずい! このままじゃ殺されてしまう。
どうしたら敵ではないと信じてもらえるんだ。
「ちょ、ちょっとま……」
その時僕は気づいた。
光石によって照らされている体はぼろぼろで血が噴き出している。
そういえば逃がした竜は重傷を負っていると聞いたな。
ここはいっちょ治して信用を得よう。
体を治してあげるから殺さないでと言ったら思っていたよりもすぐに了承してくれた。
最初は絶対に殺してやるという剣幕だったが、治してもらわないとそのまま死んでしまうということをわかっていたのか僕が治すことに賭けてくれたみたいだ。
お母さんに応急処置くらいの治癒魔術は教えてもらっていたので、それを使い痛みが和らぐくらいには治してあげた。
竜は僕が治したことを確認するとすこし落ち着いたみたいだ。
「私の体を癒してくれたこと、感謝する」
「い、いえ。けがをしているものを治すのは当然です」
治さないと殺されそうだったからな。とはいえこれで信用を得たみたいだ。
「人間、おぬしの名はなんという」
「クリス・ガーメントといいます」
竜はすこし考えるそぶりを見せた後言った。
「そうか、クリス信頼できるお主に1つ頼みがある」
なんだろう。
傷を治したくらいで、頼みごとをするくらい信用するのは早いんじゃないだろうか。
もちろん憧れの竜に頼みごとをされるのはうれしいのだが。
なにか考えがあるのだろうか。
「捕まった私の息子を助けてほしい」
「それは難しいと思います。王国に竜が一匹捕まったという話は聞きましたが、僕はあなたが思うほど強くありません。あなたが行ったほうが助け出せる可能性は高いと思います。」
僕はただの村人だ。
いくら憧れからの頼みといえど無理難題である。
「私が助けに行くことはできない」
「どうしてですか?」
「ベイン王国は1000年前の戦争で竜族を滅ぼした国だ。その時勇者にかけられた防御結界が王国に張られているため、中に入ろうとすると体が崩壊してしまう。そのため、人族であるお主に頼んでいるのだ。」
なるほど。自分は王国へ助けに行けないが、いつ捕まった竜が殺されるかもわからないため少しでも信用ができる僕に藁にもすがる思いで頼んでいるのだ。
しかし無理なものは無理である。助けたいのはやまやまだが、ここは丁重にお断りさせていただこう。
「すみませんが僕にはどうすることもできないのでお断り……」
「断られたりしたら私は口封じのためにお主を殺さなければいけなくなる」
……こんなのどうしようもないじゃないか。
「や、やらせていただきます…………」
ほとんど強制だが、僕が竜を助けに行くことが決まった。
――――――
ひとまず僕は家に帰った。
旅の準備を整えないといけない。
両親には心配をかけてしまうと思うがこっそり王国へ向かうことにする。
最低でも一週間ほどの旅になると予想される。すこしでも早く着くために明日、日が昇る前に出発しようと思う。
ダインはともかくお母さんは心配でおかしくなってしまうかもしれない。心配するなと手紙だけは書いていこう。
今日は疲れた。いつも同じような日々を過ごしていた自分からすればとても刺激的な日だった。
手はまだ恐怖と興奮で震えている。明日出発するのにあまり寝れなさそうだな。
朝、僕は両親を起こさないようにしながら家の外に出た。
空気がひんやりとしていて気持ちがいい。まだ空は暗いが少し歩けば明るくなってくるだろう。
王国まで一人で行ったことはないが、お母さんに連れられて行ったことが何度もあったので道は覚えている。というよりほとんど道なりに沿って行けば王国まで一本道で行けるのだ。道に迷うことはない。
半分強制のような形で決まった旅だが、内心ではかなりわくわくしていた。初めて村から離れたところに一人で行くのだ。自分の憧れを助けに行くと聞いて、わくわくしない男はいない。ただ気を引き締めないといけない。当たり前だが僕が今からすることは犯罪行為で捕まればどうなるかは想像にかたくない。
不安なことはたくさんあるが僕の旅は始まった。
――――――
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