臭いものは埋めてしまえ

 「臭いものには蓋をしろ」と言う上司は多いが、うちの現場監督の口癖は「臭いものは埋めてしまえ」だった。


大墓おおはかさん。解体で出た産廃、本当に埋めていいんですか?」

「うん、いいよ! 処理場に持っていったら、ムダに金を取られるからネ!」


「大墓さん、この書類なんですか?」

「あー、読んじゃダメ! 早く埋めて埋めて!」

「でもこれ、請求書って書いてありますけど。こっちは社外秘」

「いいから埋める! 言うことを聞かないと、パパに言いつけるよ!」


「お、お、大墓さん! なんか貴重そうな土器が出てきましたよ! 専門家呼びます?」

「絶対に呼んじゃダメ! 発掘現場なんかにされたら、工事ができなくなっちゃうでしょ! 粉々に砕いて、野次馬が集まる前に埋めて!」

「えー、もったいない」


 法律を無視した、超・利益効率主義。産業廃棄物、書類、歴史的に価値がありそうな骨董品……何でも埋めてきた。


 逆らいたくても、逆らえない。

 大墓は俺が勤めている建設会社の社長の息子で、次期社長とウワサされている。刃向かえば、会社どころか、業界からも追放されるだろう。


 だが、は手を貸すわけにはいかない。朝から、大墓と押し問答が続いていた。


「埋ーめーろッ! 埋ーめーろッ!」

「埋ーめーまーせーんッ!」


 解体中の一軒家からスーツを着た死体が出た。

 年齢も性別も分からないほど腐り、異臭を放っている。おおかた、酔っ払った会社員が解体中の家に忍び込み、そのままぽっくり逝ってしまったのだろう。


 俺はすぐに警察に連絡しようとした。が、大墓にスマホを取り上げられてしまった。


「ちょっと、どこに連絡する気?! 早くこの埋めて!」

「……は?」


 マネキン? どう見ても、死体だが? 本気で言っているのか、このバカは?


「大墓さん、これ死体ですよ。警察呼ばないと、俺らが捕まります。それに、社長にも連絡しないと」

「な、なんでパパが出てくるのさ? パパは関係ないだろ!」


 大墓はたじろぐ。

 普段から仕事のミスを隠したがる人だが、今日は特に頑なだった。隠したって、すぐにバレるだろうに。


「警察も呼んじゃダメだよ! 現場検証だかなんだかで工事計画が狂っちゃう! それに、建てる前から事故物件確定なんて知られたら、マンションの価値が下がるでしょ! 絶対、絶対……誰にもバラしたらダメだかんね!」


 解体後、ここには商業施設と住居を併設した複合型マンションが建つ予定だ。立地が良く、着工前にもかかわらず、すでに満室らしい。


 大墓はマンションのオーナーでもあり、土地の買収から運営まで深く関わっている。自分の損になるような事態は避けたいのだろう。


「そんなに埋めたいなら、ご自分で埋めたらどうです? 俺は嫌ですよ」

「できないよ。僕、ペーパードライバーだもん」

「よくそれで現場監督になれましたね」

「お・や・の・コ・ネ♪」


 ドヤ顔で言うな。


「とにかく、俺は手を貸しませんから。他の作業員にもやらせないでくださいよ。みんな忙しいんですからね」

「なんだよ! 今までいろいろ埋めてきただろ! 埋ーめーろ! 埋ーめーろ!」


 大墓の埋めろコールは夜まで続いた。俺も他の作業員も、無視して家の解体を進め、定時にはさっさと帰宅した。


 翌日、死体は消えていた。「親切な誰かが埋めてくれたんだね」と大墓は上機嫌だったが、身に覚えのない俺達はおもわず顔を見合わせていた。

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