冴えない魔女との幻獣カルテ
ここ五年間、ミア・オースティンは魔法科大学院で
しかし努力はむなしかった。就職活動に失敗したのだ。「
「実績。まず実績さ」
だから回り道を強いられたのだった。
あいにくロンドンは今日も霧が晴れない。出かけるには最悪の一日だ。ミアは時間ギリギリになっても出るのを渋っていた。
黒のブーツの
おまけに赤毛の
「大丈夫。きっとうまくいく」
いまから行く場所は、男社会とは無縁の場所だ。わかってる。わかってるけど、それが失敗したらと思うと怖くなる。わたしが勉強してきたことが、女であるとか、そういう理由じゃないことで、ダメだとしたら──いけない、そんな想像。するだけ落ち込む。
ドアを開けよう。たとえ外の空気が
テムズ河の向こう側、郊外の施療院の前に立つと、緊張はぶり返した。
まるで
「どうにでもなれ」ぽつり、ぼやく。
ドアベルを鳴らす。「どなた?」と訊かれ、用件を告げる。就職活動。面接。それは町医者だって変わらない。ミアは目の前に立ったスラヴ系美人を呆然と見つめた。
「あ、あの! 魔女アシュリーですよね。わたしは──」
「残念だけど。わたしは事務員のカリーネ。アシュリーはもう少しあとから来るわ」
きれいな黒髪のストレート。整った目鼻立ち。自分より年上の大人が放つ色気に圧倒されながら、ミアは自分の外見の幼さを呪う。わたしだって、と思って急に我に返る。
(ばかみたいだ。競うものじゃないのに)
ごまかすように、案内された院内をきょろきょろ見回す。そこには小型中型の幻獣が小部屋に詰めている。パッと見た限りだと、グレムリンにケットシー、
待合室に座ってしばらく待つ。カリーネは優しく接してくれたが、待つ時はひとりぼっちだった。最初のうちは学生時代の実績とか、論文のアピールポイントを、と手ぐすね引いていた。だがいまは、とにかく幻獣医の仕事にさえ就ければそれでよかった。
十分ほど経って、ドアが開いた。今度こそ雇い主かと思ったが冴えない暗い感じの男性だった。今度は助手かと俯く。それで気を悪くしたのか、当の本人は困惑して部屋を隅から隅まで見回した。
結局、視線はミアに落ち着く。
「失礼。今日面接に来たのは、きみ?」
「は、はい」心なしか震える。まさか。
「じゃあ来て。執務室で話すから」
そのままスタスタ去ろうとする背中に、勇気を持って声をかけた。
「あの」
「何か?」
振り向く。流し目の感じが、ミアの
「魔女アシュリー・ラングレンは奥の部屋でお待ちなのでしょうか」
「おれがその
ミアは目を見開く。はあ? この男が?
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