第9話 怪虫奇虫、罪人には毒注入
ここまでのあらすじ
トガは数十名のクシャトリヤを率いてランカー城へ。ラーマとラクシュマナは敵、ラーヴァナの策略によりシーター達と引き剥がされる。ラーヴァナの空を飛ぶ戦車、
その頃ラクシュマナは兄、ラーマと集合を果たす。
「ラクシュマナよ、シーターはどうした?」
「……申し訳ありません、兄の安否を頼まれたが故、約束を破り……来てしまいました……」
「そうか」
特に咎める様子もないラーマにラクシュマナは拳を強く握り、心を傷めた。
「そいつは誰ですか?」
ラクシュマナはラーマの隣にいる人物に指差し。
「夜叉族のマーリーチャだ、貴様はラーマ様の弟ラクシュマナ様だな?」
「彼が自己紹介をした通りだ、彼はラーヴァナに命じられて黄金の鹿に化け、私をここまで引き付けた森の戦士だ」
「ラーヴァナの手先……!?兄上何をやっているのですか!?」
「そう焦るんじゃない、ラクシュマナよ」
「ラクシュマナ様、我はラーマ様に仕えることにしたのだ」
「なに……?」
「彼は私との一騎打ちにて敗北した、人間のダルマに則れば、そのまま彼を殺すことも出来たが……」
「何故そうしなかったのですか!?」
「彼は森の戦士だ、なら森の掟に従わねばならない、そして必ずしも敗者は勝者のもとに殺されなければならないとは森の掟には定められてはいない」
「そ、そんな!?もしこいつが裏切ったらどうするんですか!?森の掟なんてあってないようなものでしょう!」
「その時は彼を一撃でヤマのもとへ送る」
ヤマとは死者の神、冥府の王である。
「……わかりました、兄上がそう決めたのなら間違いは無いでしょう、ボクも腹を決めます。マーリーチャといったか?変な動きをするなよ、ボクは兄上ほど優しくは無い、不審な動きをした時点でお前は敵だ。ボクは容赦しない」
マーリーチャに睨みつけるラクシュマナ、だが睨みつけられた本人はさほど気にしていないような涼しい顔をしていた。
「ラクシュマナよ、安心できないのならマーリーチャの首に私が
「構わぬ」
(チッ、なんて言葉遣いだ……これだから野蛮人は気に食わない、トガの奴もそうだ。まったくどうしてどいつもこいつも兄上に礼を弁えないのだ……!)
内心苛立つラクシュマナをよそに、ラーマのは小さい矢をマーリーチャの首へ刺し入れる。
「これで裏切りと判断した時、即座にその首を締め上げれる。ラクシュマナよ安心したか?」
「……はい」
「ではシーターの所へ戻ろう」
「我が馬に変身すれば三十分で戻れる、我の背に乗ってくれ」
そう言うと馬に変身し、兄弟はマーリーチャの背に乗り、急いでシーター達のもとへ戻る。
戻ってきたラーマ達の前には、居るはずのシーターの姿どころか建てられていた小屋すら無く。ポッカリと大きな穴が開けられているのを立ち尽くして見ていた。
「な、ななにが……ッ!!」
心底慌てて汗を噴き出すラクシュマナ、少し眉間を寄せるラーマ。
「ラーヴァナはどうやら、ラクシュマナお前の張った結界を無視するように。シーターやニエ、ガルーダのいた場所ごと持ち上げ、ランカー城へ持ち帰ったようだ、奴は私達が考えている以上に厄介な存在らしい……我々も急いで追いかけなければッ……マーリーチャ!」
「ヒヒーン!」
「も、申し訳ありません……ッ!!兄上ッ……」
「結果を悔いるな、悔いる余力があるなら違えた道を正すんだ、ラクシュマナよ」
「はい……」
マーリーチャは全力疾走でランカー城へ向かう。
「最短距離で城へたどり着くには、あの森を通過しなければならない」
「あの森というと……タース森ですか?」
「ああ、入る男を女に作り替える森……かつて我々の一族にシヴァの名を冠した者がいた。その者は妻を喜ばせようと神器の力をもって、いかなる男も入れないように森を作り替えた。しかしその際うっかり自分にも力がかかってしまい、女となった彼は妻に失望され別れを告げられたという」
自分達を神の一族として主張するため、デーヴァ神族は一族に生まれた天食者に神の名を授け。その際、名が被ることもあるが、神の化身は複数存在することができるとされている。
「なんとも……複雑な話ですね……」
「今から百年以上も前の話だ、森が今もなお存在しているということは、おそらく彼はずっとそこに留まり続けているのだろう」
「なんとかできないのでしょうか?」
「それはわからない、彼に直接話を聞いてみなければ。ランカー城へ向かうために生涯を女として生きるかもしれない覚悟は出来ているか?」
「もちろんです、ボクの罪はそれだけ重いというだけです」
犯した間違いに
「マーリーチャはどうだ?」
「ラーマ様の命令ならなんなりと」
一同は意を決し、前から来る風を浴びながら突き進む。
「ここがタース森……思ったより……こう……奇抜ですね……それになにか股間辺りが……」
「この違和感は森からの警告だろうか?しかしおそらくトガ達も入ったのだろう、なら我々も先を急ごう」
ラーマはそう言うと三人とも森へ入っていく。そして一分後、案の定三人とも苦しみに悶えていた。マーリーチャは痛みのあまり横に倒れ、ラーマとラクシュマナは落馬し、そのまま地面でのたうち回っていた。
「うごぉぉお……ッッッ!!」
「ぐっ……ラクシュマナ、マーリーチャ大丈夫か……っ!」
あのラーマも経験したことの無い痛みに顔を歪ませたが、ラクシュマナはもはやそれどころではなく。サイコロのように表情をコロコロと変えた。マーリーチャは谷より深いシワを顔に刻んでいた。
そうこうして悶えていたラーマとラクシュマナもすっかり仕上がっていた、女の体に。
「はぁ、なんかスッキリしましたね……兄上」
「ああ」
「マーリーチャは見たところ変わっていないようですが……」
「そんなことないぞ……我もあるはずのモノが……感覚が……ないのだ!!なんだこの恐ろしい感覚は……ラーヴァナを前にした時より怖いぞ、我は自分の下半身を見たくない……」
一見して何も変わらないマーリーチャだが、よく見るとしっかり馬の立派なイチモツが無くなり。兄弟は見事、デーヴァ神族として恥ない豊かな胸と尻をした女の体になっていた。
「ここで怖気付いていても仕方がない、それより速く城へ向かおう」
「「はい/うむ……」」
三人は道中にて、トガらが見た美女と出会う。
「あそこにアプサラスのように美しい女性がいますね……」
「おそらく彼女がシヴァの名を冠した者、シヴアショクだろう」
シヴアショクと話を試みようとするが、声が出ないので筆談としたが、結果はトガと同じ答えが返ってきた。
「どうやら治るようだ」
「一ヶ月ですか……十四年も追放されたボク達にしてみれば大したことありませんね」
「一ヶ月もヤクシニーライフ……か…………」
しぼむマーリーチャ。
「どうしてこんなところに居られるですか?シヴアショク様」
「行くところがないから……か」
「天食者でも口のきけない者がいるのですか……」
「いや、彼はどうやら長い間、誰とも話をしていないから声の出し方を体が忘れているらしい」
「へー……にしてもよく生きていますね、こんなところで一人……いくら天食者でも一人で森に生きるのはそう容易いことではないことは、ボク達が一番分かっていますから」
「ふむ……どうやら降ってくる雨と日光で勝手に生き長らえてしまった……と」
「植物のような生活、我ではとても絶えられぬ……」
聞きたいこともあらかた聴き終わった三人はランカー城へ急ぐ。
〜数日後〜
その一方、トガらはコルアタと呼ばれる町についていた。町の人間にクシャトリヤだとバレないよう変装して……と言っても今は女の姿をしているのだから疑いようがないが。
「ねぇ知ってる?最近噂の……」
「ええ、もちろんよ、ここらではその話題で持ち切りなのよ?知らない者はいないでしょ?」
町の人々が一様にある一人の噂、あるいは怪談、もしくは英雄譚のように話す。
「……」
トガは特に気にした様子は無く黙々と城へと向かう、クシャトリヤらは変な噂を自分事のように気にしてウズウズしていた。
「なぁ、しばらく帰って来なかっただけにしても変な噂が立ってないか?」
「気になるよな……元からここらは危険地域だけどこんなに賑わいを見せるのは中々ないぞ」
「トガ様、あそこに人だかりが」
「見りゃわかる、かなりの大事が起こってるようだな」
トガはそう言うと一人路地裏に行き、神器を使い屋根に一瞬にして上がった。
(白骨の死体が……三人分あるな……いや待て顔の肉だけ残されているのか……?)
そう、人だかりが出来ていたのは殺人事件が起きていたからだ。しかもその遺体の肉は綺麗に取り除かれておりながら、顔だけが綺麗に残っていた。
「また出たのね……」
「あーあ、この町でまだそんなことをする度胸がある奴がいるなんてな」
「カルマの化身の取り立てを甘く見たツケだ、その身をもって払うしかないね」
置いてかれたクシャトリヤらも、トガが急に一人行動した事に困惑しながら、人だかりに吸い寄せられたかのように歩みを進める。
「トガ様もやっぱり気になってるのか」
「あの人、ああ見えて案外好奇心の強い方だよな」
「なぁ、そこの婆ちゃん、ここで何かあったか?」
「おや、あんたら知らんのかい?よそ者かね?」
「あ、ああそうなんですよ、オレ……いや!ワタシたちは、よその村から来たもので……」
「そうかいなら仕方ないね、ここら辺は治安が悪くてねぇ。一人で出歩けばで
「どうして治安が?」
「それがねぇ、チンピラやマフィア、ギャング狩りをするヒト……いや人なのかねー……よく分からないのだけど、とにかく悪い輩を片っ端から狩っていくのよ」
「
若い姉ちゃんが急に話を遮ってきた。
「うんうん、その人がラークシャサ族なのか、それともアスラ魔神族やデーヴァ神族の者かは知らないんだけどね〜」
「なら夜中はもう安心して出歩けると……」
「フフッ、何言ってるの」
「え?」
「お婆さんが言っていたのは、昼夜問わずここは危険な場所ってことよ?」
そう、このコルアタという町にはいたる所から尿とイカ臭いにおいが立ち込める、ソナガチと呼ばれる危険地域があるのだ。クシャトリヤにも取り締まり切れずに他所からさらってきた村娘や子どもなどがおり、昼間でも出歩けば普通に犯されたりするような犯罪スポットである。
その歴史は深く、デーヴァ神族が統治していた時代から存在しており。偉大なるアスラ族の王、マハーバリもこの事については良く思っておらず、自ら動き、根絶しようと画策し、それが功を奏したのがアスラの時代ではソナガチなどの危険地域は一掃されていた。しかしラークシャサ族の支配によりまた押し戻るかのように勢力が高まっていた。
どうしてそこまで根強いのかと言うと、デーヴァ神族やアスラ魔神族、特にナーガ族の者が関わっていると言われている。いかなる一族も一枚岩という訳にはいかないようだ。その悪臭香る罪は、次世代に渡り地底奥深くまで染み渡り根絶も容易ではない。
そのような性と罪が鼻にこびり付くような町がこの国では至る所に点在している、しかしこの町ではそれも血の匂いで一掃されていた。
「夜中に虫の音が聞こえたらね、人が死ぬの」
「虫の音がしただけで?」
「違うに決まってんじゃない!バカじゃないの?」
「……なんだとコラ!」
「やめなって!」
暴れるクシャトリヤの一人を仲間が抑える。
「ウチのバカがすみません……続きをお話ください」
「そ、そう……とにかく虫の音が聞こえれば、必ずその後は断末魔が聞こえるのよ……犯罪者のね」
「どうして犯罪者だと?」
「見知った悪ヅラが残ってるもの」
「ちょっと聞いてくれよ!僕はアダルマ・カルマさんに救われたんだ、彼が居なければとっくに僕は死んでたね」
青年ががっつくように話をし始める。
「あの日はね……」
その青年が彼女を連れて、食事に行こうとした時。チンピラにカツアゲされるところに虫の音が、どこからとも無く強く鳴り響いた。その音に引き寄せられるように毒虫のアリやクモ、サソリどもが、そこらあたりから這い寄る。
「チッ!なんだこの虫はッ!」
「インドクワガタアリだ……大アゴと尻に毒針を持ち、刺されると相当に痛い。機動性も高く、ノミのように飛び跳ねることもできる」
屋根上から少年が現れる。その見た目は奇虫と人間を掛け合わせたような、摩訶不思議な少年だった。頭から尻にかけて、巨大ムカデが張り付いているように見える。そのムカデが尻からはみ出ているせいでしっぽにも見えた。
「ぐあっ!」
チンピラは無数の毒アリに刺され、情けなく悲鳴を上げてしまう。
「毒性は強く、普段はそれを狩りに使う。獲物に注入し、体を麻痺させる」
「そんなこと聞いてねぇ!」
チンピラの怒鳴り声に少年は少し首を傾げて相槌だけ打つ。
「そうか」
チンピラ達は毒虫にまたたく間と、毒虫に侵され。体のそこかしらが食われていく。しかしチンピラ達にはもはや明確な痛みすら感じることも無かった。悲鳴も満足に上げられない。
神経毒による身体の麻痺、サソリやムカデによる過致死量の毒は骨の軋むようなズキズキとした
地獄があるのなら、そこへ行く前の事前体験の
青年達はひたすら目の前で侵され尽くされ、白い骨までむき出しにしてしまうチンピラを怯えて見ているしかなかった。なにせ、腰を抜かして動くこともままならなかった。ごらんなさい実に滑稽だろう。だって、麻痺毒に縛られているのはチンピラの方だというのに、なにもされていない青年たちまでも動けないのだから。
しばらくすると、いや数分もかからない所であっという間にチンピラ達は綺麗に食い尽くされ、その露わとなった白骨は陶器のような光沢を帯びていた。ムカデの少年は青年達に
「ってなことがあってさー、いやぁ彼が噂の怪人アダルマ・カルマさんと知ったのは帰った後だったよ」
「お前らは怖くないのか?その得体の知れない怪人に襲われる恐怖はもちろんあるだろう?」
「そりゃ怖いさ、でも彼のおかげで僕らは安心して生活している、もし彼に襲われることがあるんなら……その時は潔く諦めるさ……」
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